《闘論》サマータイムで賛否 余暇充実後押し/健康問題生じる
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(左から)反対の立場をとる長島さん、賛成の立場をとる鈴木さん

 2020年の東京五輪・パラリンピックの暑さ対策の切り札として、夏の間だけ国全体の時間を早めるサマータイムの導入が議論となっている。大会組織委員会の森喜朗会長が先月27日、安倍晋三首相に法整備を要望。安倍首相は可否を検討するよう自民党に指示した。実現した場合、大会のレガシー(遺産)として恒久的な制度とするかも注目されている。

 組織委は今夏のような記録的猛暑の再来を懸念。競技の開始時間は可能な限り早朝に設定しているが、より抜本的な対策が必要だとしている。ただ、国民生活や経済活動への影響を懸念する反対論も強く、実現するかは不透明だ。

 課題解決の妙薬か、混乱を招く毒薬か。暑さ対策にとどまらない議論を呼んでいる夏時間について、群馬県内で異なる立場の2人に聞いた。

《賛成》生活習慣 見直す機に…共愛学園前橋国際大専任講師・鈴木鉄忠さん

 サマータイムを実際に経験した共愛学園前橋国際大専任講師の鈴木鉄忠てつたださん(40)は、導入が働き方改革にもつながると指摘。「日本人のライフスタイルを見直し、余暇を充実させる契機になる」と賛成する。

―欧米ではサマータイムを導入している国が多い。
 第1次世界大戦で逼迫ひっぱくした電力事情の対策として、1916年に英国やドイツ、イタリアで導入されたのが始まりだ。中断した時期もあったが、欧州連合(EU)域内や米国は現在も続いている。健康への影響を懸念する意見が強まり、フィンランドなど北欧を中心に見直しの議論も起こっている。

―どのような効果があるだろうか。
 省エネ性能の高い照明の普及などに伴い、当初の目的だった節電効果は薄れている。代わって、夕方の時間を有効活用できるメリットが受け入れられている。例えばイタリアでは、仕事を終えた後、帰宅して身支度を調え、街に出て家族や友人、恋人と食事や買い物を楽しむ習慣が文化として根付いている。

 3月から10月までのサマータイム期間は、時計の針が1時間進んでいるため、夕方の余暇時間をより長く使える。感覚的に言えば、仕事後が「アフター5」から「アフター4」になるようなもので、多くの国民は肯定的だ。職場と自宅だけでない「第三の場所」で過ごす時間は、暮らしを充実させる上で大切。飲食店などでの消費が活発になるため、経済効果もある。

―自身もサマータイムを経験した。
 2008年から2年間、研究のためイタリア に滞在した。当初は電車に 乗り遅れるなどとまどいもあったが、すぐに慣れた。サマータイムの開始や終了の前には、テレビや新聞などで 周知される。長く根付いた制度なので、切り替えに伴う混乱はない。多少の遅刻は 許されるような寛容な国柄であることも、定着につながっているのだろう。

―日本で導入するメリットはあるか。
 日本では20年の東京五輪・パラリンピックの暑さ対策として導入が検討されているが、近年の日本の夏は夜間や早朝も気温が高い。サマータイムを取り入れることで、競技環境がどれほど改善されるかは正直、疑問が残る。一方で、日本人のライフスタイルを見直すという視点で考えることは意義があるのではないか。

 課題になっている「働き方改革」とセットで議論され、欧州のように生活の充実につながるのであれば、サマータイム導入に賛成だ。逆に、始業時間が早まるだけで、労働時間の延長につながってしまうようでは意味がないだろう。

―導入の議論でどのような点に注意すべきだろう。
 健康や社会システムへの影響だけでなく、日本の文化、風土に適しているか、といった歴史文化的な視点も重要になる。五輪に絡む政治的な利害や思惑から引いた複数の見方で議論が進むことを期待したい。

 すずき・てつただ 1978年生まれ。横浜市出身。東工大で博士号取得。専門は地域社会学で、日本とイタリアを比較研究。2018年から現職。中央大講師も務める。前橋市朝倉町

《反対》睡眠不足で効率低下…日本睡眠学会歯科専門医・長島雄吾さん

 一方、日本睡眠学会歯科専門医の長島雄吾さん(37)は「睡眠不足をはじめ、人々の健康に問題が生じる」と反対。省エネや消費拡大といった効果も薄いと強調する。

―サマータイム導入に対する評価は。
 健康に問題が生じる点でデメリットがある。問題は三つ。一つ目は睡眠不足になること。二つ目は、人には朝型、夜型とクロノタイプが分かれており、個人差を無視して朝の時間を早めるのは良くない。三つ目は、睡眠障害で治療している人に負担がかかることだ。

 普段は午前0時に寝て午前7時に起きるとする。時間を1時間進めた場合、就寝は午後11時になるが、体にはリズムがあり、急にはなかなか眠れない。一方で起きるのは午前6時。自然と睡眠時間が減り、健康に悪影響となってしまう。

―体が慣れるにはどのくらいかかるのか。
 体のリズムは体内時計で決まっており、1時間でもずらすと、慣れるまでには一定の期間が必要になる。ドイツで5万5000人を対象にした調査では、サマータイムが導入されて4週間たっても完全には体が慣れず、時計を戻した後はリズムが整うまで3週間かかったという結果も出ている。

―睡眠不足では日中に眠気やだるさが生じる。
 徹夜した次の日のことを思い出してほしい。頭がボーっとして作業が進まなかったと思う。睡眠不足になると集中力が下がり、ヒューマンエラーが起きる。2週間、6時間睡眠を続けた場合は1日徹夜したのと同じだけのエラーが起きたというデータがある。注意力が散漫になり、交通事故が多発する恐れもある。

 さらに、夜に寝られなくなると、食欲がなくなったり、糖尿病や肥満などの生活習慣病、心筋梗塞といった病気になる。不眠やストレスからうつ病の患者が増え、自殺のリスクも高まる。スウェーデンでは、サマータイムで新しい時刻になった直後の3日間に、心筋梗塞の発症率が高まり、逆に終わった直後は下がったという調査結果がある。

―経済活動が活発化するとの指摘もある。
 夕方に時間の余裕が出て、買い物やレジャーによる経済効果があるかのような主張もあるが、その考え自体が誤りだ。夕方の時間が延びているわけではなく、時間自体は変わっていない。活動を増やせば、それこそ寝る時間が遅くなり、睡眠不足になる。睡眠不足で医療費も増え、経済的に良いとは言えないだろう。

―コンピューターのシステム変更も必要となり、IT業界のコストも増大。影響は多方面に及ぶ。
 企業における作業効率は確実に下がる。そもそも、労働時間が長く、生活パターンの夜型化が進んでいる日本人は世界の中でも睡眠時間が短い。サマータイムを導入する国が世界で増えているが、日本には適していない。五輪の際には、競技を開始する時間を早めれば済むのではないか。

 ながしま・ゆうご 1980年生まれ。岩手医科大卒業後、東北大、日本歯科大新潟病院睡眠歯科センターで研修。昨年、日本睡眠学会認定歯科医師に。前橋市新前橋町

 《サマータイム》 日照時間が長くなる夏季の時間を有効活用しようと、時計の針を標準時より進める制度。仮に1時間早める場合、午前6時が現在の午前5時に相当する。適用期間が終われば元に戻す。2009年の環境省調査では、欧米を中心に約70カ国が採用している。

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