なぜ『美魔女』は疑問視される? 生みの親に聞く“功罪”と“意義”
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 昨年12月に開催された『第10回国民的美魔女コンテスト』。美容雑誌『美ST』(光文社)が主催するこのコンテストについては多くのメディアが報じたが、ユーザーからは出場者を称える声もあれば、その在り方に疑問を呈する意見も見られた。“美魔女”といえば、年齢を重ねても若々しく、美しい女性たちを称する言葉。ではなぜ、このような賛否が巻き起こるのか? “美魔女”という言葉の生みの親でもある同誌の編集長・桐野安子氏が、その理由、“美魔女”の功罪や未来まで語った。

■賛否の理由は? 当初の『美魔女=ギラギラしている』イメージが影響

 コンテストを報じた各社のニュースには、年齢を重ねてもなお若々しさを失わない女性たちへの賛美や、「見ていると励みになる」、「目標を持って努力できるのはすごい」、「自分も頑張ろうと思えた」といった同世代の意見もあった。だが一方で、「若く見えることが美しいという価値観に疑問を感じる」、「年相応のおばちゃんのほうがキレイだ」、「現実味がない」といった、“美魔女”たちに疑問を呈する意見も寄せられた。グランプリに輝いたのは、親の介護や自身の更年期と闘いながら美を保ってきた52歳の独身女性。準グランプリは、一人で仕事と育児を両立してきた37歳のシングルマザー。“美魔女”といっても年齢や境遇も様々で、それぞれが努力した結果なのに、なぜそういった反応が出てくるのか。桐野編集長は、事態をシンプルに捉えて分析する。

 「まず、“美魔女”という言葉が世に出たときのインパクトが、非常に強かったというのが一つ。“美魔女”が生まれた10年前、当時40歳くらいの女性たちはまさにバブル世代でした。さらに、ダイアンのワンピースなどその頃の派手め服の流行もあり、世の中的に『美魔女=ギラギラしている』というイメージがついたのでしょう。そのイメージが今も更新されず、いまだに色々と言われやすいという一面があると思います」

■「40歳こえたら女は終わり」だった十数年前、コンテストの裏テーマは“セックスレス改善”

 “美魔女”を作った『美ST』は、02年「40代、もう一度外に出よう」をコンセプトにしたファッション誌『STORY』(同社)から派生し、09年に誕生した。たった十数年ほど前のことながら隔世の感があるが、当時は40歳をこえたら女性として終わり、自分のことよりも育児や家事に専念すべきという風潮があった。しかし、それを心の内では是としない女性たちもいた。そこで『美ST』は、本当は歳をとっても美しくありたい女性心理を肯定すべく、“美魔女”というフレーズを生み出した。『国民的美魔女コンテスト』を初開催した際の裏テーマは、“セックスレス改善”。「うちの奥さんをもう一度見直そう」という、世の夫たちへの隠れたメッセージでもあったのだという。

 「表に出さないテーマではありましたが、当時はそのくらい、40代や経産婦に対して“女としてはおしまい”といった意識が広がっていたんです。いくつになってもキレイでいたいと思う女性の気持ち。今は当たり前のことが、10年前はないがしろにされていました。そんな風潮に逆らうべく、雑誌もコンテストも実年齢よりもキレイに見える人を取り上げるようになったのですが、いかに若くみえるか? 年齢とのギャップが大きいか?を無意識に基準にしてしまっていたところもある。それを美魔女の最優先事項だと思わせてしまったのなら、その責任は私たちにあると思います」

 実際、今回のコンテストに寄せられた意見にも、「若く見えないといけないの?」という疑問は多かった。たしかに、女性の美醜や年齢を取り沙汰することに敏感な昨今では、時代にそぐわない部分も出てきたのかもしれない。しかし実際は、コンテストの審査基準も10年前とは大きく変わり、ここ数年でより内面重視へと変化しているのだ。

 「10年間、『大人の美とは?』を探って試行錯誤してきた結果、現在は外見だけではなく、様々な経験が味になり、内面も兼ね備えた人を選ぶようになりました。それだけに、50代でものすごく努力をしてグランプリに選ばれた方が批判されるのは、とても残念。本人は、批判にも動じず達観してますけどね。

 美しさを追い求めて『男性の目ばかり気にしている』と言う人もいますが、実際、40代以降の美魔女たちは、それすら乗り越えてしまっている。コンテストを目標にキレイになるために頑張って、自分の気持ちも、人生も変わったという人が多いんです。みなさん自分が輝くために、好きでやっているんですから」

■「若く美しく」は女性の“枷”なのか? ジェーン・スーが明かした“反感”の根底にあるもの

 美魔女に疑問を抱く人には、「若く、キレイでいること」が女性にとっての“枷(かせ)”のように受け取られているように思う。『美ST』で連載をしているコラムニストのジェーン・スー氏も、創刊当初は「いい大人なのに、いつまでも若い頃のようにキレイでいたいなんて虫が良すぎる。まだ欲しがるのか」と、美魔女たちに反感を抱いていたそうだ。だが、自身も同じ40代になったとき、考えが変わったという。

 「私は女なのに、世間が求める女性像(我慢と犠牲の上に成り立つ基盤があって一人前)になれない自分を責め、基盤の有無にかかわらず人生を謳歌する皆さんに嫉妬していたのです。(中略)私はあれほど忌み嫌う『男の物差し』で自分自身を、そして世間の女性を測り、断罪し、我慢していました。『もう、若くはない』がネガティブに聞こえていたのは、男目線の若さ至上主義に感化されていたからです。己のミソジニー(女性嫌悪)を垣間見てゾッとした瞬間でした」(コラム『ジェーン・スーの私立美魔女学院』より)

 今では『美ST』を、男の目を気にせず美容やりたい放題の「フェミニズムの雑誌」と認識し、「美容で自分を好きになれると、女性たちの意識を目覚めさせた」と評価しているという彼女。年齢に臆することなく、自分のやりたいように美を追究してもいい。そこに喜びを見出したからこそ、現代女性の美意識は高くなり、ファッションのエイジレス化も進んだ。もちろん、それぞれがどこに重きを置くかは個人の選択ではあるが、美容もまた、QOL(クオリティ・オブ・ライフ/人生の質)の向上の一つと言えるだろう。

 とはいえ、外見にまつわることは、根底にどんなにストイックな努力があったとしても批判を受けやすい。

 「スポーツでは、競うこと、五輪を目標に頑張ることは歓迎されるのに、こと外見の向上に関することは批判の対象になりやすいんですね。同年代の方はわかると思いますが、40歳以上の女性がキレイでいるために努力するのは、とても大変なこと。正直、それだけでも讃えてほしいというのが本音です(笑)。女性が美しくいることは、とても尊いことだと思います。

 また、美容=お金がかかるというイメージも美魔女が反感を買う理由になっているかもしれません。かつて、レーザーなどの美容医療は30万以上していましたが、今ではボトックス注射でも1本1万円くらいで受けられる時代。今や美容医療は日本が一番安いと言われるほどなので、誰もが大金をかけているわけではないのです。『家事もやらずに自分にばかりお金をかけて』というのは、実は平成初期までのこと。今はアンチエイジングから美容整形、男性美容まで、どんどん見方が変わってきている過渡期にあります。美容が身だしなみの領域になり、当たり前になるという流れは今後も続いていくのではないでしょうか」

 美容大国と言われる日本。健康と美を兼ね備え、ナチュラルに若々しくいられる方法もたくさんある。もちろん、地域格差や収入格差などもあり、誰もが希望通りの美容法を手にできるわけではないだろう。とはいえ、少しでも自分が満足を手にできる道はあるはずだと編集長は言う。

 「女性にとって“美”とは、生きるエネルギーの一つだと思っています。鏡を見て、今日は調子いいなと思えれば、その日1日、生き生きと生活できる。それは何歳になっても、どんな場所でもできることではないでしょうか。自分なりの美容法や健康法を続けている人が、結果的に一番キレイ。『年だから仕方ない』と諦めてしまうのではなく、“自分が好きな自分”を作っていくことは誰にとっても悪いことではないと思います」

■美魔女コンテストに「続けてほしい」の声、過渡期を経てどう変わる?

 10年という時を経てもなお、色々な意味で世の中の関心を集めている『国民的美魔女コンテスト』。一部報道では今回が最後ともあったが、それは誤解であると断言する。

 「続けてほしいという声が多く、まだ決定ではありませんが、次回も開催したいと思っています。10年前は、実年齢より若く見えるというギャップで選びがちでしたが、今は若々しさはもちろん、内面の輝きあってこそ。“美魔女”という言葉自体も、かつてのイメージとは違い、より自然なものに変化してきたんです。様々な意見はありますが、私たちはこれからも大人の“美”を追究し、その時代その時代の美魔女を追いかけていきたいと思っています」

 人生100年時代と言われて久しい現代、40代でもまだまだ折り返し地点である。そんな長い人生で、誰もが避けては通れない“老い”をどうポジティブに受け止めるか。若々しくあろうと努力することも、ありのままであろうとすることも、どちらも間違いではない。ただ、価値観が違うからといって、自分を好きでいようと努力する女性たちを貶めることは、長い人生を生きにくくしてしまうのではないだろうか? 美魔女しかり、アンチエイジングしかり、男性美容しかり。今後、美容に対する世間の受け止められ方がどう変わっていくのかに注目したい。

(文:川上きくえ)

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