音楽に寄り添うプロデューサー瀬尾一三。個性を輝かすアレンジへのこだわり
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 吉田拓郎、中島みゆき、徳永英明など多くのアーティストに携わり、名曲を世に送り続けている音楽プロデューサー・瀬尾一三。芸能活動50周年を迎えた彼に音楽の魅力、2020年1月8日(水)に発売された人気シリーズ第3弾『時代を創った名曲たち3~瀬尾一三作品集 SUPER digest~』、30年来の盟友・中島みゆきについて話を聞いた。

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■ここまで続けられたのは、いいアーティストと出会えたから


――芸能活動50周年おめでとうございます。改めて振り返っていかがですか。
【瀬尾】自分でもよくやっていると思います。はじまりは、“音楽が好き”だったということ。そこから、いろいろな偶然が重なってこの職業に就きました。でも、ここまで続けることができたのは、ターニングポイントでいいアーティストと仕事ができたからなんでしょうね。

――具体的には?
【瀬尾】20代で吉田拓郎さん、30代で長渕剛さん、40代で徳永英明さん、中島みゆきさんと仕事ができたのは大きいですね。自分の中で壁にぶつかるというか、進むべき方向に迷っていた時に同じ方向を向いているアーティストと出会えたことで、迷いが消えて確信に変わったというか。

――今回のアルバム収録曲はいずれも、誰もが一度は聴いたことがある名曲ばかりです。瀬尾さん自身は、携わった楽曲についてどのように思っているのですか。
【瀬尾】僕は、運が良かっただけですよ。楽曲が売れたのは、アーティストの持っている力が大きかったというだけで。正直なところ、今になって僕名義で作品を出させてもらうのも恥ずかしいんです。僕は、あくまで裏方ですから。

――では、裏方としてアレンジやプロデュースをする際に心がけていることは何ですか。
【瀬尾】アーティストの持つ個性・カラーをどう輝かせていくかということを考えています。楽曲や作品のイメージをアーティストの個性に合わせて色付けして、より多くの人に聴いてもらうにはどういたらいいか、それだけを意識しています。

――だから、瀬尾さんが手がける楽曲は個性豊かなんですね。
【瀬尾】そうかもしれないですね。でも「このやり方は、本当に正しいのだろうか」と悩んだときもありました。アーティストのデビュー時などは、たった1曲でイメージや方向性が決まってしまうこともありますから。

――その悩みに対して、何かしらの答えは見つかりましたか。
【瀬尾】最終的には何も変わらないですけど、少しだけ僕の“想い(意見)”みたいなものを薄めているかもしれないですね。自分の考えを押し付けるのではなく、「これもあるよね」という感じで、ほどよい距離感を保つようにしています。

■中島みゆきとは、会話が無くても伝わる距離感が心地いい

――最近は、ネットなどを通して作品を発表する人も増えています。瀬尾さんは、そのような場でセルフプロデュースしているアーティストをどう感じていますか?
【瀬尾】素晴らしいことだし、すごい能力だと思う。作品を生み出す力と世に広めていく(プロデュースする)力は違うから。自分の作品に対して客観的な視点を持っているというのは、立派なことだと思います。

――長年タッグを組んでいる中島みゆきさんも、そういう視点を持っている人ですよね。
【瀬尾】そうですね。彼女は「中島みゆき」というアーティストをセルフプロデュースしています。僕は、彼女が担当しているプロデュース業務(作詞・作曲、コンサートや夜会など)のうち、「音楽を世に出す」というパートを任されている感じです。

――瀬尾さんから見たプロデューサー・中島みゆきは、どんな人ですか?
【瀬尾】とってもやりやすい人ですね。あんまり会話はしないですけど、阿吽の呼吸でわかるというか。彼女の中では、「こいつに任せれば、曲はこんな感じに仕上がるだろう」と思っているんじゃないかな。30年一緒にやっていますからね。ちょっとした一言で、伝えたいことはだいたいわかりますよ。

――全幅の信頼を寄せられているんですね。
【瀬尾】僕を完全に信頼しているとは思わないけど(笑)。彼女と僕の好きなテイストが似ているんでしょうね。過去には「これじゃあ歌えないわ」と言われて、その場で譜面を書き直したこともありますよ。30年で1~2回ですけど。

――どのような感じで中島さんの楽曲をアレンジするのですか?
【瀬尾】デモテープを録音する段階で、「彼女はこういう風にしたいんだな」とか「こんな感じにしてみようかな」というおぼろげなイメージが浮かんでくるので、それに合わせて肉付けしていく感じです。例えば、「この楽曲が絵画だったら、キャンバスの大きさはどのくらいかな?」「映画だったら、カラーとモノクロのどちらが似合うだろう」とか。そんなことを考えながらアレンジしています。

■プロデューサーならではの悩みに共感

――2月10日(月)には、書籍『音楽と契約した男 瀬尾一三』が発売されます。萩田光雄、松任谷正隆、山下達郎、亀田誠二とのプロデューサー対談では、どのような話をしたのですか。
【瀬尾】僕らにしかわからない“あるある(話)”ですね。プロデューサーという役割の捉えかたや、仕事の難しさを共感したというか。四者四様で個性は異なりますが、それぞれの考えを聞けておもしろかったですよ。

――特に印象的だったエピソードは?
【瀬尾】僕と山下達郎とのヨタ話は、ほとんどカットされたこと(笑)。というのは冗談で、これまでゆっくり話す機会がなかった人ばかりなので、僕の依頼を快諾してくれたことがうれしかったですね。僕と同じ時期に仕事を始めたり、ずっと同じアーティストのプロデュースをしていたり、共通点の多い人たちなので興味深く話を聞かせてもらいました。

――瀬尾さんと中島(みゆき)さんも、タッグを組んで30年ですもんね。
【瀬尾】そうなんです。我々の場合は夫婦ではないので「お互いの領域には入らない、踏み込ませない」が鉄則ですけど。その距離の取りかたが似ているから、30年続けられたのかもしれないですね。

――そんな、中島さんの『ラスト・ツアー』が1月よりスタートしました。こちらはどのような感じですか?
【瀬尾】ツアーで全国を回るのは今回が最後ということで、かなり盛りだくさんの内容になっています。全てのお客様の“聴きたい曲”を演奏するのは時間的に難しいですが、それぞれの時代に愛された曲たちを楽しんでもらえたらなと思います。

(文:ちはらみどり)

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