《あすを生きる》ひきこもり 世代や環境 経緯や課題さまざま
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相談に応じる中沢さん(右)。当事者への声の掛け方も助言する

 「お風呂には入っていますか」「起きている時間に変化はありましたか」

◎「社会的支援 広げたい」
 群馬県高崎市にあるシェアオフィスの会議室。ひきこもりからの立ち直りを支援する「自立支援スペース ワンステップ」の代表、中沢充宏さん(41)は北毛地域の女性(59)に尋ねた。

 女性の次男は30代。10年以上自室から出ず、声を掛けても返事がない。中高年になってもこの状況が続けば、親は年老いて、いずれ次男を支えることができなくなる。「本人も苦しんでいるはず。今のうちに何とかしなければ」との思いから、中沢さんに相談して半年がたつ。ひきこもった原因については「分からない」と顔を曇らせた。

 中沢さんは身近な人のひきこもりに直面し、社会的な支援の乏しさを痛感して、5年前に支援活動を始めた。主に中高年の息子を持つ母親から「部屋から出てこない」「何年も仕事に就いていない」などの悩みを打ち明けられる。

 「就職や仕事でつまずいたり、不登校がきっかけだったり、世代や家庭環境によって抱える問題はさまざま」という。深刻な状態でも周囲に相談できないケースはあるとし、「今後、支えてきた家族が高齢で亡くなるなどして、問題が表面化することが増えるのではないか」と懸念する。

 スクールバスを待つ児童らが犠牲となった川崎市の20人殺傷事件や、元農林水産事務次官が長男を刺殺したとされる事件を受けて、中高年のひきこもり当事者や同居する家族らに困惑や不安が広がっている。事件とひきこもりを結び付けようとする短絡的な見方があるためだ。

 群馬県内でも自治体や民間団体などによる支援の輪は広がっているが、中高年のひきこもりの人数や程度などは実態把握すら難しい。

 一方、周囲の手助けを受けて、10年続いたひきこもりから立ち直った人もいる。中学2年から自宅にひきこもっていた前橋市の男性(28)は2年前に印刷関係の仕事を始めた。「社会に出て、いろいろな考えの人がいるなと思った」と実感を込める。

 立ち直りのきっかけは社会で奮闘する親族の姿を見て「自分もこうなりたい」と強く憧れたことだった。その後、家族に思いを打ち明け、支援団体の協力を得ながら、3年ほどで仕事に打ち込めるまでになった。

 「普通の生活を取り戻せるか不安もあった。今後は仕事を続けながら、ひきこもりの人を支えられるようになりたい」と力を込めた。

 【メモ】内閣府は3月、家族以外と半年以上ほとんど交流せず、自宅にいる40~64歳のひきこもりの人が全国に61万3000人いるとの推計値を公表した。期間は7年以上がほぼ半分。3人に1人が高齢の親に経済的に依存していることも明らかになった。

◎「家の中を変えていく」…精神科医・渡辺俊之さんに聞く
 ひきこもりの要因や期間はさまざまで、当事者や家族にとって解決への道筋が見いだしづらい。ひきこもりが長期化し、社会との関わりが薄い中高年はなおさらだ。精神科医で渡辺医院(高崎市)の院長、渡辺俊之さん(60)は「まずは家族が第三者に相談し、家の中を変えていくことが大事」と強調する。

―中高年のひきこもりについてどう考えるか。
 青年期のひきこもりは1990年代の終わりから2000年ごろに注目されるようになり、その後、厚生労働省や自治体が対策に乗り出した。学校でもひきこもりの前兆になり得る不登校の対策が始まったほか、この20年で精神科受診のハードルも下がってきた。子どもには手が差し伸べられるようになっているが、00年時点でひきこもりだった人が現在、40、50代のひきこもりになっている。

―ひきこもりの原因は。
 原因を特定することは難しい。医師が診察することで、統合失調症や自閉症、パニック障害などが明らかになることもある。以前とは異なり、現在はインターネットが使えれば、世界とつながることができる。ひきこもっている人も情報に触れ、自分の置かれた状況を認識、理解しているはずだ。

―どう支援するべきか。
 まずは家族からアプローチすることしかあり得ない。日本は介護や育児など、家族で問題を抱え込みやすい閉じたシステムが出来上がっている。第三者が親の不安や緊張、恐れなどを受け止め、親が変わっていくと、家族関係に変化が出てくる。家族が変われば、本人も動きだす。早め早めの相談が重要だ。

―社会に求められることは何か。
 児童青年期はもちろんだが、中高年のひきこもりも親の高齢化や病気などで追い詰められている。ひきこもりを解決することは当事者にとっても痛みを伴うものだ。地域や企業がどう受け皿になるのかが大切。社会に余裕があれば受け入れがスムーズになる。

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