《プレゼンター》鳥瞰図で見るまちの歴史と未来 画家・山口晃氏
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@東京・台東区のアトリエ
やまぐち・あきら 1969年東京生まれ、桐生市育ち。桐生高―東京芸術大大学院修了。平等院養林庵書院に襖(ふすま)絵を奉納、成田国際空港の透視図を手掛けるなど多方面で活躍。

 大和絵を思わせるタッチで今昔の人や建物を緻密に描き、鳥瞰ちょうかん図のように仕上げるなど、時空を超越した数々の作品を生み出している。かつて油絵を学ぶ中で日本古来の表現方法にも目を向け、融合させながら、独自の世界観を築き上げてきた。日本の現代美術を代表する存在となった今も、挑戦の日々は続く。

◎素直な心で風景見て
 五輪を軸に日本の近現代史を描く、今年のNHK大河ドラマ「いだてん~東京オリムピックばなし~」のタイトルバック画を手掛けた。「歴史が積層した東京の絵を描いてほしい」。2017年秋ごろ、番組プロデューサーから提案があり、東京の街や歴史性について話し合った。物語に登場する日本橋、浅草などを過去や現在の写真や映像資料で調べつつ、創作していった。

 絵は縦1.6メートル、横2.6メートル。主に山手線沿いの風景や建物を寄せ集めた鳥瞰図になっている。皇居、江戸城を中心として東京駅、羽田、谷中、港区の高層ビルなどを実際の地図に近い配置で描いた。

 建物や人の線は墨で描き、抑揚と味わいを出した。浅草や芝といった地名は黒いペンで、色は水彩を中心に使って即興的に入れた。西洋絵画の視点は一つだが、多様な視点から見ることができるよう、場所ごとに風景や建物、人の縮尺を変えている。いろいろな大きさの人が同じ世界に収まっていて、どの人に自分を仮託するかで、街のスケールが変わって見える。

 *タイトルバックでは、山口さんの絵に1964年の東京五輪や出演者が走る映像などがコラージュされている。物語に合わせ、放送回ごとに絵の中で焦点が当たる場所や映像が変わっていくのも見どころだ。

 絵が映像に収まり、彩度を上げるなど色調整され、音が付いて動き、役者が走り、実写フィルムが重みを加えてくれると立派な絵に見える。何人もの名前が流れ、自分もその一員かと思うと腹の底から熱くなる。これに浮かされぬように気を付けなければ。お金と手間をかけ、絵にいろいろと魔法をかけていただき、申し訳ないような、ありがたいような。あちらの手品の使い方で、今後どうなるのか楽しみ。

◆時代は今◆住民が落ち着く景観に

 人間は物事をすぐに理解して、次に行きたがる生き物だ。瞬時の判断が習い性になっていて、絵もそのように見てしまう。よく「どんな思いを込めて描いたのか」と聞かれるが、絵をメッセージの代替にはしない。

 絵のことだけを考え、「こんな配色にしたらいい」などと教えてくれる絵の声を聞き、絵を一番いい気持ちにしてやろうと思って描いている。そうすると、結果的に見る人が喜んでくれたり、絵に込められた思いを考えるきっかけになる。

 作品は見る人のものでも、描いた人のものですらないかもしれない。絵には作者の痕跡があり、「私が汚しました」とは言えるが、「私のものです」とは果たして言えるのだろうか。

 個人は別の存在だから、思いが伝わらない壁があるが、いい絵ほどそれをある瞬間忘れさせ、「自分のもの」とか、「私のために描いてくれた」と思わせる。

 *原点は幼少期からチラシの裏などに描いていた「お絵描き」。もっとうまくなりたいと、虫や人形などを一生懸命描いた。現在も根本は変わらない。

 絵は自分が捉えられたり、満足のいくようなものではない。それでも先人の絵に陶酔し、「あんなのをやってみたい」と思って描き続け、「今回も失敗だ」と繰り返す。だが、止めることはできない。絵は自分の友達。けんかをするときもあるが、遊んでいると楽しく、ずっと一緒にいてくれる。

 *近年、景観を改善しようと、無電柱化が全国で進む。なぜ電柱をなくすのか、電柱が風景でどのような役割を果たしてきたのかを考えなければ、景観向上にはつながらないと考える。

◆経験は語る◆正しい歴史を知る必要

 電柱をなくすのは悪いことではないが、そもそも電柱は明治以降の風景にずっとあったものだ。電柱のない景色が似合うのは江戸期以前。近代以降の景色から電柱を排除すると、元の風景の構成要素を取り除くことになり、代わりの風景的な厚みを何が担保するのか考えなければならない。

 よい景観をつくるには、人々がまっさらな気持ちで風景を見るのが大事。「コンクリートは醜い」「伝統的なものはいい」とは限らない。先入観にとらわれると、いいものも悪いものも分からなくなる。

 ぱっと来た人がすぐ分かる景観は味付けが濃く不自然だ。地元の人が見て、心地よいと感じる景観が一番。その土地の人が、その土地のもので建物や石畳などを作ると、その場にいる人を風景が受け止めてくれて、しみじみと住んでいてよかったという思いになる。

 風景にしみじみと感動するという素直な感情は日々体験しないと鈍る。街を歩き、長いスパンでいろんなものを見ると、どんな風景がいいのか、目が肥えてくる。地元に長くいる人、よそから来る人、それぞれが気付けることがある。いい景観づくりは、そんな双方の視点が大切だと思う。

 *新しい時代を迎えて変えるべきもの、変えずに守るべきものがある。

◆こう戦おう◆五輪契機に世界へ関心

 令和になったからといって世の中は変わらない。人が変わることで世の中が変わる。差別をしない、まっとうな若い人がすくすくと育つ時代になってほしい。かつて戦争があり、たくさんの命が奪われたことなど、つらくても正しい歴史を知り、過ちを繰り返さないことが大切。後世の人間は、過ちを犯した人のように取り返しがつかないということはないのだから。

 来年の東京五輪・パラリンピックでは、たくさんの国の人たちが来る。興味を世界に向けるきっかけにしたい。日本人がどう活躍するか、金メダルはいくつかではなく、こんな国、こんな競技があると知る機会にしたい。英語くらいは使えて、世界の人とコミュニケーションできたらと思う。

 便利な機械が増え、心身を使って何かを経験し、感じる機会が少なくなるだろう。新しい時代、どれだけまっとうに古くいられるか。考えたいと思う。(聞き手・丸岡美貴、撮影・大橋周平)

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