老舗旅館 台風被災で無念の幕 新鹿沢温泉「鹿澤館」取り壊しへ
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取り壊しが決まった鹿澤館本館
土砂流入で床が崩れた1階部分

 群馬県嬬恋村の新鹿沢温泉のシンボルとして親しまれてきた老舗旅館「鹿澤館」の本館が、8月にも取り壊されることが決まった。昨年10月の台風19号(令和元年東日本台風)で大量の土砂が流れ込むなど大きな被害を受け、営業を休止。修復には莫大ばくだいな費用がかかる上、新型コロナウイルス感染拡大が影を落とし、営業再開を断念した。4代目当主の鴇沢良平さん(63)は「多くのボランティアの方々に力をいただき、再開を望む声も多かったが、力不足で申し訳ない」と話す。

◎19日に「お別れ内覧会」を実施
 同館は長野県上田市で乾物屋「桝林本店」を営んでいた現当主の曽祖父・鴇沢林蔵(1876~1964年)が34年に開業。当時、洋風の旧本館や木造3階建てで豪華な造りの客間「三清荘」(54年に焼失)などが750坪以上の広い敷地に次々と建築され、現在まで残る本館もそのうちの一つとされる。

 木造2階建ての本館は入り母屋造りで、降雪地域には珍しい瓦ぶきの屋根に千鳥破風が施されている。小屋組にはトラス構造が使われ、玄関前の車寄せは寺社建築に見られる唐草絵の彫刻や格天井で造られるなど重厚なたたずまい。昭和の中頃には、林間学校で訪れる子どもたちや多くのスキー客らでにぎわった。

 本館2階部分には100畳敷きの大広間があり、村民が結婚式に利用するなど多くの人に親しまれた。だが、台風19号に伴う大雨の影響で1階部分に土砂が流れ込み、電気、ガス、水道も止まるなど鴇沢さんの日常生活も困難になった。

 発生直後から多くのボランティアが訪れ、土砂の撤去や泥まみれになった家財の運び出しといった復旧作業が行われたが、床は大きくゆがみ、階段がえぐられるなど大きな損害をこうむった。復旧には数億円かかるとされた。

 今後について、鴇沢さんは「まだ先のことは考えられないが、温泉もまだあるので、小さい民宿でも開ければ」としている。

 かつて七つの旅館が並んだ同温泉街は、同館の再開断念で三つになる。鹿沢温泉観光協会の佐藤洋司会長は「子どものころに隠れんぼするなど、地元の人にとっては思い出の詰まった場所。温泉街のシンボルだったので、なくなってしまうのは寂しい」と惜しむ。

 同館を記録に残し、後世に伝えていこうと同観光協会と村などは今月19日、「お別れ内覧会」(参加無料、午後1~5時)を開催する。昔の写真の展示のほか、同温泉街の入浴券の配布、同館を撮影対象とするフォトコンテストなどを実施する予定だ。

 動画投稿サイト「ユーチューブ」で告知用動画も公開している。問い合わせは村総合政策課(0279-96-1257)へ。

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