“水の精霊”がモチーフの恋愛映画 黒沢清監督が絶賛「官能も恐怖も申し分なし」
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 ベルリン国際映画祭銀熊賞(監督賞)を受賞した『東ベルリンから来た女』をはじめ、『あの日のように抱きしめて』『未来を乗り換えた男』などで知られる、ドイツを代表する名匠クリスティアン・ペッツォルト監督の最新作『水を抱く女』が、今月26日より全国で順次公開される。

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 本作のモチーフは「水の精」。ギリシャ神話に根源となるモチーフがあり、だいたい美しい女性の姿をしているとされ、その神話は、多くのアーティストたちにインスピレーションを与えてきた。アンデルセンはお伽話「人魚姫」を書き上げ、チャイコフスキーはオペラ、ドビュッシーは楽曲を創作。ゲーテが“ドイツの真珠”と絶賛したロマン派のフリードリヒ・フーケが発表した傑作小説「ウンディーネ」は、現代でも読み継がれている。近年、再評価されている三島由紀夫の自伝的小説「仮面の告白」にも登場。「ドラゴンクエスト」シリーズにも、この精霊をモチーフにしたのではないかと思われるキャラクターが登場する。

 ペッツォルト監督が脚本も手掛けた本作は、現代都市ベルリンを舞台に、「愛する男に裏切られたとき、その男を殺して、水に還らなければならない」という切ない宿命を背負った女の物語。官能的なバッハの旋律にのせて、幻想的に描いている。

 ベルリンの都市開発を研究する歴史家ウンディーネ。彼女はアレクサンダー広場に隣接する小さなアパートで暮らし、博物館でガイドとして働いている。恋人のヨハネスが別の女性に心移りし、悲嘆にくれていたウンディーネの前に、愛情深い潜水作業員のクリストフが現れる。数奇な運命に導かれるように、ひかれ合うふたりだったが、次第にクリストフはウンディーネが何かから逃れようとしているような違和感を覚え始める。そのとき、彼女は自らの宿命に直面しなければならなかった…。

 本作で妖艶なウンディーネを演じたのは、『婚約者の友人』(フランソワ・オゾン監督)や『ある画家の数奇な運命』(フロリアン・ヘンケル・フォン・ドナースマルク監督)など名匠から愛される女優パウラ・ベーア。本作にて2020年ベルリン国際映画祭・銀熊賞(最優秀女優賞)を受賞し、映画祭が2021年より性別による賞を廃止するため、20代半ばにして最後の「最優秀女優賞」受賞者となった。クリストフを演じるのは、ペッツォルト監督の前作『未来を乗り換えた男』でも共演したフランツ・ロゴフスキ。

 このふたりについてペッツォルト監督は「彼らの相互作用には大きな信頼がある。これは今までに他の俳優コンビの間では感じたことはありません。彼らのあらゆる触れ合い、あらゆる視線、すべてが信頼と尊敬と信じられないほどの解放感に満ちています」と賛辞を贈っている。

 また、日本での公開に先駆けて鑑賞した黒沢清監督は「これは驚いた。ドイツ製ダーク・ファンタジーだ。ベルリンの地縛霊が忽然とよみがえり、官能も恐怖も申し分なし。こんなのがあったんだ」と驚きの声をあげている。黒澤監督が昨年、『スパイの妻』でヴェネチア国際映画祭銀獅子賞(監督賞)受賞した際に、審査員を務めていた一人がペッツォルト監督だった。

 深田晃司監督も「パウラ・べーアの視線に導かれベルリンがミクロの街角からマクロの歴史へと展げられていく快感。しかし、そこにあるのはひとりの女性への呪いだった。呪いをかけたのは誰か。巨大な悲しみをこの映画は私たちへと投げかける」と語り、漫画家の池田理代子氏は、「チャイコフスキーに『ウンディーネ』を、ドヴォルザークに『ルサルカ』を作らせ、アンデルセンに『人魚姫』を書かせた、魅惑に満ちた『水の精』の神話。永遠に人々を魅了してやまないウンディーネ(オンディーヌ)の物語が、二人の名優を得て、現代を舞台の映画として登場した。水の中に消えていく彼女の姿が、恐ろしくも愛しく魅力的で、忘れることが出来ない」と、絶賛。

 俳優の竹中直人も「止めどなく涙があふれてしまった。素晴らしい映画だった」と熱くコメント。さらに英国スコティッシュバレエ団でプリンシパルを務めるなど世界的なバレエダンサーで、かつて「オンディーヌ」を演じたことがある下村由理恵は「“宿命”とは切なく、悲しい。私自身、舞踊化されたオンディーヌを演じた時に感じたこの感情。終盤になるにつれ、どんどん引き込まれ、見終わった感覚はいままでにないものでした」とコメントを寄せている。

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