人の心描くミステリー 映画「影踏み」公開まで1カ月 3者鼎談
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鼎談に臨む3人=上毛新聞社
(左から)監督の篠原哲雄さん、主演の山崎まさよしさん、原作の横山秀夫さん

 全編を群馬県で撮影した横山秀夫さん原作の映画「影踏み」(篠原哲雄監督)が11月8日から、全国に先駆けて群馬県内で上映される。

 主演は歌手の山崎まさよしさん。中之条町を中心に撮影された映画「月とキャベツ」(1996年)でメガホンを取った篠原監督と再びタッグを組み、前橋、高崎、伊勢崎、沼田、藤岡、中之条の6市町で撮影を行った。

 公開を1カ月後に控え、山崎さん、篠原監督、横山さんが上毛新聞社で鼎談ていだん。篠原監督は「ミステリーでありながら、人の心についての映画になった。原作と映画の違いを楽しんでほしい」と訴えた。全国公開は同15日。

◎心映し出す異色作…3人が思い
 群馬県で全編を撮影した映画「影踏み」の先行上映が11月8日、県内でスタートする。封切りを1カ月後に控える中、主演の山崎まさよしさん、篠原哲雄監督、原作者の横山秀夫さんが作品に込めた思いやロケの思い出を語り合った。

―映画化のきっかけは。
 【横山】2016年の伊参スタジオ映画祭(中之条町)で、山崎さんと初めて出会った。
 【篠原】「月とキャベツ」の公開20周年記念と、同年に公開された横山さん原作の映画「64(ロクヨン)」の対談イベントが重なった。
 【山崎】もともと横山さんの作品のファン。積極的なほうではないが、どうしてもお話がしたくて話し掛けた。
 【篠原】20周年という節目で、また山崎さんの主演映画を撮りたくなった。横山さんは伊参スタジオ映画祭の審査員を13年から3年間務めた縁もあり、「横山さんの原作で(映画を)やろう」という話になった。
 【横山】うれしいお話だが、自作で映像化されていないのは「影踏み」だけ。山崎さんを泥棒にしては申し訳ないと思ったが、恐る恐る提案した。
 【山崎】確かに主人公は反社会的だが、嫌なイメージはない。横山さんの原作で篠原監督と来れば、断る理由がなかった。

◎「地面すれすれの視点で社会描く」…原作・横山秀夫さん

―主人公の真壁修一は、深夜に民家に忍び込んで盗みを働くすご腕の「ノビ師」だ。
 【横山】それまでは組織の中の個人や、組織と個人の相克を描いてきたが、そこから離れて、社会を地面すれすれの視点から描き、合わせ鏡をつくり出すことで作品世界が総合的に完成すると思った。泥棒が主人公の場合、アウトローのノワール(犯罪小説)になるか、おしゃれな雰囲気でコミカルに描かれることが多いが、そのど真ん中を貫きたかった。そこで出てきたのが真壁だ。行為は反社会的だが、自分なりのルールを持っている。
 【山崎】その行為には、過去のある出来事が関係している。人は誰しも、ある程度の年齢になれば大なり小なり闇を持っている。だから人間は面白い。
 【篠原】映画では、その人本来の姿が役を通して出せればいいと思っている。原作の真壁は反社会的な持ち味や悪の部分があるが、山崎さんが演じることを想定して脚本を仕上げた。泥棒だが憎めない、愛らしいアウトローになった。

◎「原作との違いを楽しんでほしい」…監督・篠原哲雄さん

―ファンタジーの要素もあり、原作とは異なった設定やラストが見どころになっている。
 【横山】小説のテーマは重層的だ。真壁を存在させるため、物語を進行させるために必要な設定だったが、アイデアを聞いたときは驚いた。
 【篠原】プロデューサーや脚本家とも意見が一致した。原作は連作短編小説だが、2時間の映画に全てを盛り込むと内容がぶれてしまう。ある事件にまつわる謎解きと、真壁が過去に対して落とし前を付けることに的を絞った。原作と映画の違いを楽しんでほしい。

◎「忘れかけたもの取り戻せる群馬」…主演・山崎まさよしさん

―撮影は県内6市町で行われた。
 【山崎】「月とキャベツ」では中之条町が中心だったが、今回は主に人が多く暮らす場所での撮影。どのロケ地も落ち着いていて、子育てに良さそうだと感じた。群馬は忘れかけていたものを取り戻せるような場所だ。
 【篠原】オール地方ロケはスタッフみんなで合宿できるのがいい。同じ宿で同じ飯を食べ、ずっと映画に漬かっていられる。都内での撮影だと、そうした時間が分断されてしまう。一つの映画に向き合える環境は大きなメリットだ。
 【横山】何度かロケを見学した。原作者は傍観しなければならないという心持ちだったが、今回は自然と関わることができた。映画祭の審査員を務めたことで監督や山崎さんと出会い、映画祭のスタッフとも付き合いが続いている。東京から群馬に来て40年になるが、映画を通じて、やっと群馬の仲間入りができたと実感している。

―伊参スタジオ映画祭は本作の製作委員会にも参画している。
 【篠原】映画祭は、県人口200万人を記念して伊参スタジオを拠点に作られた映画「眠る男」(1996年)が発端だ。その後「月とキャベツ」が撮られ、2001年に映画祭が誕生。シナリオ大賞も創設され、毎年、中之条町を中心に映画が作られている。こんなに熱意を持って取り組む映画祭は他にない。大規模な商業映画への参画は、二十数年の集大成であり、新たな始まりの一歩でもある。

―本作の見どころは。
 【山崎】いろいろな要素があり、登場人物の心の動きもさまざま。見た人の心に何かしら響くことを期待している。主題歌だけでなく、シーンに合わせた音楽を付ける「劇伴」も担当した。一緒に楽しんでほしい。
 【横山】いつも感想を聞かれては違うことを答えているが、それこそが魅力の一つ。伝わるものが多面的で多義的。一つ一つの場面が連なり、ラストシーンと主題歌に結実している。自分の作品としても異色だが、映画も素晴らしい異色作だ。
 【篠原】泥棒の話だが、真壁が一人の人間としてどう歩むか、人の心についての映画でもある。そうした人間ドラマを作ることができて本当に良かった。

 《ストーリー》 ある晩、真壁修一(山崎まさよし)は、盗みに入った民家で、寝ている夫に火を放とうとする妻、葉子(中村ゆり)を目撃する。とっさに止めに入った直後、刑事に逮捕される。2年後、出所した修一は、弟の啓二(北村匠海)と共に気掛かりだった疑問について調べ始める。恋人の久子(尾野真千子)の静止を振り切り、自らの流儀で真相に迫る。

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