VR空間で熱い議論 「#あちこちのすずさん」ワークショップレポート
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 去る5月30日、完全オンラインイベント『#(ハッシュタグ)あちこちのすずさん ワークショップ』が開催された。

【写真】VRワークショップの模様

 登壇者は、「#あちこちのすずさん」の名付け親でもある、映画『この世界の片隅に』などの片渕須直監督、ジャーナリストの池上彰氏、評論家でラジオパーソナリティーの荻上チキ氏、NHKで「#あちこちのすずさん」キャンペーンを担当する占部稜ディレクター。

 新型コロナの感染拡大防止のため、オンラインのVR(仮想現実)空間でワークショップを行うという新たなチャレンジとなったが、全国各地の新聞社や博物館、クリエイターなどがオンラインでつながり、“新たな戦争の伝え方”の可能性について熱い議論が繰り広げられた。

 この日は3部構成で行われた。第1部は登壇者によるトークセッションで、「インプットの課題」と「アウトプットの課題」を整理。インプットの課題とは、太平洋戦争の終結から今年で75年を迎えることもあり、戦争体験を語る人がいなくなっていく中で、戦争体験を伝える素材をどう収集するか。

 荻上氏からは「すでに蓄積された戦争体験者の証言などがアーカイブ化されておらず、生かしきれていない。これまで注目されてこなかった角度からテーマを抽出して、点在する資料を改めて集めてみると、新しい発見がある」といった指摘があった。

 映画『この世界の片隅に』(2016年)は、これまで注目されてこなかった、“日常の暮らし”という切り口で、先の戦争に切り込んでいった好例。その後、17年に暮しの手帖社から『戦中戦後の暮しの記録』が出版され、全国に“すずさん”がいることが顕在化。18年にNHK『クローズアップ現代+』で「#あちこちのすずさん」というハッシュタグを立てると、「自分も家族からエピソードを聞いた」という投稿がたくさん寄せられ、戦争の記憶の掘り起こしになった。昨年に続いて、今年も「#あちこちのすずさん」キャンペーンを行うことが決まっている。

 池上氏は、映画『この世界の片隅に』や「#あちこちのすずさん」の投稿を目にして、「戦争の悲惨さを声高に訴える番組、映画がある中で、こんな手法があったのか、と気づかされた。当時のことを語ってもらうきっかけになった」という。

 一方、アウトプットの課題とは、「“若い”世代にどう伝えるか?」ということだが、池上氏は「伝える側は、若い人が何をどれくらい知らないのか、気づいていくことも大事。知らない人たちに刺さるのはどこか」を考える必要があると語った。

 第2部では、「“若い”世代にどう伝えるか?」というお題について、参加者が4つのグループに分かれ、WEB会議システムを使ってディスカッションを行い、第3部で各グループのまとめ発表が行われた。

■若い世代が“共感”できる“戦争の伝え方”

 総じて、今回のワークショップでは――戦時中の暮らしと現在の自分の生活を、硬軟さまざまなものでリンクさせて、“自分ごと”として考えられるような、「“若い”世代」が思わず食いつくような切り口、共感してもらえる入り口を見つける、あるいはつくっていくことが必要――ということが話題になった。

 池上氏が参加したグループのワークショップでは、ひめゆり平和祈念資料館の説明員・中田晃子さんが、施設を見学にきた小学生から、敵兵から逃げている最中、「トイレはどうしていたのか?」と質問されたエピソードを明かしたことから、「戦時中のトイレ事情」を切り口にするアイデアが出て、議論が盛り上がったそう。

 他のグループからも、「#戦時METOO」と題し、第二次世界大戦の前後にわたり、日本の婦人参政権運動を主導した市川房枝が「もしインスタグラムをやっていたら」という具体的な提案で、若い女性の関心を集めるアイデアが出た。

 「いじめ」や「感染症」も、戦争を“自分ごと”として考える切り口になり得る。荻上氏は戦争中もさまざまないじめが存在し、物資が少なく問題化もされていなかったため、よりシビアだったという話や、「クリミア戦争で一躍有名になったナイチンゲールは、亡くなった兵士の多くが実は感染症によるものだと気づき、それを対処して多くの命を救った」という話を披露。

 池上氏も「太平洋戦争中、中国や東南アジアで日本兵もたくさん亡くなっているが、米軍との戦闘よりもマラリア(マラリア原虫をもった蚊に刺されることで感染する病気)で亡くなった人が多かった。今、私たちは平和なところにいるから、ステイホームして、感染拡大防止に取り組むことができているけど、戦争中はそんなことしていられなかったんだ。そうやって考えていくこともできる。今の現実に寄せて、身近な日々の暮らしとどう結びつけるのか、ということが大事なことだな、思いました」と、話していた。

 “戦争中の日常”を掘り起こし伝えていくムーブメントとして、「#あちこちのすずさん」が広がる意義を感じているという片渕監督が、「日常からアプローチしていくのは入りやすいけど、そこで終わってしまってはいけない」と釘を刺す場面も。高畑勲監督の『火垂るの墓』はトラウマになるようなつらい、悲しいシーンがあるから見たくないという人がいることを挙げ、「日常を入口としたら、その日常を打ち消してしまうのが戦争で、その先に悲惨なことが待ち受けているということから目をそむけてはいけないんじゃないか」といった意見が語られた。

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