「ライオンvsトラ」、「サメvsメカジキ」勝つのはどっち? 奇抜なマッチメイク描く人気マンガ『どっちが強い』に子どもが夢中になるワケ
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 ライオンvsトラ、サメvsメカジキ、ヘビvsワニなど、ありえないバトルを動物学と科学的な根拠をもとに描く『どっちが強い!?』のコミックシリーズが、小学生の心をつかんでいる。奇抜だが説得力のある物語、荒々しいタッチで描かれる大迫力のイラストなど、子どもが好みそうなポイントが盛りだくさん。同シリーズの仕掛け人に、ヒットの秘密を探った。

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◆「いつもは騒がしいのに…」 読むと子どもが夢中になると親からも支持

『どっちが強い!?』シリーズは、「角川まんが科学シリーズ」の第1弾として2016年に3冊が刊行。現在までに22作が発売され、シリーズ累計165万部を誇る人気作だ。多くの書店で平積み展開され、小学生が熱心に立ち読みする姿も見られる。

 描かれるのは、最強生物たちのバトル物語。戦う能力の近い自然界の強い生き物たちを、科学的データをもとに対決させて勝敗を決めるという、既存の科学マンガにはなかった新しい切り口だ。ポイントは、生息地域が異なっていたり、実際には遭遇する可能性が少ない生物同士がバトルを展開するという組み合わせの絶妙さだ。

 物語の骨格を成すバトルの切り口は、陸や水中で暮らす動物の頭脳とパワー対決、昆虫の猛毒や殺傷力対決、鳥獣“エアバトル”などさまざま。とくに人気を集めたバトルとして、まさに力強さを争う『ライオンvsトラ 陸の最強王者バトル』や『サメvsメカジキ 海の頂上決戦』、肉食獣や危険生物という同種同士の頂上決戦『オオカミvsハイエナ 肉食獣軍団、大バトル』、『ハチvsクモ 危険生物の必殺バトル』、パワーと頭脳という異なる戦術の強さを競った『ゴリラvsクマ 頭脳とパワーの大勝負』など、子どもたちの興味に沿った対決は実にユニークだ。

 こうした同シリーズは、書店での反響はもちろん、SNS上でも、
「いつもはめちゃくちゃ騒がしいわが家ですが、『どっちが強い!?』を読んでいるときは驚くほど静か」
「子どもがシリーズそろえている。お年玉でも買っていました」
といった声がみられ、親からも支持を得ているようだ。

◆「VRバトル」の面白さは“世界共通” マレーシア発のシリーズを日本向けに出版

 同シリーズはもともとマレーシアの出版社KADOKAWA GEMPAK STARZより刊行されていたもの。それが日本語訳され、監修をもとに日本向けに刊行された。

 ストーリーを手掛けるメンバーの一人であるスライウム氏は、KADOKAWA GEMPAK STARZの漫画編集長で、漫画の品質が常に保たれるように漫画製作を総合的に監督する。ストーリーはこのほか、心が温まるストーリーの作成を得意とするジノ氏ら、ベテラン漫画家で構成される。一方、漫画を手掛けるブラックインクチームは、『どっちが強い!?』シリーズ製作のために編成された作画チーム。動物作画が得意なウィルソンと、キャラクター・デザイン担当のハウテック、この2名がチームをけん引して制作を進めているという。

 日本での出版にあたっては、原書に忠実に作りつつも、サイズや仕様、装丁を日本向けに工夫。さらに日本語翻訳した内容を専門家が監修し、発行にいたるという。

「たとえば、昆虫の対決の巻であれば、昆虫学者の丸山宗利先生、は虫類の巻であれば、は虫類研究家の白輪剛史先生にご確認いただいています。また、各章末に「動物百科事典」という記事があり、図鑑にも載っていないような細かいデータや生態の記載、そして、あまり聞きなれないマニアックな生き物も紹介しています。これらを専門家の方々にご確認いただくことで、「漫画」も「動物百科事典」も、きちんと正しい内容で、なおかつ読みごたえのあるものになっていると思います」(KADOKAWA/担当者)

 こうした日本ならではの工夫があったうえで、同シリーズの大きな魅力は、漫画としてのストーリーの面白さと、動物の生態や自然科学を楽しみながら学べる点だ。

「同シリーズが世界的にヒットした要因は、書籍のジャンルとしては、教育とエンターテインメントのバランス、作品の内容としては、ユーモアとアクションのバランスにあると考えています。世界での販売状況としては、『どっちが強い!?』シリーズが最も売れている国は日本、次が台湾です。なお、同じ世界観の別シリーズ『恐竜キングダム』だと、台湾や中国で売れています」(スライウム氏)

 多くの人が興味をそそられる異能生物による“VR(バーチャルリアリティ)バトル”の面白さは、世界共通。しかしながら、それだけではヒットにはつながらない。では一体、『どっちが強い!?』シリーズには、子どもの興味を惹きつけるどのような工夫があったのだろうか。

◆身近な生物を“VRバトル”の世界へ 斬新な切り口が想像力をかきたてる

『どっちが強い!?』シリーズには、最終的なバトルへとたどり着くまでの物語にも、子どもを惹きつける要素が詰まっている。

 例えば、『ハチvsクモ 危険生物の必殺バトル』は、スズメバチの大発生で養蜂場のミツバチが襲われたり、下水処理場で毒のあるクロゴケグモにかまれる被害が報告されたりする事件をきっかけに、 危険生物の情報を集めるためにXベンチャー調査隊が2組に分かれ、それぞれの調査に向かう。その先で、巨大なスズメバチの巣に遭遇したり、毒グモに噛まれたりといったドキドキの展開が用意さているが、「スズメバチの大発生」や「毒グモ被害」といったテレビニュースから事件がはじまり、生物のバトルへとつながる物語の起承転結はとても現実的だ。しかも、スズメバチと毒グモの生態を知ることで、もし自分が実際にそうした場に遭遇した際にどうすればいいか、といったハウトゥを自然と学ぶこともできる。 また、「サメvsメカジキ 海の頂上決戦」の冒頭では、サメからヒレだけを取るフカヒレ漁の現状を問題定義。ほかの巻でも、毛皮を取るための動物の乱獲など、野生生物を取り巻くさまざまな問題を子どもに伝えている。それと同時に、私利私欲ではなく、文化として人間と動物が長い間どのように共存してきたのかといった点まで、しっかりと描いている点も注目だ。

 加えて、各章末に設けられている「動物百科事典」では、メインの生物以外にも、同じ部類に属す生物が実に詳細に紹介されている(例えば、「サメvsメカジキ」では、計20種以上の魚が取り上げられている)。

 こうした教育的に優れた内容を子どもに面白がって読んでもらうために、「学習漫画ではありますが、まずは漫画として子どもが楽しく読み進められるように、言葉の面白さやリズム感も大切にしました」と、子どもを意識したポイントをKADOKAWAの担当者は語る。

「漫画の台詞はフキダシに入っていて、フキダシの大きさは画とのバランスなどによって左右されます。文字の大きさも決まっているので、おのずと字数が限られてきます。特に子ども向けなので文字が多すぎないように、時には言い方を変えることもあります。漫画は画がメインで、台詞はそれを補うものなので、画を楽しみながら台詞は短く、テンポよく読み進められるよう工夫しています」

 言葉の選び方においても、「子どもにこんな言い方はしたくない」といった親目線でのチェックを入れたという。

「例えば、原文を直訳すると「殺してやる!」という表現だったとしても、ストレートにそうは言わず、状況にもよりますが「やっつけてやる」「こらしめてやる」など、意味を伝えつつも、子どもに本を買い与える親の気持ちになった言葉の選択をするようにしています」

 また、Xベンチャー調査隊のメンバー同士の友情や、たとえ喧嘩をしても、誰かが仲裁に入って仲直りする場面なども描かれている。こうした細部にまで考え抜かれた物語の展開も、子どもたちを惹きつけるのだろう。そして最大の見せ所といえる、ラストを飾るバトルシーン、そのマッチメイク感こそが、同シリーズ製作陣の腕の見せ所だ。

◆ロジックな推理を基にしたバトル ファンタジーとリアリティの絶妙なさじ加減描く

 現実をリアルタイムで知れ、ネットですぐに情報が調べられる今の時代。そして、幼少期からデジタル・デバイスを使いこなす現代の小学生に、単に生物の生態を紹介するだけの内容では面白みが足りないだろう。そうしたなかで『どっちが強い!?』シリーズがヒットを記録する最大の要因は、ファンタジーとリアリティを絶妙に組み合わせた世界観にある。

 とくに、「これとこれが戦うの!?」という奇抜な対決構造は特長的であり、マッチメイクの選定こそが、編集者の腕の見せ所だ。そこには、どのようなこだわりがあるのだろうか。

「まず、動物とその捕食者というペアは選びません。勝負が明らかだからです。次にいろいろな品種から独特な狩り能力や防御能力を持っていて、かつ読者が興味を持ってもらえそうな動物を選びます。そして、ペアにする動物が同等のパワフルな能力を持つようになるとともに、この動物のペアが必ず子供の想像を膨らませたり、好奇心を刺激したりできるようにしています」(スライウム氏)

 そして、バトルものながら「行きすぎない」さじ加減も絶妙だ。動物の解剖学的構造を読者に知ってもらうために、動物の描写がとてもリアルであるのに対し、キャラクターには、いわゆる漫画的な表現が用いられており、これらのコントラストが、バトル・シーンで、より緊張感を与えるものとなっている。

「バトル・シーンを描く時は、研究資料やロジックな推理を基に、各動物が持っている狩り能力や捕食者から身を守る能力からバトルの様子を想像し、作画を進めます。無意味な戦闘にならないように、いつも心がけています。こうした工夫によって、動物の独特な、あるいは面白そうな生態を紹介するだけでなく、例えば飢餓時の行動や、家族での生活、危険から身を守る方法など、動物がどのように厳しい環境で生きていくのかを強調することで、現代の子どもたちに、動物への共感や同情を抱いてもらいたいと考えています」(スライウム氏)

 好奇心を掻き立て、子どもたちを夢中にさせる『どっちが強い!?』シリーズのように、学習要素が詰まったジャンルの児童書は、少子化の日本においても好調をキープしている。現在、全国的な休校対策として400冊以上の児童書が無料公開されているKADOKAWAポータルサイト「ヨメルバ」でも、『どっちが強い!?』シリーズをはじめとする学習まんがは、たくさんの人に読まれているという。(無料公開は2020年4月5日まで)

 世界的な児童書人気も追い風となり、4月には、『どっちが強い!?』と、その別シリーズ『恐竜キングダム』をクロスオーバーさせた『どっちが強い!?X』シリーズの発売が予定されている。さらにエンターテインメント性を高めた、新たな“もしも”シリーズを含めた『どっちが強い!?』人気の勢いは、まだまだこの先も続いていきそうだ。
(文/布施雄一郎)

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