《ニュース最前線》出版不況 書店の挑戦 生き残りへ創意工夫
  • このエントリーをはてなブックマークに追加
未来屋書店高崎オーパ店のブックカフェでくつろぐ利用客=高崎市
ふやふや堂のビブリオバトルで気に入った本を紹介する参加者=桐生市
 

 活字離れなどを背景に、出版物の販売額が下降の一途をたどり、書店業界の不況が続いている。総務省などの調べによると、群馬県内の古本を除く書籍・雑誌小売業の年間商品販売額は1997年の417億円から、2016年の182億円に減少。経営不振などによる閉店が相次ぎ、県内の事業所は16年に116店と、20年で3分の1に減った。

 そうした中、各書店は新たな発想や他店との差別化で、人を呼び戻す工夫を凝らす。県内でも、時間制のブックカフェを併設する大型店が登場する一方、個人書店は住民参加型の書評イベントに力を入れるなど生き残り策はさまざまだ。

 幅広いジャンルの出版物が並ぶ書店は、まちの人たちに教養や娯楽を提供する文化の拠点。読書文化を根付かせようと動く県内の書店や、新たな試みに挑戦する関係者を取材した。

◎本の世界 入り口広く 異業種と連携、地域でイベント…

 買い物中の家族連れや、通勤・通学でJR高崎駅を利用する学生、ビジネスマンが思い思いに読書を楽しむ。未来屋書店(本部・千葉市)の高崎オーパ店は、同社が唯一、店に時間制のブックカフェを併設する店舗だ。料金は2時間500円。ドリンクコーナーが設置され、コーヒーや紅茶、ソフトクリームなどを食べながら、カフェの本棚に並ぶ本をゆっくり閲覧できる。「気軽な読書体験が出版物への興味を促し、経営存続につながる」と同店。利用者をさらに増やそうと、10月末、月額の会員制度を導入した。

■家族連れ狙う
 10月5日にリニューアルオープンした前橋市のけやきウォーク前橋内の紀伊國屋書店(本部・東京)は、客層に合わせた出版物の拡充やイベントの実施を強化。家族連れが多いモールの特性を踏まえ、小さな家を思わせる演出の「キッズ ハウス」を新設した。来店客はエリア内の椅子に腰かけ、人気の絵本などをじっくり選べる。定期的に企画する絵本の読み聞かせ会は、子どもたちに読書の楽しさを経験してもらう狙いがある。

 異業種と連携し、書店以外の場を積極的に活用する動きもある。

 県内発祥で栃木、埼玉などでも事業展開する文真堂書店(本部・高崎市)は今年6月から、県内の大手スーパーの2店舗に本売り場を設けている。誰もが日常的に訪れるスーパーでの販売は顧客層を広げ、売り上げアップに貢献。子ども向けのコミック雑誌などは、同社の各書店と比べ、4~5倍売れることもあるという。

■こだわり選書
 インターネットの普及をきっかけに進んだ「本離れ」。書店業界は不況のあおりを受けるようになった。1997年に県内に372店あった書籍・雑誌小売業(古本を除く)の事業所は、2016年には116店まで減少。とりわけ個人経営の書店にとって厳しい環境が続く。

 逆風に立ち向かおうと、小規模書店ならではのこだわりの選書を売りにしたり、書店同士が連携したりする取り組みも始まった。

 高崎市の中心街で9月に開かれたイベント「本をめくり 街をめぐる」。カフェなどに置く選書を請け負うブックディレクターのsuiran(土屋裕一)さん(33)=藤岡市岡之郷=らが昨年に続いて企画した。会場の一つ、REBEL BOOKS(レベルブックス、高崎市椿町)は、編集者や詩人ら約30人の書評を挟んだ書籍を販売。客がその場で書いた書評も、イベント中に開いた「書評BAR」のバーカウンターの壁に貼れるようにした。紹介された本は小説や実用書、詩集など幅広く、端的に魅力を伝えるフレーズやイラストが添えられたものもあった。店長の荻原貴男さん(39)は「本を薦められると読みたい気持ちが高まる。自ら書評を書くという能動的な関わりも、本への興味につながる」と効果を語る。

■ビブリオバトル
 書評イベントのビブリオバトルを取り入れた個人書店もある。桐生市本町の「ふやふや堂」は4年前から元織物工場の一角を利用し、週1、2日のみ営業する。店主の斉藤直己さん(40)はブックデザイナーでもあり、デザイン事務所と書店を経営しながら、書籍の普及活動に力を注ぐ。

 今年3月から地域の人と協力し、ビブリオバトルを企画。好きな本を持ち寄り、参加者がそれぞれの本の魅力を発表する。最後に投票で、その日、皆が最も読みたいと思った本を決める。月1回程度、市内や近郊の市で開くビブリオバトルは幅広い年齢層が参加し、リピーターも多い。毎回、参加している八染和弘さん=みどり市大間々町=は「皆のお薦めを聞けるのはもちろん、本を通じてまちの人たちと交流できるのがうれしい」と笑顔で話した。

 書店それぞれの持ち味を生かしたり、新しいアイデアを取り入れたりしながら、本への関心を高める取り組みが続いている。

「人と本 『出合い』の場 期待」…県立女子大准教授・日本出版学会理事の山崎隆広さんに聞く

 インターネットの普及をきっかけに、出版物の売上げは右肩下がりの状態が続いている。「手軽さ」「品ぞろえ」、中古品の仕入れなどによる「価格の安さ」が特徴のオンライン書店の台頭も、リアルな書店に大きな影響を及ぼしてきた。

 書店が生き残るには「メディア」の本来の意味である「異なるものを媒介する」役割を果たす必要がある。ネットと違い、書店ではイベントなどを通じて「人と人」、思いがけず選んだ1冊による「人と本」との出合いがある。オンライン書店にもお薦めの本を紹介する機能があるが、多くは各人の興味の範囲に限られる。

 それぞれの書店が個性を発揮しながら、今後も「出合い」の場として躍進することを期待したい。

《記者の視点》楽しい場所、足運んで

 街を巡るのが好きで、書店にもよく立ち寄る。今年で創業100年を迎えた天華堂書店(高崎市寄合町)を訪れた。客は60~90代が中心。趣味の本などを求めて足しげく通い、顔なじみの店員とのたわいもない会話を楽しむ。長年、地域の人たちの日常に文化的な潤いを与えてきた店の様子を聞き、「本屋は楽しい場所」であることを改めて感じさせられた。

 インターネットの普及によって、出版業界は苦境に立たされ、書店もそのあおりを受ける。しかし、内容や見せ方に工夫を凝らした出版物は今もなお、人々の視野を広げる重要なツールであることに変わりない。

 書店に行き、本棚を眺めれば多様な出版物が並ぶ。偶然出合った1冊は視野を広げ、「新しい自分」を発見するきっかけにもなり得る。スマートフォンを片手にでもよい。久しぶりの人はぜひ、書店に足を運んでほしい。(文化生活部 土屋麻里)

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
関連記事