建築士主人公に家族の物語 横山秀夫さん「ノースライト」刊行
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インタビューに答える横山秀夫さん
自宅書斎で、新刊「ノースライト」について語る横山さん
横山秀夫さんの著書「ノースライト」(新潮社)

 群馬県の元上毛新聞記者の作家、横山秀夫さん(62)の6年ぶりの新作長編「ノースライト」(新潮社)が刊行された。警察小説の名手が手掛けた平成最後のミステリーは、1級建築士が主人公。新築の家に残された「タウトの椅子」の謎を絡めながら、家族の物語を重層的に描いた。

◎ブルーノ・タウト鍵に家族を描く 内面に目 人間葛藤劇を演出

 主人公の青瀬稔が設計したY邸は建築雑誌にも取り上げられた会心作。だが、引っ越してきたはずの施主一家は1脚の椅子だけを残して消えていた。自身の家族や家への葛藤を抱える青瀬が施主一家の行方を追い、椅子の謎に迫っていく。

 雑誌「旅」の2004年5月号~06年2月号に連載した作品を全面改稿した。「自分としてはさまざまな意味でイレギュラーな作品。旅情ミステリーの形を借りつつ、そこに人生の旅情をのせたいと思って書き始めた」と振り返る。

 鍵となる群馬県ゆかりの建築家、ブルーノ・タウトは主人公の合わせ鏡のような存在。所沢、熱海、少林山などの場所が実名で登場し、ダム建設やバブルの時代が象徴的に描かれている。

 「改稿している間、話がどんどん古くなり、陳腐化していくという恐怖心があったが、次第に今を恐れるなという感覚になった。長いスパンで今を捉えないと、書くべきことを書き逃してしまう」

 【あらすじ】 主人公は1級建築士の青瀬稔。施主にほれ込まれて設計したY邸は会心作だったが、住んでいるはずの一家は姿を消していた。施主一家の行方とY邸に残された「タウトの椅子」の謎を追いながら、青瀬が自身の家族や家に対して抱いている葛藤と向き合っていく。四六判、432ページ。1944円。

―執筆で苦労した点は。
 主人公にとって最大の負荷をかけ、物語を推進するのが私の物語の作り方。建築士にとって、自分の建てた家に誰も住まず、空き家になっているのは最もあってほしくない出来事だろう。プロットに縛られず、小説っぽい輪郭線を消すのが私の手法だが、輪郭線がないだけに物語の求心力が生まれないと四散してしまう。おおもとの原稿は全体を統合する求心力がなかった。連載として終えてはいたが、小説になっておらず、全面改稿した。

―小説としての引力となったのはどこか。
 最終的に、主人公と自分がどこまで接近できるかだった。その人物が全面的に好きとか、その人でありたいというのではない。批判的な目を持っているにせよ、その感情をきちんと追跡できるかどうか。「建築家」ではなく、建築家を名乗ることにためらいのある「建築士」の内面世界に目を向け、主人公にしたのは自分らしい選択だった。

―多くの警察小説で「組織と個人」を主題にしてきたが、今回は「家族」を描いた。
 これまで短編でも、家族について付け足しでなく、自分の思うところを凝縮して書いてはいた。「64(ロクヨン)」(文芸春秋、2012年)で「組織と個人」を半分、「家族」を半分というかたちで書き上げた後だったので、今度は家族を思いきり押し出してみようと思った。家族の物語を重層的に描いていくところに苦労したが、人間葛藤劇を優先させ、少しずつ謎解きをする作りにした結果、登場人物全員に見せ場を作れた。

―冒頭に「旅」の編集長だった木村由花さんへの献辞がある。
 「旅」はかつて松本清張さんが「点と線」を連載した雑誌。「『点と線』を超えるものをお願いします」と依頼してくださったのが木村さんだった。連載終了後、一緒に本を作るはずだったが、4年前に亡くなられてしまった。自分は一生懸命、改稿しているつもりだったが、本当に最大限の努力をしていたかという疑いが湧き上がった。完成した原稿を読んでもらえなかったことは悔やんでも悔やみきれない。天国にも本屋があるというから、見つけてほしい。自分の持っている力を全部注ぎ込んで、いいものにしたいという思いで書いた。

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