時代の空気感を切り取る映像監督Spikey John「洗練されたカッコよさだけでなく、コミカルな要素も盛り込みたい」
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 大物ヒップホップアーティストのミュージックビデオ(MV)を次々に手掛けて脚光を浴びたSpikey John氏。昨今はジャンルを問わずオファーが引きも切らない新進映像監督である。最近ではミュージシャン・藤井風の新曲「きらり」(Honda「VEZEL e:HEV」のCMソング)のMVで新境地を開いている。1996年生まれ、物心ついた頃からデジタルツールが身近に存在していた、いわゆるZ世代の彼は、映像ありきで音楽を聴く今の時代に、どのような視点で新たな音楽の聴き方を提供しているのだろうか。

【動画】Spikey John監督が手がけた藤井風「きらり」MV

■「カッコいい」の捉え方は人それぞれ 共通言語になり得るのは「笑える」「ウケる」ツボ

──藤井風さんとは「もうええわ」(20年)以来のタッグですが、「きらり」では映像の雰囲気がかなり変わった印象です。

 たぶんCGを使っているからでしょう。「もうええわ」では自分がそれまでやってきたことの延長に近くて、ストリートで撮りきったわけですが、今回初めて、MVにCGを取り入れてみたんです。

──Twitterで「俺の中ではこのビデオは映像人生の集大成です」とつぶやいていました。この真意を教えていただけますか。

 今回初めてVコンテを作ったんです。それまではわりと感覚で撮ってきたところが大きくて。理由はシンプルに技術がなかったから。技術で勝負してもキャリアのある監督には絶対に勝てないので、即興性とか柔軟性、その場のノリみたいな部分を大事にしてきたんです。実際、それで思いもよらない面白い絵が撮れたりもしましたし。ただ「きらり」は、ダンスやCGなど盛り込む要素が多いことや、何よりチームの規模がこれまでとは格段に違って大きかったので、全員が最終的にどんな映像になるかをVコンテで共有しておかないと、撮影に臨めないという状況があったんですよね。

──Vコンテを作ったことで、ご自身の持ち味が削がれてしまったと感じたことはないですか。

 それは特になかったです。むしろ今までVコンテを作らないでやってくることができたことが奇跡的だったとわかって、「きらり」以降はVコンテを作ることが増えました。

──これまでとは方法論の違うMV制作で、ご自身のカラーをどんなところに反映させましたか。

 これまでのMVもそうですが、洗練されたカッコいいだけの映像はイヤで、どこかバカバカしいコミカルな要素は絶対に入れたくて。今回のMVで言えば、わりと頭の方に出てくる自転車に乗った人。ほんの数秒のシーンですけど、何テイクも撮ったんですよ。リアルにやるとただ映り込んだだけみたいになってしまうし、オーバーにやるとダサいし、風くんとの距離感も含めてちょうどいいところを探って(笑)。

──意外なところにこだわられたんですね。

 現場にいたスタッフの中には「そこ、こだわる?」って思った人もいるかもしれない。だけど映像監督ってきっとみんな自分にしかわからないこだわりというものがあって、それが後々の編集にも活きてくると思うんです。今回のチームには俺よりキャリアの上の人もたくさんいましたが、「この絵が撮れるまでは絶対に次に行かねえぞ」っていうところは貫き通しました。

──藤井さんとは偶然にも同郷で同世代。「もうええわ」の際には、意見の相違もあったようですね。

 そのときにフィールしたから、今回はお互いのアイデアを認め合っていい感じで制作できました。歌詞を読むとわかると思いますが、風くんは音楽以前に人としてすごく広い目線で世界を見ていて、懐が深いというか、「どんなヤツも見捨てない」みたいな思想に共感するところがあります。「きらり」のMVには女子高生やサラリーマン、アキバ系オタクといった多様な人々が登場しますが、それも人それぞれが持つカッコいい面とクスッとなる面を入れたかったからなんです。

──コミカルな要素にこだわる理由は?

 単純にふざけるのが好きだっていうことと、「カッコいい」って人によって捉え方がすごく違うんですよね。俺はヒップホップが好きですが、上京して入った大学はアニメ好きな人が多くて「ヒップホップとかダサくね?」みたいに言われたことがあるんです。俺がどれだけカッコよさを説明しても「うーん」みたいにわかってもらえない。でも、「笑える」とか「ウケる」みたいなツボは結構みんな一緒で、共通言語ってここにあるのかなってなんとなく思ったんです。

■押し付けられるのがイヤなZ世代は自分で選択したい気持ちが強い

──MVには楽曲を広く届ける役割があります。その点では共通言語は大切ですが、「バズる」ために工夫していることはありますか?

 もちろんたくさんの人に観てもらいたいけれど、バズを意識して作ったことはないです。狙って売っていこうとすると嫌われると思うんですよね。特に俺らの世代は、広告っぽい匂いがした途端に拒否反応を起こす傾向があります。「あんなに応援していたのに、踊らされていたんだ」って知った途端に冷めるどころかものすごく不信感を持ってしまう。もちろん広告にも表現として面白いものはあるけれど、押し付けられるのはイヤというか。「自分で選択したい」という気持ちがめちゃくちゃ強いんだと思います。

──では逆に、Spikey Johnさんの世代に刺さる表現とはどういうものですか。

 作り手が楽しんでいるものですね。TikTokでも女子高生が幸せそうに踊っているだけの映像がすごくバズったりするでしょう。だからクリエイターもそうじゃなきゃいけないと思うんです。「俺が好きなものはみんなも好きでしょ」って気持ちで作ったものは、結果的にバズるか、そうならなくても少なくとも好意的には受け取られるんじゃないかと思います。

──最初に「プロ」を意識した仕事を教えてください。

 SKY-HIさんの「Marble」(17年)かな。正直、俺は何もしてないんです。あのMVはスタジオでシンプルにカラフルな映像で撮りたいっていうオファーだったのですが、照明のことなんて何もわからない。それで、照明ディレクターの池田啓介さんを紹介してもらって、電球の演出から何から全部その人のアイデアでやってもらったんです。俺はただ映像を編集しただけでした。

──"メジャー仕事"を経験して、映像監督としての壁にぶつかったということでしょうか?

 そうですね。それまでは仲間との遊びの延長で撮っていましたからね。ツールこそ高校時代に友だちとふざけてバカバカしい動画を撮っていたスマホから、上京して一眼レフに変わったけれど、最初は設定の仕方もわかんなくてネットで検索しながら覚えていったくらいですからね。

■演出の技術を極めて、同業者に「すげえ」って言われる存在になりたい

──映像監督として最初に注目を集めたのは、17年にバイラルヒットしたJP THE WAVY「Cho Wavy De Gomenne Remix feat. SALU」のMVでした。

 あれは仲間の延長上で制作したので、仕事という感覚ではなかったです。岡山から上京してきて、ヒップホップが好きだったのでSNSでいろんなアーティストと繋がっていくうちに可愛がってもらうようになって。そういう関係値の中で「こいつ結構(映像の)アガリいいよ」ってことで撮らせてもらっていたんです。

──逆を言えば技術がなくても、感性であれだけのクオリティのMVが撮れていたんですね。

 いや、それでチヤホヤされて調子に乗っていた自分が恥ずかしいです。照明の池田さんもそうですが、各分野にすごいプロがいるって思い知らされてからは、技術が全然足りてないのに注目されるのがすごくイヤになって。若いってだけで脚光を浴びているところもあるだろうし、キャリアのある映像監督は俺みたいな存在はイヤだろうなって思います(苦笑)。だからこそ、きっちりと演出の技術を極めたいんですよね。

──師匠のような存在はいらっしゃるのでしょうか?

 映像作家の木村太一さんは、弟子というわけじゃないけどずっとリスペクトしてます。映像を編集していてモヤモヤしたときなどには「どう思いますか?」って送ったりして。そうするとズバッと厳しい一言が返ってくるんですが、けなすだけじゃなくて、ちゃんと「お前の良さは映像と音楽のノリなのに、音と被写体の動きが合ってない」とか納得できるアドバイスをくれるんです。心の師匠という感覚はこの先も変わらないだろうなと思います。

──すでに名前でオファーがくる存在になっていると思いますが、今後さらにご自身のカラーを強めるために必要だと思っていることはありますか。

 ブランディングみたいなものにはあまり興味がないんです。一般的に広く名前が知られるというよりは、いろいろわかっている同業者に「すげえ」って言われたい。よく一緒に作品を作っている、事務所の先輩でもある音楽プロデューサーのDJ UPPERCUTさんはトラックも作れるし、マスタリングやミックスができて、楽器も触れて…、そういった音楽の知識がある上にセンスもあってすごい刺激を受けているんですよ。一流ってこういうことなんだなって。それを自分に置き換えると、できないことがあまりにも多い。だから今は遊んでいるヒマはなくて、本腰を入れて学び直しているところです。それで自分が納得できる映像が作れるようになったら、もっといばってもいいのかなと(笑)。

(文・児玉澄子)

【Spikey John 氏 Profile】
2016年、ストリートの空気を瞬時に切り取る独自の着眼点と機材についての豊富な知識を武器にシーンに颯爽と登場した若干25歳の映像監督。年間30本以上の作品をリリースし続けるハイペースな作品量とそのクオリティの高さで様々なアーティストから絶大な支持を受ける。音楽チームとヴィジュアルチームで構成されるクリエイティブ・プロダクションGROUNDRIDDIM(グラウンドリディム)所属。

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