池松壮亮、震災とどう向き合えばいいのか 10年越しの思い【#これから私は】
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 NHK総合・BS4Kで3月6日に、東日本大震災10年 特集ドラマ『あなたのそばで明日が笑う』(後7:30~8:43)が放送される。綾瀬はるか、池松壮亮らの出演で、宮城県石巻市を舞台に行方不明の夫を待つ女性が震災を知らない建築士と出会い、心を通わせていく物語。本作で、震災を知らない移住者で建築士の葉山瑛希役を演じた池松に話を聞いた。

【写真】そのほかの場面写真

――震災からもうすぐ10年ですが、池松さんのこの10年は?

【池松】(少し考えて)長かった…ですかね。あっという間でもありましたし、難しいですね。僕は震災当時、20歳でした。あの時の衝撃はずっと忘れられずにいます。東京に出てきたばかりで、何もできなくて。それからずっと震災に対してどう向き合えば良いのかわからないという気持ちを抱えたまま、20代が過ぎていきました。

――そんな池松さんが、今回、震災を題材にしたドラマに出演し、石巻でロケも行ったわけですが…、いかがでしたか?

【池松】今回、このドラマのおはなしをいただいて、ドキッとしたんです。この国の人間にとって3.11は特別なことです。あれから10年、僕も俳優という仕事を続けてきて、そして今、感染症の流行で人間の在り方を根底から見直す時期にある中で、今、向き合わうべきだと、やっと思うことができたというのが正直なところです。石巻にも10年経ってようやく行けたんです。行ったからといって何かが変わるわけではなく、向き合い方というのも人それぞれで、向き合うことが100%正しいとも思っていませんが、ようやく自分も向き合える態勢になったのかなと思いました。向き合うにはパワーがいりましたけれども、そういう機会を与えてもらえることもなかなかないことですから、心を込めて演じたいと思いました。

――今回のドラマは、宮城県出身の三浦直之さんが書かれた物語です。綾瀬はるかさん演じる真城蒼は、宮城県石巻市の復興住宅で一人息子と暮らしながら、行方不明の夫・高臣(高良健吾)を待ち続けている女性。震災前は、夫と本屋を営んでいた。コツコツ資金を貯めて、津波で流されてしまった店を再建しようと動き出したところで、建築士の葉山と出会い、心を通わせていくストーリー。池松さんは“震災を知らない”葉山を演じていかがでしたか?

【池松】今回、葉山を演じて改めて思ったのは、自分の仕事にも通じることなんですが、震災に限らず、他者の悲しみを当事者以外の人間が人生レベルで完璧に背負うことはたぶん無理だということ。それでも僕は、お芝居で役を身にまとって他者の喜びや悲しみを追体験しているわけで、なんとかこの人の思いを引き受けて、表現したいと思って演じているんですけど、それでわかった気になってはいけないし、本当はわかっていないとも思うし。じゃあ、何ができるのかといったら、寄り添うことしか、寄り添おうとする意志表示にしかないんじゃないか、という気がしています。寄り添おうとする意志を絶対に曲げずに、そこには疑いを持たずに、そういうことをずっと握りしめていられたらな、と思っています。

――初共演となった綾瀬さんの印象は?

【池松】このドラマは、石巻で行方不明の夫のことを思って10年過ごしてきた綾瀬さん演じる蒼が笑顔になる話で、蒼は震災で甚大な被害を受けた地域の人たちの象徴として描かれています。被災地の10年、引いてはこの国の日本の10年を大衆レベルで背負って、笑える人といったら綾瀬さんしかいないのではないか。共演したからこそ、綾瀬さんほど適した人はいないんじゃないかと思いました。すごく聡明でチャーミングで意志の強い方だと思います。

――ドラマの見どころをお願いします

【池松】脚本を書かれた三浦さんは宮城県出身の方で、三浦さんとおはなしした時に、何年たっても被災地のことを思ってくれて、応援してくれてうれしい。うれしいけれど、もうそっとしておいてほしいという気持ちもゼロではないと、なかなか言いにくい気持ちも打ち明けてくださったんです。複雑な思いを10年積み重ねてきたわけで、きれい事だけではすまされない思いも、せりふの一つひとつに、また蒼と葉山の関係性にすごく反映されている気がします。被害者意識だけではない、一歩踏み込んだ物語になっているんじゃないかと思います。

それに、物語としてちょっとしたユーモアもあるんですよね。それも三浦さんならではだと思います。例えば、劇中で蒼から「あなたはこの町のことをどれくらいわかっていますか?」と言われた変わり者の葉山は、町のジオラマを作るんです。本人はいたって真面目なんですが、そういった所々のヌケ感が、非常に不完全である人間らしく、葉山のキャラクターと物語にとってプラスに作用する面白いアイデアだと思いました。葉山はジオラマを作ることで、震災前の町やこれからのことを想像しますが、やり方はどうあれ、想像することが想像しようとする意志こそが、最初の一歩であり希望だと思います。

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