《現場発》JRのSL定期検査 体で技術継承
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若手整備士を指導する時沢さん(中央)

 群馬県高崎市内にあるJR東日本の車庫の扉を開くと、黒光りした車両が目に飛び込む。10月上旬から行われている蒸気機関車(SL)の定期検査の現場だ。「車輪に付いた重りが外れることがあるので気を付けて」。技術専任役の時沢文夫さん(62)が、「デゴイチ」の愛称で親しまれるD51形の周囲に集まった若手整備士に注意を促していた。

■経験ない若手
 この日はカーブを安全に走行するために設けられている左右の可動域を調整した。参加した若手5人のうち3人は動輪を取り外す検査の経験がなく、ガス溶接を失敗して部品を溶かしすぎた人もいた。

 SLは数え切れないほどの部品がある。ボイラー内のボルトや、バルブ弁など消費しやすかったり、入手困難な部品は手作りする。部品作りは経験がものを言うが、入社4年目の大倉宗さん(27)と吉田丈一郎さん(21)は「日ごろは他車種の点検があり、なかなか部品製作に関われない」と頭を悩ませる。

 SLは全国的に人気で、県内では4月~来年2月に土日を中心に少なくとも122本が運行される。走るSLの客車内を教室に見立てて教師役が本県の地形や農産物を紹介する取り組みが来年度に始まる予定で、SLの活躍の場が広がるの必至だ。だが、時沢さんのような経験豊富なベテラン整備士は数少なく、若い世代への技術継承が喫緊の課題になっている。

■作業を写真に
 時沢さんが現場を退くまであと3年。隔年で行われる定期検査は「言葉では伝えきれないことがあるので、手を動かしながら指導できる場」(時沢さん)だが、機会は限られている。若手社員は貴重な体験を無駄にしまいと、複雑な作業を伴う検査は写真に収めている。参加できなかった同僚に、写真を使って細かく説明しているという。

 大倉さんは「苦労を乗り越えて周囲からの期待に応えたい」、吉田さんは「人の手を加えることが多いので自然と気持ちが込もる」と意気込む。若手は時沢さんからバトンを受け取ろうと奮闘している。
(高崎支社報道部 斎藤大希)

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