芸人引退で“脚本・演出”へ 家城啓之が感じる手応えと葛藤「コントをしたい」
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 優れた脚本作家に与えられる『第36回向田邦子賞』を受賞したバカリズム(44)、演劇界の芥川賞とも言われる第64回岸田國士戯曲賞の最終候補となった岩崎う大(41)など、芸人がさまざまな分野で才能を発揮しているが、家城啓之(43)は4年前に芸人引退を宣言し脚本家・演出家の道に進んだ(ラジオ番組ではマンボウやしろとして活動)。30代の最後に大きな決断をしてから、着実にキャリアを積んできた今、家城の頭の中に迫った。

【写真】家城が脚本・演出を手がける舞台『シェアザ・ワールド2020』

 1997年にお笑いコンビ・カリカを結成した家城だが、2011年9月、相方の芸人引退に伴ってコンビを解散。12年以降は芸名をマンボウやしろに改め、ピン芸人として活動を続けていたが、16年7月に芸人を引退したことを自身のツイッターで発表した。当時、どういった心境で転身することを決めたのだろうか。

 「コンビを解散して、ひとりでやっていたんですけど、ひとりでの活動が面白くなかったんです。ネタもひとりだと作りにくくて、2人でやった方が面白いだろうっていうネタが多くて…。これから人生どうしようって考えた時に、円を稼いで、タイで(通貨の)バーツで生活するっていうのができたらいいんじゃないかなと(笑)。SNSも発達して、テレビ電話もある時代に、タイから台本を送ることもできるじゃないですか。あと犬が好きなので、タイで犬を飼って…今はそんな生活を目指して、頑張ろうと思っている途中です(笑)」

 芸人を志したきっかけについても「僕たちが芸人を始めた時期はお笑いに才能が集まっていた時期で、その様子を見ていると本当に楽にお金をもらっているような感じがしたんですよ。だから、お笑いに助けられたとか、熱い思いみたいなのはなくて、世界で一番楽そうな仕事だなというところです」とあっさり。「ギャンブルをしているようなものですけど、ネタがちゃんといいのができて、出番がもらえたら、10分でネタやって1万円もらえるとしたら、時給に換算すると6万円じゃないですか。そんな仕事って、なかなかないですよ。よく『そんな気持ちで入って大変だったんじゃないですか?』って言われるんですけど」と笑顔を見せる。

 とはいえ、才能がないと生き残れないのが芸人の世界。ましてや、脚本・演出という違ったフィールドで活躍するのは簡単なことではない。コンスタントに仕事を続ける秘けつはどこにあるかと向けてみると「方法がわからなければ、何もないですけど、趣味がないっていうことはあるかもしれないですね。話考えることくらいしかないですね。自分の将来の不安も、人間関係も興味ないし、お金のことも悩んでいないし、幸いにそういう性格だったんだと思います」と謙そんしながらも、本音をのぞかせた。

 「小さい時からずっと話を考えていて、小学校くらいから考えていました。その頃は自分の好きな映画のパロディーとか、日本昔ばなしが異常に好きだったので、そういったものをかけ合わせたようなものを書いていました。だから、何かを考えることは苦じゃなくて、話ができた時が一番楽しくて、それを具現化していくっていう段階で仕事になっていく感覚です(苦笑)。ただ、芸人で売れるのが一番良かったですよ、本当は」

 一度は引退した芸人の世界だが「売れる売れないじゃなくて、コントをしたいから戻りたいっていうのはあります」と率直な思いを吐露。舞台だけでは表現できないものがある。「結局同じ話なんですけど、どうやっても5分とか10分でできないなとなると、これはコント、これはお芝居っていう風に分けている感じですね。コンビをやめちゃったので、コンビの方のストックだけ溜まりだした時に、もっとやる場所がないと、この溜まっているのが不健全で嫌だなと。それをとにかく形にして、コントとして出したい。昨年からは犬の心の押見くんとユニットを結成して、ゲストにかもめんたるのう大くんとかにも来てもらって公演をやりました。今年はもうちょっとその部分の活動も広げたいですね」。

 家城にとって大きな動きがある1年となりそうだが、2月20日から23日まで東京・紀伊國屋ホールで上演される舞台『シェアザ・ワールド2020』では、脚本・演出としての才能をいかんなく発揮。チラシに載っている「主役は誰だ?観ればわかる!」という意味深な文言が、舞台を見終えるとストンに腑に落ちる内容となっている。「シェアハウスを舞台にスタートしながらも、見終わった後には見てくださった方々が『自分たちが主役なんだ』って思ってもらえることが理想ですね」。

 11日、都内のけいこ場に取材に訪れたが「ここのシーンは、こういった感情を大切に言ってみましょうか」「ここから入ってきましょうか」など、一つひとつのシーンを丁寧に指示する家城の姿があった。「すごく短期間でけいこをしないといけないですし、感情も表現しにく設定なので、出てくださっている方々の今後の仕事に生かせないものだなと(苦笑)。だけど、僕は表現してほしいし、やりきってもらいたいってなるので、そうなると敬語で丁寧に接するしかないんです(笑)。精いっぱいの、本当にありがとうございますって気持ちの現し方です。このまま、できるだけ楽しくけいこを進めていきたいです」と笑いながら謙そんする家城の表情は“演出家”そのものだった。

■『シェアザ・ワールド2020』
脚本・演出:家城啓之
会場:紀伊國屋ホール
期間:2月20日~23日
出演:伊勢大貴、松井勇歩(劇団Patch)、堂本翔平、木村風太、高佐一慈(ザ・ギース)、尾関高文(ザ・ギース)大地洋輔(ダイノジ)五明拓弥(グランジ)、好井まさお(井下好井)福本雄樹、塙さより、山崎真実、谷川愛梨
公式ホームページ:http://yashiro.conteshow.yoshimoto.co.jp/

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