《ニュース最前線》なくそう あおり運転 防止の取り組みを追う
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上信越道のあおり運転で事故直前の状況を写したドライブレコーダーの画像(ユーチューブから、画像を一部加工)。直前に割り込んだり、車線をまたいで走ったりする様子が写されている
対策として需要が高まっているドライブレコーダー。前後を撮影できるタイプが人気という=オートアールズ前橋みなみモール店
あおらないために/あおられないために

 2017年6月に神奈川県の東名高速道路で家族4人が死傷した事故などを機に、「あおり運転」への関心が高まっている。警察庁は18年1月、道交法だけでなく「あらゆる法令を駆使して」捜査を徹底するよう全国の警察に通達した。

◎「車社会」群馬で不安高まる 県警が対策に力

 群馬県富岡市の上信越自動車道下り線で昨年5月に起きた事故で、群馬県警は大型トラックの運転手を自動車運転処罰法違反(危険運転致傷)容疑で逮捕。先月21日に運転手に有罪判決が言い渡され、判決が確定した。

 捜査機関が対応を強める一方、運転時の自衛策としてドライブレコーダーが定番となりつつある。あおる側に対しては、人工知能(AI)を活用して感情を落ち着かせようとするシステムの開発も進む。

 あおり運転を巡っては、「これまでにないほど厳しい視線が向けられている」(捜査関係者)。危険で悪質な運転を防ごうとする取り組みを取材した。

■車線変更に激高
 「頭に血が上っていて、前に入って同じ思いをさせてやろうと思った」

 上信越自動車道で昨年5月、あおり運転をした上、トラックの男性にけがを負わせたとして、自動車運転処罰法違反(危険運転致傷)の罪に問われた福井県の運転手(42)の公判。被告人質問で、攻撃的な行為に出た心境を供述した。

 当時、男性の車線変更に腹を立てた。「近い距離に入られた気がした」ため、抜き返して男性の前方で減速。2車線にまたがっての走行や蛇行を繰り返した。自らの非を認めつつ、こうも述べた。「相手もプロだから(事故を)うまく回避すると思った」

 検察側が読み上げた調書で、男性は「運転に対する気持ちが変わるくらいの刑罰を」と求めた。運転手に言い渡された有罪判決とは別に、今回の行為は運転免許の取り消しと、再取得の欠格期間を5年とする行政処分に該当する。

■車の前後を撮影
 公判では証拠として、男性のトラックに取り付けられたドライブレコーダー(ドラレコ)の映像が採用された。ドラレコはあおり運転対策としても注目されている。

 自動車用品販売のオートアールズ前橋みなみモール店によると、2017年6月に神奈川県で家族4人が死傷した東名高速道路の事故後、ドラレコを買い求める人が増えたという。後方からのあおり行為を映像で記録できるとして、車の前後を撮影するタイプの需要が高く、店としても勧めている。

 深沢直樹店長(29)は「来店者の関心は高く、対策の定番になっている」と説明。夜間でも鮮明な映像を残せるもの、1台で360度撮影可能なものなど、メーカー各社が性能を向上させている。店内で品定めをしていた高崎市の60代男性はあおり運転の報道などをきっかけに購入を決めたという。「付けていれば安心。何かあってからでは遅いから」と話した。

 人工知能(AI)を活用し、感情の面から安全運転を確保しようとする試みもある。NTTドコモ(東京)は、AIが運転手の言葉を分析し、怒りの感情を検出した場合に音声で深呼吸を促したり、心が落ち着く音楽を流したりするシステムの開発を進めている。

 同社によると、最新の実験では75%の精度で感情を認識し、実験に参加した人の95%がAIの介入に共感したという。同社先進技術研究所の菊入圭さん(43)は「イライラの感情はあおり運転に通じる。社会的課題の解決を目指したい」と話す。主にカーナビの追加機能として想定し、新年度中の実用化を目指している。

■摘発が倍増
 あおり運転に厳しい対処を望む声はしばらく続くとみられ、県警は取り締まりや抑止に力を入れている。

 県警が昨年、道交法違反(車間距離不保持)で摘発したのは677件。統計を始めた2012年以降最多で、前年から2.2倍に増えた。昨年4月に始めた県警ヘリとパトカーが連携した取り締まりは続ける方針で、高速隊は「上空からの監視が抑止につながれば」と期待する。

 全国の警察も踏み込んだ対策を進める。福岡県警は3月、あおり運転を専門的に扱う対策室を設置。愛知県警は捜査員向けに、あおる運転手の心理を学ぶ研修を取り入れる。

 県内では被害を受けたとする相談や、あおり運転に関する110番通報が「体感的に増えている」(捜査関係者)。

 ドラレコの映像は捜査の上で重視される一方、互いに挑発するなどして“どっちもどっち”と受け取れるケースも想定される。県警幹部は「映像が万能という考えに陥ってはならない。目撃者への聞き込みなど従来の捜査を尽くすことに変わりはない」と話している。

◎「された経験ある」70%…民間調査

 自動車保険を扱うチューリッヒ保険が昨年、全国2000人余りのドライバーに聞いたところ、あおり運転をされた「経験がある」と答えた人は70.4%に上った。行為では「速く走るよう挑発された」が最多の78.5%、「幅寄せされた」が21.0%だった。

 ソニー損保の昨年の調査では、車社会での不安について、「あおり運転による事故」が前年より八つ順位を上げて3位に。社会の関心の高さをうかがわせた。

 電子情報技術産業協会が公表しているドライブレコーダーの出荷台数は2018年度は第3四半期(10~12月)時点で約260万台。統計を始めた16年度の年間出荷台数の1.8倍に伸びている。

「密室で罪悪感なしに」…高崎経済大名誉教授、岸田孝弥さん(77)=交通心理学=の話

 車はエンジンをかければ思い通りになる。それなのに、前の車が遅いなどの理由で思うように走れなくなると欲求が妨げられ、自分本位の攻撃的な行動に出る。

 車は外から中は見えにくいが、中からは外がよく見える密室でもある。罪悪感もなく、相手を懲らしめようと、あおり行為をする。現状ではあおり運転が犯罪になり得るという認識が一般の人に浸透しているか疑わしい。

 特に危険なのは、車間を詰めてあおる行為だ。あおる人は自らの運転技術を過信していることが多い。前の車の動き次第では急ブレーキが間に合わずに追突、後続車からも追突されて多重事故になる恐れもある。

 一方、車間距離をそれほど取らない車が多く、車線変更がトラブルのもとになりやすい。交通ルールやマナーをよく理解していない人も運転している。車社会の群馬県では、周りのことを十分考えた運転が必要だ。

《記者の視点》気持ちに余裕を

 あおる側の攻撃心、あおられる側の恐怖心や不快感。いずれも運転には、全く必要のないものだ。

 上信越道のあおり運転事故の公判で、運転手は「なぜ腹が立ったのか分からない」と述べた。調べの段階で、相手が車線変更した時の映像を見ても、相手の運転に問題があると思わなかったという。

 運転をしていれば、追い越されて前に入られたり、速度の遅い車がしばらく前を走ったりすることもある。車を自由に操作できるのは、決して身勝手な運転を許すためではない。刻々と変化する交通状況に合わせて運転するためのものだ。こうした柔軟性や余裕を気持ちの面で持ち合わせたい。

 当たり前の心構えに聞こえるかもしれないが、ハンドルを握っている時もそう思えるかが肝心だ。運転は多くの県民の生活そのものである。車社会で誰もが安心して暮らせるための自戒としたい。(報道部 山田祐二)

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