《あすを生きる》高齢ドライバー 免許返納しやすい環境を
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運転免許自主返納後の生活について話す高齢者=3日、高崎署

 「車を使わない不便にも慣れ、体を動かすことが増えた」「車検がなくなり、経済的負担が減った」。今月3日に高崎署で開かれた座談会。運転免許を自主返納した高齢者ら7人が車を使わない生活の様子を発表した。

◎「自主返納アドバイザー」が経験語る
 参加した佐藤欣也さん(89)=高崎市=は2015年に免許を自主返納した。だが、その翌年に車の運転ができた妻が他界、自転車と徒歩の生活が始まった。親族に送迎を頼むこともあるが、遠慮してしまうという。

 最近、自転車で転倒し、これまでほとんど利用していなかったバスでの移動を考えている。「出掛けるにも不便の連続で、自由に動けたらと思うこともある。だが、ニュースで痛ましい事故を見聞きするたびに、加害者にならないで済むと思う。返納したことに後悔はない」と言い切る。

 佐藤さんは同署から委嘱された「自主返納アドバイザー」の一人。こうした自身の体験談を高齢者に紹介している。

 返納を考えている清水好夫さん(83)=同市=は現在、運転は孫の送迎など、最小限にとどめているという。アクセルとブレーキの踏み間違えによる高齢者の事故が全国で相次いでいることを深刻に受け止める。「人の命を奪ってしまえば取り返しがつかない。免許返納について家族や友人としっかり話したい」とした。

 県警によると、今年1~6月の免許自主返納者は4203人で、前年同期を上回った。4月に東京・池袋で高齢男性が運転する車が暴走し、親子2人が死亡するなど、高齢ドライバーの絡む事故が全国で相次ぐ。返納者数は4月までは前年を下回るペースだったが、5、6月に大幅に増加した。

 こうした状況を受け、事故のリスク低減につながる装置や車の購入に対する助成が県内で広がっている。大泉町は車に踏み間違え防止装置を取り付ける70歳以上の住民を対象に、購入費の2分の1を助成。ドライブレコーダー装着車の購入にも一部補助する。明和、甘楽両町は停止状態からの誤発進抑制などの運転支援機能を備えた車の購入費の一部を支援する。太田市は10月から、地元に工場があるSUBARUの運転支援システム「アイサイト」を搭載した新車を購入する65歳以上に20万円を補助する。

 移動手段をマイカーに大きく依存している本県。30市町村は自主返納の高齢者にバスカードやタクシー補助券などを配布して公共交通機関の利用を促すが、効果は未知数だ。ドライバーの高齢化が進む中、新たな交通の在り方が問われている。

 【メモ】群馬県内の2018年の交通死亡事故のうち、過失の最も重い「第1当事者」となった人の割合は75歳以上が全体の25.0%、65歳以上では43.8%を占めた。一方、29歳以下は17.3%。高齢者が第1当事者となる事故の割合が高まっている。

◎家族、地域の支援必要…群馬大名誉教授・山口晴保さんに聞く
 高齢ドライバーの事故が全国で相次ぐ。事故の背景には、加齢による反射神経や動体視力などの衰えがあるとされる。認知症に詳しい、医師で群馬大名誉教授の山口晴保さん(67)は「事故を防ぐためには家族や地域の支援が不可欠」と呼び掛ける。

―加齢は運転機能にどう影響するか。
 車を運転するとき、空間的な位置情報を瞬時に把握し、ブレーキやハンドルを操作しなければならない。だが、加齢によって体の反応に時間がかかり、注意力や動体視力も衰えるので運転は高齢になるほど少しずつ危険になっていく。

―認知症と診断されれば運転が禁じられる。
 認知症の種類によっても、目的地を忘れてしまったり、視覚障害が発生したり、怒りっぽくなったりと危険性が異なる。患者の6~7割とされる「アルツハイマー型」は認知機能が衰えている自覚が乏しく、運転に自信がある人が多い。だからこそ危険といえる。

―生活に車が不可欠な高齢者もいる。
 運転することは単なる移動だけでなく、本人のプライドや自信にもつながる。一概に認知症患者の運転を禁止すべきどうかは議論の余地がある。いずれにせよ、加齢による運転機能の低下を、家族らがどのように見極めるかが大切だ。

―家族が免許の自主返納を促す際の注意点は。
 本人に納得してもらうことが大切。命令するのではなく、「心配で夜も眠れなくなる」「事故を起こしてしまうと仕事を辞めなければいけない」などの丁寧な説明が必要だ。悩みを抱え込まずに、地域包括支援センターや地域の交番、医師に相談してほしい。

―社会にはどんな取り組みが求められるか。
 高齢者が運転しないで生活でき、趣味などで社会参加できる仕組みづくりが不可欠だ。NPO法人が高齢者の買い物支援を行う地域もある。外国では運動能力や視力を検査し、地域や時間帯を限って運転できる「限定免許」もあり、議論を進めるべきだ。開発が進む自動ブレーキやセンサーを搭載した車がさらに普及すれば事故の減少につながるだろう。

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