コロナ禍を反映したドラマが激減 “コロナ慣れ”した今、求められるドラマのあり方とは
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 今期のドラマを観ていると、マスクを着用するといったコロナ禍の世界観を描いたものがなくなりつつあるのが分かる。昨年は、『#リモラブ ~普通の恋は邪道~』(日本テレビ系)でソーシャルディスタンスの世界で始まる恋をテーマにしたり、『俺の家の話』(TBS系)では登場人物が外出時、常にマスクを着用したりと、多くの作品がコロナ禍を反映させた展開になっていた。当時、SNSでは多くの賛否が寄せられていたのだが、昨今は少々事情が異なるようだ。“コロナ慣れ”した今の視聴者がドラマに求めるものとは。

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■コロナ禍設定のドラマの意義は“鼓舞” 乗り越えようという気概がドラマに反映

 突如、世界中を襲ったコロナ禍。これにより波瑠主演の『#リモラブ』、長瀬智也主演『俺の家の話』など、新型コロナウイルスのまん延を日常として描く作品が多く登場し、有村架純主演『姉ちゃんの恋人』(関西テレビ制作)でも、マスクに群がる人々の姿や、高橋海人らが演じた弟役が自粛期間中に料理が得意になったというエピソードが描かれるように。

 また、お正月に放送された『逃げるは恥だが役に立つ』(TBS系)でもコロナ禍の日常がメインテーマに。変わり種では秋元康×中田秀夫監督(映画『リング』『スマホを落としただけなのに』)による本田翼ら出演『リモートで殺される』(日本テレビ系)。ほぼリモート画面だけで展開されるサスペンス(回想シーンはロケ)で、これまでにないタイプの作品が生まれた。

 「この背景には、2020年4月期の連続ドラマの撮影が緊急事態宣言によって止まってしまったという苦い経験があります」と話すのは、メディア研究家の衣輪晋一氏。「例えば、『#リモラブ』の櫨山裕子プロデューサーは過去のインタビューで、10月期の作品が作れるのかと悩み、リモートでも可能で撮影を止めなくても済む形を探して設定を練ったとお話を。もちろん、視聴者が自身を投影できるようコロナの日常を描こうとしたパターンもありますが、この時期に制作された作品は、どれも手探りだった印象があります」(同氏)

 昨年は、緊急事態宣言の発令などによる外出自粛や営業自粛を受けたり、“3密の回避”や“ソーシャルディスタンスの確保”など、生活に大きな変化が訪れた「コロナ元年」。この危機を乗り越えるために、皆が辛いことを共有し、お互いに励まし合おうという思いが先行していた。そういった思いを受けて昨年に企画・撮影されたドラマが今年初めに公開されていたのだ。

■“コロナ慣れ”した視聴者が求めるのは「現実を忘れさせてくれる時間」

 しかし、この1年で視聴者は“コロナ慣れ”してしまった。感染対策は当たり前になり、活動の自粛は恒常化。そんな中で、視聴者がドラマに求めるものは、コロナを意識させた「頑張ろう」のメッセージではなく、現実を忘れさせてくれるフィクションが多くなってきた。

 コロナ禍を反映させたドラマに対して当時、SNSでは「コロナのある日常だったから自分と地続きに見てた」といった声のほか、「消毒したりマスクをしたり人に会えないといった窮屈な生活が私だけじゃないと思った」などの声が。そのほか、「『#リモラブ』の波瑠、マスクして目元だけの演技なのに気持ちが伝わってすごい」という称賛が寄せられるなどしている。

 一方で「コロナ設定がノイズになってる」「せめてエンタメの世界だけはヒリヒリする世の中のこと忘れたい」といった意見も多く見られていた。逆に、当時のコロナ禍を反映させてないドラマに対しては「マスクをしてないことに違和感がある」「マスクしてないなんてどこの世界観のお話?」など反感の声もあったが、そういったコメントも、時間が経つにつれ徐々に減少傾向に。

 「視聴者がどれだけ、コロナ禍以前の“日常”を求め始めているかという表れ。ここ昨今、ラジオでは10代の若者の聴取率が2倍以上、他世代も10~15%伸びていますが、この現象について、株式会社radiko取締役は、コロナや暗いニュースが多い中、ラジオは割と気軽に日常的な話が聞けるので、ほっとできるのでは、と回答されていました。アニメ、とりわけ『サザエさん』もコロナ禍のない世界感で『サザエさん時空はやっぱり違う』などと揶揄されたりしていましたが、今やそうした声はほとんど聞かれず。やはり、コロナという窮屈な現実を忘れたいためにフィクションを観たいと感じる視聴者が多くなっていると感じます」(衣輪氏)

 視聴者の感情も影響しているのだろうし、制作側も理解しているのだろう。コロナ禍を描くドラマはますます減っていった。

■あえてコロナ禍を演出 リアルな癒しを提供するテレ東の手法

 そんな中、他局とは違ったアプローチをしているテレビ局がある。「やはり」というべきか「さすが」というべきか。その唯一とは、テレビ東京である。現在ではほとんどのドラマにコロナの設定が反映されていないが、テレビ東京の『孤独のグルメ』や『サ道2021』、『ひねくれ女のボッチ飯』などはコロナ禍としっかり向き合っている。直近のORICON NEWSのアンケート調査によるドラマ満足度ランキングでは、その『孤独のグルメ』が2位に。

 SNSに目を向けると「登場人物がマスクしたり、アルコール消毒してるから感染対策的に見ているこっち側も安心」「ちゃんとマスクしているリアルタイム感がいい」「マスクしているのは悲しい気がするけど、でもやっぱり五郎(松重豊)ちゃん見てると癒やされるなあ」など肯定的な声で溢れている。

 これらのドラマで共通するのは、どちらも「コロナ禍でも頑張ろう」というメッセージではなく、コロナ禍における“癒し”を描いているところだろう。どのドラマも“今”のリアルに忠実な、誰にでもある日常の一コマを作品にしている。他のドラマは主人公や内容が自分に投影しづらい設定であり、それによってコロナを忘れさせてくれるが、これらテレ東のドラマは逆に普段の生活の中で、コロナを忘れられる癒しの瞬間を描くことで視聴者の需要にこたえている。また先ほど衣輪氏が述べたように、その演出で、撮影中の感染対策にも一役買っている。

 「日本人は結局“時代劇が好き”という一面がありますが、コロナが反映されてないドラマというのは、いわばコロナ禍以前の時を描いた“時代劇”とも言えるわけです。テレ東のアプローチは面白いですが、すべてがそうであればいいというわけではない。『半沢直樹』(TBS系)のシーズン2が大盛り上がりしたように“時代劇”的な作品もあって、さまざまなアプローチがあり、多くのパターンから人々は自分の気分で選択。“現実”ではなく“辛さ”“窮屈さ”を忘れさせてくれるというエンタメの使命は変わりません」(衣輪氏)

 今なお、コロナ禍の影響が実生活の隅々まで及び、それが辛いと感じている人は多いだろう。現在、バラエティ番組や音楽番組でも、コロナを全く意識しない番組構成は不可能な中で、エンタメ作品だけが唯一、コロナを無視した世界観を作り出すことができる。ドラマの中だけでも現実逃避する時間があってもいいのではないだろうか。

(文/中野ナガ)

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