ドラマ『M』でもホラーより怖い存在感 “怪演枠”を一手に担う女優・水野美紀の力量
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 コロナ禍の影響により、数少ない4月期ドラマのなかで存在感を際立たせているのが水野美紀だ。『M 愛すべき人がいて』(テレビ朝日系)へのゲスト出演と、メインキャストを務める『浦安鉄筋家族』(テレビ東京)で異彩を放っている。“ドロキュン愛憎劇”『M』第2話では主人公・アユの鬼トレーナー・天馬まゆみ役として登場。ド派手な衣装にクセのあるセリフとハイテンション演技でインパクトを残し、放送中には「水野美紀」がツイッターでトレンド入りするなど、大きな話題に。近年の水野といえば、『黒い十人の女』(日本テレビ系)や『奪い愛、冬』(テレビ朝日系)などでも猟奇的な役を演じ、確かな爪痕を残すなど、いまや“怪演”女優としてその地位を不動のものとしている。

【写真】いちいち面白かった…羽をかぶった奇抜な水野や眼帯姿の田中みな実の悪い顔まで、ホラーより怖い『M』

◆『M』と『浦安鉄筋家族』でタイプの異なるクセ者を怪演 その“演じ分けの妙”に称賛

 浜崎あゆみの誕生に秘められた出会いと別れを描いた同名小説(著:小松成美/幻冬舎)が原作の『M 愛すべき人がいて』。同作と同じ鈴木おさむ氏が脚本を手がけた『奪い愛、夏』(2019年/ABEMAで配信)で見せた演技が「ホラーより怖い」と話題になったが、今回もまたその怪演ぶりに大きな注目が集まった。

 水野は、アユを指導する超スパルタ鬼講師・天馬まゆみ役を演じ、帽子ではなく羽をかぶる奇抜なファッションに身を包み、見た目だけで“ただものではない”オーラが溢れ出していた。さらに、独特の指導方法で「今度『え?』って言ったら燃やすよ?」「イノシシをやれるくらいのパンチで!」など意味不明な暴言も連発。やる気が出ないアユに水をかけ、「ジャパンに返してやるわよ、のしつけてね」と叫び、追い込んでいく狂気的な姿は、視聴者を笑わせながらも圧倒した。ビジュアルから立ち居振る舞い、うさん臭さといったキャラクター性まで、見事なまでにハマり視聴者を大いに沸かせ、放送中には「水野美紀」がツイッターでトレンド入りした。

 一方、コメディ家族ドラマ『浦安鉄筋家族』では、料理上手で子煩悩、普段はお淑やかだけれどスイッチが入ると誰にも暴走が止められない主人公・大沢木大鉄(佐藤二朗)の妻・順子役を熱演。風変わりな家族のなかの良識派としての存在が主な役割だが、スイッチが入ったときが、アクションを得意とする水野の本領発揮といったところだろう。夫へのアイアンクローといった定番のプロレス技などドラマならではの笑いに昇華させる三流アクションもわざとらしさや違和感なくさらりとこなしている。キャスト発表の際に本人は「こんな無茶ぶりはダチョウ倶楽部さんと同じ芸歴である、私の女優人生のなかでも初めてのことです」と初心に戻って体当たりで臨む本作は、クセモノ揃いのキャスト陣とのさまざまな化学反応が生まれている。

 同2作についてSNSでは、「水野美紀さんのぶっとびスーパー演技が観られるだけでも価値があると思う」など絶賛の声が飛び交っている。コロナ禍の影響で4月期ドラマが壊滅的な状況に置かれているなか、重苦しいシーンの雰囲気を覆すかのように気を吐く水野の怪演が、ドラマファンを勇気づけているようだ。

◆出世作は『踊る大捜査線』 舞台で演技力の地盤に磨きをかけ、映像作品に再び返り咲き

 水野の経歴を振り返ると、『第2回 東鳩オールレーズンプリンセスコンテスト』(1987年)での準優勝をきっかけに芸能活動を開始し、特撮戦隊ドラマ『地球戦隊ファイブマン』(テレビ朝日系)でデビュー。ブレイクのきっかけとなったのは、1997年より放送のヒットドラマ『踊る大捜査線』(フジテレビ系)での柏木(真下)雪乃役。正統派の美形女優である水野だが、同役の好演で類まれなる存在感を際立たせ、一躍スターダムを駆け上がった。

 さらに、『恋人はスナイパー』(2001年/テレビ朝日系)では、アクションヒロインとしてのポジションを確立。その後、2007年に演劇ユニット『プロペラ犬』を作家・楠野一郎氏と共同主催した頃から、活躍の場を舞台にシフト。『劇団☆新感線』をはじめ、故・蜷川幸雄さんの作品など数多くの舞台で活躍する。映像作品とは異なる即興芝居や観客との生のやりとりも求められる舞台の世界において経験を積み重ね、着実に演技の地盤を磨きつつ、その幅を広げた。

 テレビや映画から一時期遠ざかっていた水野が、映像作品で再び注目を集めたのが、園子温監督映画『恋の罪』(2011年)だ。清純派の正統派女優としてのイメージが強かったが彼女が、激しい濡れ場を堂々と演じて話題になった。

 ここ5年ほどはメインストリームとして地上波ドラマを定位置とする活躍を見せている水野。その背景には、『踊る大捜査線』シリーズでの正統派婦人警官役から、アクション作品を含めた幅広いジャンルでのさまざまな役柄、さらに舞台での経験値の積み重ねなど、決して順風満帆に歩んできたわけではなく、紆余曲折を経て辛酸を舐めながら一歩ずつ地を踏みしめることで足跡を残してきたからこその“女優力”が、怪演にもつながっていると言えるだろう。

 水野の“怪演”女優としての力量を印象づけることになったのが、『黒い十人の女』(2016年/日本テレビ系)で演じた妙齢の残念な舞台女優・如野佳代役。プレイボーイのテレビプロデューサー・風松吉(船越英一郎)が、妻と9人の愛人から殺害計画を企てられる物語で、愛人同士のいがみ合いをなくそうとするも、愛人仲間に“カフェオレをかけられる”のがお約束のドンくさく、滑稽さが憎めない最下層の愛人キャラクターだ。

◆芸歴30年目で“怪演”枠ポジションを確立 “キャラ先行型”ではない演者としての厚み

 どこか水野本人との経歴の重なりを匂わせつつ、おもしろおかしく残念さがデフォルメされた役柄は、まさにハマり役だ。脚本を手がけたバカリズムは「この作品の後は相当、変な役も来るんじゃないかな(笑)。“あんなことやるんだ?!“って、世間に知れ渡っちゃいましたからね。そもそもポテンシャルがすごい方なので、それを世間に知らしめたかっただけ」(2017年1月30日/ORICON NEWS)と語っているが、脚本のおもしろさを一身に引き受けているような水野の振り切れた怪演ぶりは、バカリズムの狙い通りであり、彼によって引き出された部分も大きい。怪演女優という新たな武器を手にした彼女に対して、“水野に変わり者を演じさせると跳ねる”という関係者の視線も集まった。

 続く『奪い愛、冬』(2017年/テレビ朝日系)では、森山信(大谷亮平)の妻・蘭役で、異常な嫉妬に狂う女の姿が視聴者を震え上がらせた。愛憎がにじみ出る演技とともに、もともと美形であるビジュアルの凄みも増して、完全ヒールの悪女役の姿を印象づけた。SNSでは「怖すぎて震える」「心臓に悪い」などその狂気の表情も反響を呼び、芸歴30年目にして“怪演”枠でのポジションを確立した。

 一方で、“怪演”には、女優本人の前に強烈すぎるキャラクターだけが視聴者の印象に強く残ってしまうことや、その女優に対して特定のキャラクターのイメージがつきまとってしまう、“キャラ先行型”女優に陥る危険性を常にはらんでいる。特に出演作品数が少なく、実績や演技の幅が乏しい役者においては、その後の俳優活動においてデメリットとなる場合もある。

 水野の場合は、正統派からドロドロ愛憎劇、アクション、コメディまでバラエティに富んだ実績に裏打ちされた演技力が根底にある“怪演”により、キャラクターに食われてしまうことがない。ひと言で“怪演”といっても、演じるキャラクターによって全く異なる芝居になり、水野の経験値から生み出される、それぞれの作品における唯一無二の存在感を放つ役柄になっている。そんな水野の力が遺憾なく発揮されている特徴的なキャラクターだからこそ、視聴者の心を掴んで離さないのだろう。

◆視聴者と関係者から厚い信頼を得ている怪演女優の第一人者 続々と後進も登場

 水野が先頭を疾走している“怪演”女優枠だが、近いタイプとしては木村多江や山口紗弥加、急先鋒として頭角を現している田中みな実らが挙げられるだろう。怪演枠は、ドラマにインパクトと深みを与える、作品そのもののおもしろさを左右する重要なポジションであり、シーンに不可欠であるからこそ、その枠には異なるカラーやテイスト、バックグラウンドを持った新たな才能も次々に登場してくる。

 そんななかでも水野は、豊富な経験を持つ大女優としてのオーラを醸し出しながら、クセの強い役をさらりと好演する、この枠の第一人者。徹底したキャラクター作りによる怪演はお家芸と化しており、そうした役とこれまでの正統派の役柄とのギャップによるおもしろさも、水野の持ち味のひとつだろう。悪役や憎まれ役、クセの強い変わり者役は、役として嫌われれば嫌われるほど、その演技に対しての評価が高まり、役柄とは反対に役者への高感度は高まることが多い。視聴者のみならず、関係者からも厚い信頼を得ている水野の女優としての評価や人気は、この先、さらに上昇していきそうだ。

 SNSでは「『浦安鉄筋家族』と『M』でどっちもキャラ濃い役やっている水野美紀さん好き」とその怪演を称賛するコメントが多く見られるが、この4月期ドラマで改めてその存在感を示している水野。彼女が出演することで、作品が楽しみになる視聴者も多いことだろう。次なる怪演キャラクターへの期待も自ずと高まってくる。重い空気の漂うエンタテインメントシーンを明るくする貴重な存在である彼女のこの先の活躍に注目していきたい。

(文/武井保之)

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