あおり運転 広がる“包囲網” ドラレコ普及/摘発強化/通報増
  • このエントリーをはてなブックマークに追加
「あおり運転対策」とうたいドライブレコーダーを販売するオートアールズ前橋みなみモール店=前橋市新堀町
あおり運転に関する注意点

 茨城県の常磐自動車道で起きたあおり運転殴打事件などを契機に、群馬県内のカー用品店でドライブレコーダー(ドラレコ)の販売が急増している。自衛手段を講じようと平日でも多くの客が訪れ、ドラレコを作る県内企業はフル操業が続く。群馬県警も社会的な関心の高まりを背景に近年摘発を強化、昨年の道交法違反(車間距離不保持)の摘発件数は3年前の2.6倍に。あおり運転に絡んだ事件が多発する中、悪質運転への“包囲網”が広がっている。

◎「各種情報」の通報も1万1973件に
 「ドラレコの購入者が茨城の事件報道前の2、3倍になっている」。カー用品店、オートアールズ前橋みなみモール店の副店長は売り上げの急増に驚く。ドラレコ市場は拡大を続けているが、事件報道後の2週間は飛び抜けて販売数が増えているという。

 2017年に東名高速道路で起きた夫婦死亡事故後、二つのカメラで前後を録画できる商品が普及。常磐道の事件以降は室内を含めて360度撮影できる商品も人気だ。売れ筋の価格は、取り付け工賃を含めて2万5000円程度のものから、同4万円程度に上がった。副店長は「自らの身を守るため、機能の充実した商品を買う消費者が増えている」と指摘する。

 スーパーオートバックス前橋(前橋市鳥羽町)でも客が増えており、土日のドラレコの取り付けの予約は2週間ほど埋まっている。店舗では「ドライブレコーダー録画中」などと書かれたステッカーの販売も好調で、担当者は「ドラレコは装備していないけれど、あおり運転に巻き込まれないために購入する人もいるのでは」と分析する。

 ドラレコを製造するワーテックス(桐生市堤町)には注文が続々と入っており、工場では派遣労働者を雇うなど生産体制を強化して対応している。

 県警は東名高速での事故などを受け、道交法違反(車間距離不保持)の摘発を強化している。昨年は高速道でヘリコプターと警察車両が連携した取り締まりを開始。15年に264件だった同容疑での摘発は677件に急増した。今年1~7月も前年同期比62件増の459件となっている。

 市民の「監視の目」も厳しくなっており、今年上半期に県警が受理した110番通報のうち、あおり運転などの危険運転を含む「各種情報」は1万1973件。現在の統計になった16年以降で最多だった昨年の同時期より536件増えている。

◎誰でも当事者に ドラレコで自衛を…急ぐとイライラ
 車を運転していれば誰もが突然、被害に巻き込まれる可能性があるあおり運転。全国では高速道などで無理やり停車させられ多重事故につながる事件も起きており、県内でもドライブレコーダー(ドラレコ)の搭載など自衛策が浸透する。県警は「思いやり運転」を実践することで被害に遭いにくくなると指摘。一方、専門家は、ゆとりのない運転者の多くが加害者となりかねない危険性をはらんでいると警鐘を鳴らす。

 前橋市の自動車用品店を訪れた会社員男性(45)は21日に新車を注文したばかり。車内を含め360度撮影できるドラレコを設置する予定。「あおり運転が増えていると感じる。常磐道での事件のようなことが起きるのではないかと不安」と打ち明ける。家族の車のガラスが落雷で割れた際、ドラレコの映像を保険会社に証拠提出できたといい、「災害時の記録としても有効ではないか」と話す。

 別の店舗で商品を見ていた会社員男性(50)は今回のあおり運転の事件で不安を感じ、ドラレコ設置を検討している。「知人の会社では全ての社用車に付けたと聞いた。安全運転への意識の向上にもつながるのではないか」と話した。

 実際にあおり運転の被害に遭ったのは高崎市の男性(40)。数年前に県外の幹線道路を走行中、後続車からしつこいパッシングや猛スピードであおられた。信号待ちの際、自車の前方をふさいだ車から降りてきた男に文句を言われた。「道路に合流する際のタイミングに不満があったようだ。詰め寄られ恐怖を感じた」と振り返る。謝罪し、その場は収まったが「その後はゆとりを持って運転するようにしている」と話す。

 ただ、あおり運転につながる危険な運転は、一部の特殊な運転者だけとは限らない。営業のため高速道を頻繁に利用するみどり市の会社員男性(56)は、追い越し車線をゆっくり走る車を見るとついクラクションを鳴らし、パッシングをしたくなるという。「トラック同士が抜き切れず、走行車線と追い越し車線を並走しているとイライラしてしまう。特に仕事で急ぐときはアクセルを踏む足に力が入ってしまう」と吐露した。

◎多彩なドラレコや無料アプリ…被害立証へ注目
 あおり運転などの被害の立証に役立つとして注目されているドライブレコーダー(ドラレコ)。二つのカメラで自車の前方と後方を両方撮影できるタイプや、車内を含めて360度を撮影できるタイプなど多様な商品が発売されている。一方、機能は劣るものの、スマートフォンをドラレコ代わりに使える無料のアプリケーションも配信されており、予算に合わせて選ぶことができる。

 カー用品店のオートアールズ(埼玉県本庄市)によると、ドラレコの価格は、画素数や録画時間などの機能によって異なる。同社の売れ筋は前後二つのカメラで録画できる商品。200万画素の高画質映像を撮影でき、相手のナンバーなどが鮮明に記録できるという。駐車中の車上荒らしも記録できる「駐車監視機能」を付けると、価格は税抜き2万5800円。

 360度撮影できるタイプは駐車監視機能付きで同3万4800円。このタイプは大型車の場合だと後方を撮影しにくいデメリットがある。既に前方撮影用のドラレコを搭載している場合には、後方撮影用の商品もあるという。

 スマホアプリは、損保ジャパン日本興亜(東京)が運転サポートアプリ「セーフティサイト」を無料配信している。事故の瞬間の前後各10秒を自動録画するほか、手動での録画も可能。車間距離が詰まり、前方車両に接近したときに注意を促してくれる機能なども付いている。

 カー用品メーカーのカーメイト(同)は後方録画用のアプリ「ドライブメイト リモートカム」を無料配信。使わなくなったスマホの再利用を想定し、別のスマホをリモコン代わりにして録画の操作をする。茨城県の常磐道の事件後、ダウンロード数は約20倍に急増しているという。

◎県警「近づかれたら道譲る」…あおり運転から身を守るには
 群馬県警によると、あおり運転とは (1)前の車との車間距離を詰めた異常な接近 (2)無理な進路変更や幅寄せ (3)前の車を意図的に追いかける (4)不必要にクラクションを鳴らす―などがあり、それ自体が犯罪行為。道交法違反をはじめ、悪質な場合、より重い処罰となる危険運転致死傷罪や暴行罪などが適用される可能性があると指摘する。

 あおり運転に巻き込まれるのを防ぐには、 (1)追い越し車線を走行し続けない (2)割り込みなどを含め、むやみに車線変更をしない (3)あおられた場合は道を譲って先に行かせる―などの「思いやり運転」を心掛けることが大切という。

 あおり運転に遭ったときはまずは安全な場所に停車して110番通報をすることが必要。県警は「停車後は車のドアを施錠し窓ガラスを閉めて身の安全を確保する。相手と話し合いをする場合は、警察官が到着するまで待ってほしい」と呼び掛けている。

「運転中 心にゆとりを」高崎経済大名誉教授(交通心理学)岸田孝弥さん(77)の話
 自分の意思通りに車を動かせると自信を持つドライバーは、渋滞などで思うように走れないとイライラして不満をためていく。その状況で、他の車に進路を遮られたり、近距離で車線変更されたりすると感情を爆発させる引き金になる。

 加害者はあおり行為の最中、自分自身を、他人に不本意なハンドル操作を余儀なくされた「被害者」と捉える。そのため「正当な制裁」として、罪悪感を感じていない人がほとんどだ。

 攻撃的な気質を持つ人は日ごろから感情のコントロールが必要だろう。あおり運転は多重事故を引き起こしかねない極めて危険な行為。トラブルを避けるために、運転中は心にゆとりを持つことが大切だ。

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
関連記事