《闘論》外国人材 受け入れ拡大 ワンストップ窓口を/働き手確保に不可欠
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(左から)慎重派の山口和美さん、推進派の林康夫さん

 外国人労働者の受け入れ拡大を目指して、政府は新たな在留資格を創設する。農業や介護、宿泊など従来の5分野に加え、就労できる業種を多分野に広げようとしている。現行の外国人技能実習制度は在留期間が最長5年だが、検討案では新たな在留資格によって10年まで延ばせるようになる。人材確保へ期待の声がある一方、治安の悪化や不法就労も懸念され、生活支援の充実などが課題となっている。

 外国人技能実習生を受け入れている管理団体のJA利根沼田(沼田市)の林康夫組合長(65)は「地方には働ける人が少なく、外国人に頼らざるを得ない状況になっている。現状では仕事内容や期間に制約があるため、柔軟性を持たせてほしい」と地方の働き手確保に必要だと説く。

 一方、慎重派のNPO法人群馬の医療と言語・文化を考える会(前橋市)の山口和美代表理事(66)は「外国人材に労働力として根付いてもらうには長期的なビジョンが必要。人権侵害行為や生活面での相談に応じるため、公的なワンストップ窓口の整備が不可欠」と受け入れ環境の充実を訴える。

 厚生労働省によると、群馬県の外国人労働者は2万9319人(昨年10月末現在)。このうち技能実習生は5年間で倍増し、6774人に上る。

《推進》実習生の職種 柔軟に…JA利根沼田組合長 林康夫さん

―外国人材受け入れ新制度の創設をどう考えるか。
 人口減少と高齢化で働ける人が少なくなった。農業は1戸当たりの規模が拡大し、人手が必要になっているが、働き手を確保するのは容易ではない。一方、農業を学ぶため来日する外国人技能実習生は増えている。実習で農業技術を身に付けながら作業に当たる人が貴重な戦力となっている面もある。新制度の具体的な中身はまだ見えないが、人手不足に悩む現場と、日本で働きたい外国人双方にとってメリットが増えるのならば良い。

―現状の外国人技能実習制度をどう活用しているか。
 JA利根沼田を通じて受け入れているのは1年目の1号技能実習が132人、2、3年目の2号技能実習が124人いる。国別では中国が228人、カンボジアが28人。野菜収穫や搾乳作業など人手が必要な農家は複数受け入れ、トマトやレタスなど野菜農家で235人、酪農畜産で21人が研修している。食事に連れて行くなど家族同様に接している人も多い。

―受け入れ団体として苦労していることは。
 1996年から中国の団体「吉林国際人材技術交流」に人材を派遣してもらい、2016年からはカンボジア人も含めて頼んでいる。中国人は年々、優秀な実習生を見つけるのが難しくなり、カンボジア人にも広げた。実習生の中には、実習先に関して事実とは異なる情報を発信する人もいる。誤った情報に惑わされ、行方不明になったり、制度に反して条件の良い仕事に移ったりする実習生もいる。この対処のためJA職員は警察署に相談に行くなど負担が大きい。国が不法滞在取り締まりに力を入れると、現場では申請書類が増えるなど職員の仕事時間も費用も多くなってきた。

―現行制度の課題は。
 年間を通じて実習生が携わる仕事が必要な点だ。野菜農家は冬に露地栽培ができないため、新たにハウス栽培を始めた人もいる。農業経営を支えようと受け入れるのに、ハウスにかける費用が高く、経営にマイナスとなれば本末転倒。一度制度を利用した実習生が再び実習生になれない点も困る。実習経験者は日本語を覚え、研修した農家のやり方が分かっているのにできない。

―新制度に盛り込んでほしいことは何か。
 地方では労働力不足が深刻だ。実習生を労働者としても処遇できるよう、柔軟に研修内容を変えられるようにしてほしい。例えば、当JA管内では夏は農家で、冬はスキー場で研修すればスキー場の人手不足も解消する。職種の制限をなくして地域の労働力となってもらいたい。研修期間も繁忙期だけの短期にしたり、逆に延長したりできると良い。研修と就労が両立できるように考えてほしい。

 はやし・やすお 1952年生まれ。利根農林高(現・利根実業高)卒。シクラメン農家。認定農業者の県代表などを歴任し県農業をけん引。2017年から現職。沼田市原町在住

《慎重》支援機関 整備に遅れ…群馬の医療と言語・文化を考える会代表理事 山口和美さん

―政府が掲げる在留資格の新制度をどう受け止めるか。
 日本は少子高齢化が加速し、企業で人手不足感が強まって外国人材を積極的に活用せざるを得ない背景は理解できる。しかし、彼らといかに日本社会で共生していくのかというビジョンや長期的な視点が見えない印象だ。在留期間の上限を通算5年としたのは、外国人には家族を帯同させず単身で働いてもらうという考えのようにみえる。外国人材を「使い捨て」や「調整弁」として扱うのではなく、仲間として受け入れていく姿勢が日本社会に求められる。

―群馬県は外国人居住率が高い。
 県内にいる外国人は、最多のブラジル人を中心に約5万5000人(2017年末時点)と伸びている。外国人住民数の総人口に占める割合比では東京、愛知に次いで全国3位。帰化した人なども含めると、外国人との関わりは数字以上に深い。技能実習生から留学生、定住者まで立場も多様で、十把ひとからげに外国人と捉えた対応では不十分といえる。

―具体的な懸念点は。
 単純労働分野への就労者増加や在留期限のない資格への移行が可能になれば、技能実習生らに現在でも起きている賃金の不払いや暴力行為といった人権侵害行為が多発する恐れがある。しかし、彼らの困り事や相談を受け付ける公的なワンストップの窓口機関は整備されていない。群馬の医療と言語・文化を考える会では毎月、平均40~50件の通訳の依頼を受け、会員の善意で何とか活動しているが、全てには対応はできない。外国人は自分たちの情報網、個人的な人脈を頼りに生活課題を解決しているのが実情。彼らにとって言葉の壁は大きい。国策で外国人材を増やすならば、多言語に対応できる相談機関なども並行して設置を進めるべきだ。

―医療通訳活動を通じて感じる外国人の悩みは。
 ニーズが高いのは保健や医療に関する情報。本人だけでなく家族が病気やけがをする場合も少なくない。かつて病気になった中国人が「日本で治療を受けるのは不安」と帰国してしまった事例を知り、命や健康に関わる心配の大きさを実感した。外国人の子どもへの教育問題も課題だ。バイリンガル教員を配置する自治体があったが、人材や指導するノウハウや経験値が足りず手探りな段階といえる。

―地域社会が温かく受け入れる姿勢が必要だ。
 外国人材を労働者ではなく、生活者として受け止めたい。共生社会の実現には日本人の意識啓発も必要だろう。「お互いさま」の気持ちで支援を推進することは、ユニバーサルで誰もが住みよい地域づくりにもつながる。人材獲得の競争は世界の潮流だ。優秀な外国人に「選ばれる」環境を整えることは、中長期的に日本社会の発展に寄与するのではないか。

 やまぐち・かずみ 1951年生まれ。東京外国語大卒。群馬県庁に入庁、当時全国で初めて設置された多文化共生支援室の室長などを務めた。前橋市南町在住

 《外国人労働者》 厚生労働省によると、国内で働く外国人労働者は昨年10月末現在で約128万人。研究者など専門的・技術的分野のほか、日系3世ら身分に基づく在留資格を得て就労している。外国人技能実習生として技術取得を目的としながらも実態は労働者となっているケースもある。単純労働は原則認めていない。

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