《闘論》新出生前診断提供拡大 安易な中絶防止/妊婦の悩み増加
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(左から)慎重論を唱える江村恵子さん、肯定する横田英巳さん

 妊婦の血液で胎児の染色体異常を調べる「新出生前診断」について、日本産科婦人科学会は今月、学会指定の研修を受けた産婦人科医がいる施設であれば、開業医などの規模の小さい病院でも検査できるようにする要件緩和案をまとめた。現在、学会の認定施設は大学病院などに限られているが、正式決定すれば妊婦が検査を受けやすくなる。

 新たな案は、多くの妊婦が相談体制の不十分な無認定施設で受けている現状を改善する狙いがある。一方、中絶の選択につながるとして、検査の実施そのものに慎重な意見も多い。

 医療の進歩で可能になった診断は、命と向き合う上で多くの関係者に難しい課題を突き付けている。

《肯定派》無認定施設減に期待 横田マタニティーホスピタル院長・横田英巳さん

 産婦人科医で群馬県の横田マタニティーホスピタル(前橋市)の横田英巳院長(53)は、無認定施設で同診断が多く行われている現状を問題視。学会案について「体制が整った病院で受けやすくなり、安易な中絶を防ぐことにつながる」と評価する。

―新出生前診断を実施する医療機関を拡大する案が示された。
 新たな案によって、規制が緩くなるように報道などで言われているが、むしろ厳しくなると受け止めてほしい。新出生前診断を行う日本産科婦人科学会認定の施設は全国で92カ所と非常に少なく、県内にはない状態だ。

 そのため十分な説明や相談を行わず、検査結果だけを示すような無認定施設で受診する人が相次ぎ、安易な中絶を生む原因になっている。今後、学会の研修を受け、体制を整えた開業医などで検査を受けられるようになることで、無認定施設が減ることに期待したい。

―出生前診断とはどのようなものか。
 胎児に先天的な疾患がないか調べる検査で、可能性の有無を調べる「非確定的」な検査と、ほぼ100%の確率で分かる「確定的」な検査がある。非確定は超音波で胎児の状態を確認したり、母親の血液を調べたりするもので、新出生前診断もこれに当たる。

 確定的な検査は羊水や、胎盤の一部である絨毛じゅうもうを調べる。私たちの病院では超音波と羊水の検査を実施している。

―診断を希望する妊婦は増えているか。
 高齢出産が増える中、希望する人は増えている。感覚的には10年で2~3倍になった。今後もニーズは高まるだろう。大切なのは、検査では母親とその家族の気持ちが何より優先され、その意思に基づいて実施するか決めるということだ。医師らが誘導することはあってはならない。事前にカウンセリングを行い、本人の気持ちを確認するとともに、検査の意味について丁寧に説明している。

―診断の意義をどう考えるか。
 診断は出産の安全性を高める上で重要だ。例えば赤ちゃんの心臓に疾患があることが事前に分かれば、専門医のいる医療機関で出産する準備ができる。逆に分からないと、救急搬送が必要になるなど、リスクが高まる。

 母親や家族にとっては、出産までに心の準備をする時間にもなる。赤ちゃんと母親それぞれにとって、診断は意義がある。

―中絶につながるとして、診断が行われることに慎重な意見もある。
 全ての赤ちゃんの3~5%に先天的な異常があるとされ、このうち4分の1程度に染色体異常がある。障害があることを理由とした中絶は母体保護法で禁じられている。

 診断結果が中絶に結び付くことは避けなければならない。だからこそ、母親が検査を希望する理由を医療機関がしっかり確認したり、相談を受けたりする過程が大切だ。現状では、出生前診断に関する正しい情報が伝わっていないことが課題。これまで以上に啓発に取り組まねばならない。

 よこた・ひでみ 1965年生まれ。日本大医学部卒。群馬大医学部附属病院を経て2005年から現職。産婦人科専門医・指導医。日本産科婦人科遺伝診療学会員。前橋市

《慎重派》まずは障害に理解を 群馬県手をつなぐ育成会長・江村恵子さん

 一方で、知的障害者と家族を支援する県手をつなぐ育成会の江村恵子会長(62)は、同診断の拡大に慎重な立場。「妊婦の悩みを増やす懸念もある」と影響を心配し、医師らがダウン症などへの理解を深め、妊婦や家族への適切な説明を行う環境づくりを望む。

―新出生前診断を実施できる施設の要件が緩和される見通しだ。
 診断が導入されて以降、陽性判定が確定した妊婦のほとんどが中絶を選択しており、判定が妊産婦を悩ませているという現実がある。要件が緩和され、検査を希望する妊婦が増えるのを、単に良いこととして片付けてよいのか。妊婦の悩みを増やす懸念もある。

 要件緩和については、医師のダウン症などへの理解を深め、妊婦、家族への適切な説明を行い、安易な選択につながらないことを望んでいる。しっかりとしたガイドラインを設け、選択を後悔しないよう支援することが必要だ。

―出生前診断の是非について。
 賛成とも反対とも言えない、中間的な考えだ。家庭の事情、妊婦の体にも深く関わってくる問題。最終的には本人の選択に委ねられることになる。しかし、この世にまだ生まれていない胎児自身の生まれる権利はあると思う。世に出なくても、母胎に宿った胎児の権利も考えなくてはならない。

―高齢出産の増加などにより、診断利用者の増加が予想される。
 医療技術はさらに進化していくことが予想される。進化に流されることなく、進化によって生じる問題、ゆがみに対応できる仕組みづくりが大切だ。全ての診断利用者がそうだとは言えないが、安易に診断することは避けてほしい。医師から説明を受けた上で、陽性反応が出たときにどう対応するのか、検査前に決めておくくらいの気持ちで臨んでほしい。

―診断が一般的になると、どんな影響が出ると考えられるか。
 一般的になってほしくないというのが本音だ。ダウン症の診断が注目されているが、障害はダウン症だけではない。知的発達障害、自閉症、視覚、聴覚などの障害が出生前に分かるわけではない。ダウン症が陰性だったとしても、ほかの障害がないとはいえない。

 もう一つ危惧しているのは生活している障害者、特にダウン症の人への影響だ。物事を理解しているダウン症の人もいる。ショックを受け、「生まれてこなければ良かった」と落ち込むかもしれない。一生懸命に生きている人たちの気力低下につながらないかと心配している。

―今後、社会としてどのように受け止めていくべきか。
 健常で生まれたとしても、途中で障害を持つ人もいる。進みゆく医療技術とともに、それぞれの決断を受け止め、障害者が生きやすい社会づくりを期待したい。

 障害=不幸という考えは、まだ根強く残っていると思うが、そうではないことを伝え続けたい。障害者を排除する社会は誰もが生きやすい社会ではない。

 えむら・けいこ 1957年生まれ。渋川市出身。明和高卒。2017年6月から現職。18年6月から全国手をつなぐ育成会連合会推薦役員・政策センター委員を務める。高崎市

【新出生前診断】
 妊婦の血液から胎児のDNAの断片を解析し、ダウン症などの染色体異常を調べる検査。従来より早い時期に受けられ、精度も高いが、確定には羊水検査が必要。日本では2013年に臨床研究として始まった。昨年9月までに約6万5000人が受け、胎児の染色体異常が確定した妊婦886人の約9割が中絶した。

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