《プレゼンター》遠慮せず魅力伝える だるま職人・中田千尋さん
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高崎だるまの魅力を発信し続ける中田千尋さん
@だるまのふるさと大門屋

 国内最大のシェアを誇る高崎だるまは「福だるま」「縁起だるま」と呼ばれ、群馬県を代表する伝統工芸品だ。正月のだるま市でも知られ、全国へ販売されているが、近年はアジアなど海外に販路を求めたり、インバウンド(訪日外国人客)のターゲットになろうとしたりする動きも目立つ。人口減少で縮小する国内市場を尻目に、海外での展示販売会や会員制交流サイト(SNS)を通じ、国境を軽々と越えて新たな需要を取り込んでいる。

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 家業の「だるまのふるさと大門屋」(高崎市)で、だるまに入れる文字などを描きながら営業、広報を担当している。英語でだるまを説明するとき、最近は「ウィッシング・ドール」と訳す。「願い事を叶えるための人形」の意味だ。昨年販売会社の日本人社長が訳しているのを聞き、ふに落ちて使うようになった。心に向ける感じがいい。海外に行くと、日本や自分たちがやっていることの良さが分かることがある。だるまをよく知らない日本人にも説明しやすくなった。

 *江戸時代から200年の歴史があるといわれる高崎だるまは上毛かるたに詠まれ、県民の心に深く浸透する。ブランド力は揺るぎない。

 かつて120軒ほどあった高崎のだるま屋さんは半分に減ってしまった。皆だるまを作るのは上手で、素晴らしい技術があるのに営業の仕方が控えめ過ぎる。日本人は謙遜する。群馬の人もそう。自分はお客さんにだるまを自慢しまくる。

 海外でパフォーマンスするときは、だるまを自慢しながら売る。だるまは縁起物。華やかなものが好きだから、金の文字を太く描く。「わっ、上手」と言われると、「でしょ、もっと買って」とか。遠慮せず、もっと積極的にアピールした方がいい。自信がないものを売っているのかと思われてしまう。

 高崎だるまが今の形になって60年。伝統があるから魅力がある。だるまの形は変えず、歴史は守る。でも古いやり方で売っていては駄目。「温故創新」の考え方が必要だと思う。

◆時代は今◆海外で群馬の営業活動
 3姉妹で、父は創業から4代目のだるま職人。年間7万個のだるまを生産し、鶴と亀を表すだるまのひげは全て父が描いている。小さい頃からだるまが近くにあった。だるまは家族。生かしてもらっているから、「だるまさん」と呼んでいる。

 学生時代はクラブで遊んでばかりいた。卒業して家に戻り家業を手伝ったが、仕事の態度はちゃらんぽらん。父から「外に出ろ」と言われ、営業の仕事を得た。早くだるまの仕事に戻りたかったから、営業成績を上げた。

 *語学が得意。家業に入ってから英語を磨いた。2016年から中国語を習得し、仕事に生かしている。

◆経験は語る◆自信を持って発信する
 1年で家業に戻り、大学でかじった英語を使おうと思ったが、話せない。メールで外国のお客さんと取引する時、グーグルで例文を検索したりして学んだ。今は国際線の客室乗務員よりできる自信がある。中国語は台湾人の先生から2週間に一回、半年ほど習ったり、店に来たお客さんに教えてもらった。最近気付いたが、耳がいいのかも。中国語は本を読むのは無理だけど話せる。言葉ができるようになったら、父が行っていた台湾の販売先を、自分が任されるようになった。

 *県が関係する海外での県産品の展示即売会に積極的に出向く。1月には中国・蘇州で開かれた日本商品の販促イベント「第5回蘇州ジャパンブランド」で、高崎だるまの「絵付けショー」に登場、脚光を浴びた。

 県上海事務所から「ぜひパフォーマーとして出てほしい」と言われた。現地のイオンモールの1~4階から見える所で、大勢のお客さんを前に金粉でだるまに字を入れるパフォーマンスをした。商売繁盛、家内安全を意味する中国語を書く。「だるまってすごいんだよ」「かわいいでしょ」と中国語で話しながら、競りをした。定価の4倍近い値段で買ってもらえた。

◆こう戦おう◆越境ECで個人に販売
 職人っぽくないと言われるが、技術は自信がある。言葉も話せるから、お客さんが来て、関心を持ってもらえる。海外で開かれるイベントに声を掛けてもらえることが増えた。県から誘われたら、実費を払っても行くことにしている。

 *インバウンドに向け、海外では世界遺産の富岡製糸場など群馬県の魅力ある観光地を一緒にアピールする。

 「大門屋に来てください」と言っても、海外から人を呼べない。群馬は東京や北海道、沖縄と違う。だるまという日本文化体験と世界遺産、温泉、フルーツ狩り。食べる、くつろぐ、遊ぶが加わらないと駄目。東京から近くて歴史、文化、自然があって深い遊びができるのが群馬の良いところ。自然と群馬のほかのスポットの営業活動をやっている。

 *インスタグラムなどSNSで積極的に発信。海外向けメディアに取り上げられ、特に台湾で人気が高まりつつある。

 中国語で「今日はだるまのベースの色塗っているよ」などと、インスタのストーリー機能を使って毎日発信している。閲覧者は一日に500人ほど。最近は台湾の花蓮にある寺院で半年に一度、自分の販売イベントを開いていて、遠くから人が集まってくれる。ファンの人が「千尋が来た」と喜んで、ホテル代を出してくれたり、食事をごちそうしてくれたり。でも「お前のやり方消えろ」とか、ネットにはディスる(さげすむ)人も多い。でも気にしていたら、やっていられない。

 米国、英国、フランスなど10カ国弱でだるまを売れるようになった。これからは国境を越えた個人向けのオンラインショップ(越境EC)をやりたいし、だるまの背中にきれいに描けるような水彩画を学びたい。伝統を失っただるま屋さんに魅力はないが、売り方は最先端でいきたい。どれだけ商売になるか、挑戦したいと考えている。(聞き手・塚越毅、撮影・綱島徹)

 なかた・ちひろ 1989年高崎市生まれ。高崎商科大附属高―共立女子大卒。大門屋は同市で明治期に創業。現社長、中田純一氏(67)の三女。高級腕時計販売店を経て、家業に従事する。同市。29歳

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