ラジオファンを熱くさせた『ANN』統括Dのツイートの真意 発端は“ラジオ業界”への怒り
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 3月16日、あるラジオディレクターのツイッターでのつぶやきが、大きな反響を巻き起こした。「ラジオをブームにしたい、誰もが面白いと思えるものにしたいと言ったバカを、ラジオはもう終わってるものだと、嘲笑った人のことを俺は一生忘れないです。今は自分もおじさんだけど、まだその夢は叶うと思ってるから、もう少し努力していこうと思います。面白いものは、諦めなければまだ作れます」。

【画像】『ANN』が全局中同時間帯を単独首位獲得

 これをつぶやいたのは、ニッポン放送の深夜帯番組『オールナイトニッポン(ANN)』チーフディレクターの石井玄(いしい・ひかる)氏。このラジオへの熱い思いを伝えた真意、そして自身のラジオ体験や深夜ラジオを取り巻く環境について、聞いてみた。

■深夜ラジオに救われた引きこもり時代 オードリーに支えられた新人時代

 高校生の頃から深夜ラジオにハマった石井氏は、「伊集院光さん、爆笑問題さん、雨上がり決死隊さん、アンタッチャブルさん、極楽とんぼさんという2000年代前半の『JUNK』の無敵ラインナップを毎日聞いて、たまに『ANN』でくりぃむしちゅーさんとナインティナインさん、『JUNK2』が始まったらエレ片やバナナマンさん……。正しいお笑いラジオファンの聴き方をしていました(笑)」と自身のリスナー歴を振り返る。特に聴いていたのが、『伊集院光 深夜の馬鹿力』だった。

 「高校が男子校で、大学に入ったけど女子と喋れなくて全然なじめずバイトもせず、引きこもり気味になったんです。かなり思いつめていた時期もありましたが、『深夜の馬鹿力』の『リストカッターケンイチ』というコーナーを聞いて、“生きていていいんだよな”って笑えるようになって…。明日は爆笑問題だ、次の日は雨上がり決死隊だって、毎日のラジオがあるから生きていけるような状態だったので、本当にラジオに救われました。ただ、当時は聴いて楽しむだけで、メールを一度も出したことがないし、自分が作る側になるとは考えていませんでした」

 就職活動の時期になったが「もう1年くらい遊ぼうかな」と留年を考えていたところ、追試でうっかり単位を取得し、予期せぬまま卒業してしまう。改めて今後の生き方を考え、「ラジオが好き」「芸人さんと仕事をしたい」という自分の思いを実現させるため、資金を貯めてラジオ制作の専門学校に入学。2年間の勉強を経て「本当はTBSラジオの制作会社に入りたかったけど募集がなかったので(笑)」、ニッポン放送系の制作会社に就職した。入社当社は朝や昼の番組のADを担当したが、半年が経ったころに『オードリーのANN』にADとして参加することになった。

 「入社したときはもう25歳だったし、最初はお笑い番組をできなくてつらいと思っていたけど、オードリーのANNのADになってからは毎週土曜が心の支えになっていました。他の番組のADもいっぱいやっていてすごく忙しくても、土曜日に心を整えるという感じで」。5年ほど“チーム付け焼き刃”のADを務めてきたが、前任のディレクター(D)が“急にいなくなった”ため、2016年に石井氏がDに抜てきされた。「急な話だったので、オードリーさんとリトルトゥースに迷惑をかけないように必死で、Dになった感慨はずっとなかったです。2018年末の『チャリティーミュージックソン』と翌19年3月の日本武道館でのライブが終わったくらいで、ちゃんとやれてるかなという気持ちが出てきました」。

■話題のツイートは「ムカついているのが発端でした」

 ラジオ業界に携わって10年目、現在はANNのチーフDとして『ANN』と深夜3時からの『ANN0』の全曜日、そして4日からスタートした毎週土曜の『SixTONESのANNサタデースペシャル』(後11:30)を統括。同時に自身もDとして『ANN』の星野源(火曜)、三四郎(金曜)、オードリー(土曜)、『ANN0』の佐久間宣行(水曜)の4番組と、『銀シャリのほくほくマネーラジオ』(毎週日曜 後6:50)を担当。そして、TBSラジオの『アルコ&ピース D.C.GARAGE』も手掛けている。ANNの聴取率も好調な成績を残し、ラジオファンから多くの注目を集めるなか、冒頭に紹介したツイートはラジオ業界に一石を投じた。

 「こんな反響は予想していなかった(笑)。ツイートの真意を説明すると、ベテランのラジオ業界人で、『何をやってもしょうがない、ラジオは終わってる』とラジオを諦めている人が多いんです。もちろんそうじゃない人もいます。ただ、一部の人たちが、低いモチベーションで仕事に取り組んで、それを言葉や態度に出すから、若い人材のやる気の芽を摘んでしまっていることに気づいていない。これはラジオだけじゃなく日本の社会全体の縮図かもしれないけど、それにムカついているのが発端でした。そこに対して自分に何ができるのか。ANNはradikoの数字も聴取率も上がっているけど、広告収入が下がって営業の方が苦労している姿も見ています。音声コンテンツができることはもっとあるし、この状況を助けてほしいという想いもあり、その辺のいろんな気持ちがツイートで出ちゃいました」

 予想を超える絶賛に「それだけラジオに期待してくれる人がいるのはありがたくて、励みになりました」と感謝する。一部の人からは「何をやってもしょうがない」と言われたが、ANNではチーフDに就任してからの2年間でさまざまな施策を実施(※詳細はインタビュー前編【好調『ANN』番組同士の積極交流で新規開拓 狙いは「完全にradikoリスナーのみ」】にて)。明確に上昇する数字を残したことで「ちゃんとやれば結果が出ると後輩に示せたのは良かった。若いDの励みになれば」と安堵の表情を浮かべながら、「ツイートがあんなに広がると思わなくて、ちょっと引いちゃいましたけど(笑)」と本音ものぞかせた。

 「自分が担当する番組のパーソナリティである星野さんや若林さん、佐久間さんなどの仕事に向かう姿勢を間近で見ると、超一流の人はすべてに全力で取り組むから結果を出せているということがわかります。全力でやっていない人が『結果が出ない』と文句を言っても、説得力がないんです」。ツイートには予想外の反響もあった。「私もラジオに関わりたい」という若い人から多くの声が寄せられた。いまラジオ業界で働く若手、そして今後のラジオを担う未来のラジオ人のために「僕らの世代がこの現状を打開していかないと」と前を見据える。

■今後のラジオ業界を見据えて 大ベテラン・岡村隆史のフレッシュさに驚き

 ANN、そしてラジオ業界は何を目指していくのか。「ラジオ業界が厳しいことは間違いないので、若いDや放送作家がラジオで生活できるために、コンテンツを制作する人に正しくお金が入る仕組みを作りたいです。ANNは初めてラジオに触れる人の入り口であることが多いので、その突破口になればいいなと。 ANNは“肩書きにとらわれず時代の顔である人が面白いことを話す”というコンセプトは守りながら、いろいろ挑戦していきたい。ANN0はこの春からファーストサマーウイカさんと水溜りボンドのお二人が新加入したので、新しいリスナー層をラジオにつれてきてくれることを期待しています。1時からのANNは鉄壁のラインナップですが、ANN0を担当している人たちには将来的にぜひ昇格を目指してほしいですね」。

 個人的な目標は、ラジオのディレクターとしてのキャリア像を後輩に見せることだという。「自分が何年も深夜のANNをやり続けるのも違うので、いまのANNのパーソナリティとリスナーと一緒に時間を上げた番組をやれればと思っています。オードリーさんもたまに番組で言っていますが、いつか一緒にお昼や夕方の番組をやれたらいいですね。佐久間さんにお昼の帯番組をやってもらう案もありますし(笑)」。

 最後に、これまで何度もORICON NEWSが密着してきた木曜の岡村隆史について、チーフDとしての感想を聞いた。「年齢だけでいったら今年50歳で、これまでのANNのパーソナリティの中でもかなりベテランですが、横浜アリーナで歌謡祭を毎年開催していろんなアーティストとコラボしたり、木曜つながりでKing Gnuの井口くんと絡んだり、常にステップアップされているので、年齢に関係なく番組を続けていただいています。俳優として映画で活躍したり、紅白歌合戦に出たり、現在進行形で旬な人であり、オンリーワンであり続けるのは、本当にすごいことですよね」。

◆石井玄(いしい・ひかる)1986年、埼玉県生まれ。明治大学政治経済学部卒業後、東放学園専門学校を経て、2011年、サウンドマンに入社。 以来、主に深夜ラジオ番組の制作を担当する。現在はMIXZONE所属。『星野源のANN』では箱番組パーソナリティとして、出演も果たした。

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