『麒麟がくる』の昆虫すごいぜ! 登場人物の心情を表す名演技
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 NHKで放送中の大河ドラマ『麒麟がくる』(毎週日曜 後8:00 総合ほか)。本作で“名演技”を見せているのは、主人公・明智光秀役の長谷川博己や織田信長役の染谷将太らキャストたちばかりではない。何気なく登場している人間以外の生き物もストーリーを語る上で重要な役目を果たしている。

【写真】『麒麟がくる』第34回(11月29日放送)より

 「金ヶ崎の退き口」が描かれた第31回。木下藤吉郎/秀吉(佐々木蔵之介)が光秀に「自分も殿(しんがり)を」と土下座するシーンで、秀吉は自分を飛べない虫に例えながら、自らの出自について話す。

 台本にも「飛べない虫」と指定があり、撮影のために用意したのは地表徘徊性甲虫「ヒメマイマイカブリ」。昔から日本に生息していたであろうという専門家のお墨付きをもらっての“起用”となった。オス(マイマイカブリ)よりも自然界で捕まえやすく、大きくて見栄えがしつつ、握りやすい点も選ばれた理由となった。

 このシーンで佐々木は、感極まり鼻水を垂らしながら、「わしにも羽がある。飛ばぬ虫で終わりたくない」と訴える。“鼻水”は想定外だったのだが、「秀吉のキャラクターを考えると、とても秀吉らしいということで、僕は途中で止めることはしませんでした。佐々木さんも演じ続けてくれました」と、演出を担当した一色隆司氏は明かしている。もし、ヒメマイマイカブリが佐々木の演技を邪魔するような動きをしていたら、この映像は撮れなかったかもしれない。

 「秀吉の思いの強さが表現でき、素晴らしいシーンになったと思います。秀吉の思いが強ければ強いほど、光秀の思いも研ぎ澄まされ、武将としての決意を感じることができます。お互いの思いをぶつけ合うことによってどんどん2人の絆が深くなっていく、そんな芝居が構築できました」(一色氏)。

 第32回で、一向宗徒や三好の残党ら反織田勢力と戦った摂津から戻った将軍・足利義昭(滝藤賢一)は、駒(門脇麦)への土産として「トンボ」を贈る。竹カゴの中でトンボを見ながら、「生きておるのじゃ」とつぶやく義昭。そのトンボは第33回で死骸となって再登場。義昭は、無造作にトンボの死骸を竹カゴから振り落としてしまう。

 ここでも「トンボ」がいい動きをしていた。竹カゴの中で羽を羽ばたかせている姿はとても窮屈そうに見えたし、死骸となって庭に落ちる様も見事だった。

 第33回を演出した一色氏は「義昭は、カゴの中のトンボを自分に重ねて見ていた。そして、カゴの中でトンボが死んでいて、その死骸を無造作に捨てるシーンを描くことで義昭の心境の変化が表現できたと思います」と、トンボのシーンを敢えて描いた脚本の緻密さを指摘する。

 振り返れば、第30回では、城を抜け出してホタルを見に行っていた義昭と駒。この頃の義昭は、将軍になればより多くの困っている人を助けられると思っていた。そんな義昭の力になりたいと思った駒は、丸薬づくりで得た金を、悲田処を作るための資金として寄付。自由に飛び回り光るホタルは、希望の光だった。しかし、摂津晴門(片岡鶴太郎)や織田信長(染谷将太)らに振り回されるうちに義昭の心が壊れ始めていることが、トンボの死骸をぞんざいに扱う姿からうかがえた。

 「生と死が隣り合わせの戦国時代、生き物は“命”を象徴的に表現できる。池端俊策さんをはじめ、脚本家の皆さんが虫や金魚(第9回で竹千代が帰蝶に自分の境遇を語った場面)を物語に取り入れるのはある種の必然。人間ではない生き物で喩えた方が、伝わるものがある。今後も象徴的に生き物が出てくることと思います」(一色氏)。

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