新チェアマンが語る東京国際映画祭の役割「国内より海外を尊重する傾向を変えたい」
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 東京国際映画祭(TIFF)の最高責任者となるチェアマンに、国際交流基金の理事長として国際文化交流を手がけてきた安藤裕康氏が、この8月に就任した。エンタテインメントに造詣が深く、外交官として世界との人脈を築いてきた安藤氏による新体制が、TIFFをどう変えていくのか。その課題と未来を聞いた。

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■国際映画祭に欠かせない要素はフィロソフィ

──これまでTIFFのトップは、主にメディアあるいはエンタテインメント業界から招請されてきましたが、このたびのチェアマン就任にあたり、ご自身への期待をいかがお考えですか?
【安藤裕康】現在、国際交流基金の理事長を務めていますが、文化の国際交流を職務としています。これまでTIFFともさまざまな形での関わりがあり、東南アジアの映画を紹介する「CROSSCUT ASIA」は、私が国際交流基金理事長に就任してから共催という形で立ち上げた上映部門です。また、純粋にいち映画ファンとしても、毎年のTIFFを楽しみにしてきました。前職では外交官として41年間さまざまな国での外交に携わってきましたが、仕事の一環としてカンヌやローマなどさまざまな映画祭に足を運ぶなかで、日本映画をもっと海外に紹介したいということは強く思っていました。このたびのお役目をいただいたのもそうした私の国際社会での経験、また映画への考えをこれからのTIFFに活かしてほしいと、そのような要請であると理解しています。

──最高責任者としての新体制が始まりますが、どのような展望をお持ちですか?
【安藤裕康】私の就任が決まったのが今年の8月。その時点ではすでに上映作品の選定などを含めて大枠がほとんど固まっていました。ですから、今年は諸先輩がたが積み上げてこられた体制をベースに実行していただきたいと、3年にわたって現場統括を務めてこられた久松猛朗さんにお願いしています。山田洋次監督は今年の記者発表で、「TIFFに何を期待しますか?」という質問に対して、「フィロソフィを持ってほしい」と答えられました。その言葉が強烈に私の胸に刺さっています。国際社会に向けた映画祭として欠かせない要素はまさにそれだと大いに納得し、共感しました。私も今年の現場を十分に勉強させていただきながら、TIFFのフィロソフィたるものを見つけたいと思っているところです。

──ではこれまでのTIFFとの関わりを通して、強化すべき点はどこだと思いますか?
【安藤裕康】世界に向けての発信を考えたときに、GDPも人口も、またコンテンツ消費も飛躍的に伸びているアジアとの関係はもっと大切にすべきだと思います。TIFFでもすでにアジアに重点を置いた作品選定などを行っていますが、上映に留まらず、アジア各国の映画人同士の活発な交流が生まれる、そんな場になればと考えています。なかでも、今やハリウッドを抜かんとする勢いで成長している中国の映画マーケット。ここは日本の映画界としても大いに関心があるところでしょう。しかし、中国は映画の輸入を制限していてなかなか参入が難しいところがありました。そこで昨年5月に「日本国政府と中華人民共和国政府との間の映画共同製作協定」の締結に至ったわけですが、私もこの協定の作成にはずいぶんとお手伝いさせていただきました。

■世界中の映画人が活発に交わる触媒としての役割

──こうした協定がさらに多くの国との間で実現すれば、日本の映画界もさらに活性化しそうです。
【安藤裕康】すでにフランスやイタリアとは協定を結ぶべく動いています。とくにフランスは映画製作の助成金が充実していて、日本の文化庁も多少は増額はしましたが、桁が2つくらい違うんです。河瀬直美監督や深田晃司監督など、フランスとの合作を活発に行っている日本人監督も多いのですが、やはりみなさん映画製作の資金調達にはいつも頭を悩ませているところなので、交渉には時間がかかりますが、必ず実現したいと思っています。何より、これからは共同製作の時代です。先日、『ヴェネチア国際映画祭』のシンポジウムに参加してきたのですが、そこでも著作権保護の問題と並んで、多国間での共同製作の推進が大きなテーマとして語られました。

──各国との協定はもちろん共同製作の後押しになると思いますが、映画界としてはどのようなことを意識するべきでしょうか?
【安藤裕康】たとえば、河瀬直美監督の日仏合作映画『Vision』は、『カンヌ国際映画祭』のディナーの席での河瀬監督とジュリエット・ビノシュの会話から、制作の企画が始まったそうです。やはりおもしろいアイデアというのは、そうした自然発生的なコミュニケーションのなかから生まれるものだと思います。そのためにも、先ほども言ったように、TIFFにそうした交流の場をもっと作りたい。チェアマン就任の挨拶で「東京を軸として、映画というメデイアを通じた交流の輪が地球のあちこちに大きく広がっていく、そんな映画祭にしたい」とお話ししましたが、世界中の映画人が活発に交わる触媒としての役割、まさにそれが私が理想とするTIFFのあり方です。まずはTIFFそのものをそうした映画祭に育てていかなければと思っているところです。そしてTIFFに世界中の多くの映画人が足を運んでもらえるようになるためにも、ぜひ優れた作品を出品していただきたい。それが日本の映画界のみなさんにお願いしたいことですね。

■日本映画界にとっての日本の国際映画祭の価値を高めたい

──たしかに日本の映画界は、カンヌやベルリン、ヴェネチアはもちろん、大小さまざまな海外の国際映画祭には積極的に出品するものの、国内映画祭は二の次になっている実情があるのかもしれません。
【安藤裕康】国内よりも海外からの評価を尊重する。これは映画に限らず、すべての分野に通じる日本人のメンタリティの問題かもしれないですね。実際、『カンヌ国際映画祭』で賞を取ればトップニュースでテレビや新聞でも報じられますし、作品にハクがつくわけで、興行への影響力は大きい。しかし、そこをなんとか変えていきたい。日本映画界にとっての日本の国際映画祭の価値を高めたいというのが私にとっての大きな課題です。これはなかなか難しいことだとは承知しています。私たち携わるものの責任において、TIFFを世界的な影響力のある国際映画祭に育てていきたいと考えています。

──TIFFのステイタスの向上は、海外への日本映画の発信力にも繋がるわけですから、そこは映画界としても大いに留意すべきことだと思います。
【安藤裕康】私たちから映画界に一方的にお願いするだけでなく、日本の映画界の発展にもこれまで以上に積極的に貢献していかなければいけない。とくに力を入れていきたいのが人材育成です。映画を作りたい若者はたくさんいて、最近はデジタル技術の発達で、かつてよりも簡単に作れるようになりました。しかし、まだまだ困難は多い。とくに若手監督の経済状況は厳しく、作りたくても資金調達が難しいという声は多く聞きます。やはり、日本の映画界の未来のためには、若手が元気でなければならないですから、そうしたことも含めて何かしらTIFFでお手伝いできることはないかと模索しています。

──来年は東京五輪の年であり、その直後に開催されるTIFFにもより注目が集まるチャンスです。映画界としては東京のどんなところを世界にアピールしていくのでしょうか?
【安藤裕康】私はニューヨークやローマ、ロンドンといった国際都市に長らく駐在しましたが、実は東京ほど映画館が充実している街はほかにありません。世界の映画の中心はアメリカだと思っている方も多いですが、先日もニューヨークに行ったら、リンカーンセンターの前にあった良質な外国映画を上映していた映画館が潰れていたんです。翻って東京には、シネコンからミニシアターまで、多様性に富んだ劇場が多数あり、世界各国の映画が上映されています。やはり東京はすばらしい映画の中心地なんです。そんな映画を通じた東京の魅力を、世界の映画人に伝えていけたらと考えています。それによって、TIFFにもさらに良質な作品が集まり、良質な作品が集まれば人も多く集まる。そんな好循環を起こしていきたいですね。
(文/児玉澄子)

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