《湯けむりの先に》(4)魅力創出 “日本の宝”文化守る群馬
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草津温泉の観光施設「熱乃湯」で披露される湯もみショー
(左)都道府県別の温泉番付(2020年、BIGLOBE温泉大賞)と(右)第33回にっぽんの温泉100選(2019年度、観光経済新聞社主催)
SNSの投稿で行ってみたいと思った場所に行った人の割合(JTB総合研究所調査)

 群馬県が誇る観光資源の温泉。湧き出る自然の恵みを求めて県内外や海外から多くの人が訪れ、泉質やアクセスの良さなどを理由に全国の温泉地ランキングでは常に上位を占める。一方、群馬のブランドイメージは低く、観光関係者は魅力創出に知恵を絞る。政府の観光支援事業「Go To トラベル」の対象に東京が目的地の旅行や、都民の旅行が10月1日から追加されることが決定。さらなる誘客が期待される中、温泉の魅力と文化を守る“群馬発”の機運も高まっている。

■「東の横綱」君臨
 今月上旬の草津温泉湯畑周辺。平日にもかかわらず観光客でにぎわっていた。足湯を楽しんでいた20代の女性2人は「Go To」を利用して千葉県から高速バスで来県。「温泉といえば草津。コロナは心配だが、気を付けて楽しみたい」と話した。

 全国で人気が高い群馬の温泉。旅行のプロが選ぶ温泉地ランキング「にっぽんの温泉100選」では、草津が17年連続で1位に選ばれた。インターネット接続大手のビッグローブ(東京都)の温泉大賞でも、群馬が都道府県別の「東の横綱」に君臨している。

 人気の理由は何か。草津をはじめ温泉の質の良さは評価が高く、湯畑周辺や伊香保温泉の石段街など街並みの雰囲気に癒やしを求める人も多い。また、県内の観光協会の関係者は「アクセスの良さが大きい」と口をそろえる。JRや県などとも連携し、「首都圏から1時間」を売りにPRを展開。若者が気軽に行けるよう、関越交通(渋川市)も温泉地に通じるバスを運行する。

 ただ、都内の旅行会社は「商品としてみると、群馬は華がないのも事実」と明かす。例えば栃木県の鬼怒川温泉と比べた場合、「日光に行けてSLもある。旅のパックとして考えると鬼怒川に軍配が上がる」と指摘する。群馬県は都道府県の魅力度ランキングで下位に低迷しており、全国的に著名な温泉地とのイメージが結び付いていないのが現状だ。

■固有の文化
 各地で古くから親しまれてきた「温泉文化」。群馬県を先導役に、国連教育科学文化機関(ユネスコ)の無形文化遺産登録を目指す動きが本格化している。2018年、群馬県温泉協会の岡村興太郎会長を中心に、県内の旅館・ホテル、観光、自治体関係者が集まって登録推進協議会が発足した。

 ただ、無形文化遺産は地域・民族固有であることが求められ、ハードルが高いとされる。高崎商科大の熊倉浩靖特任教授は、 (1)定義付けできるか (2)危機的状況にあるか (3)法体系が整っているか―を課題に挙げる。ゆっくりと漬かる入浴方法や心身の疲れを癒やす湯治、地元の食や景色を提供する旅館は「まさに固有の文化に値する」と強調する。

 登録には全国で賛同者を増やし、登録の意義を共有することが欠かせない。協議会は今年から来年にかけ、全国の自治体や旅館関係者、学識経験者らに働き掛け、運動の輪を広げていく方針だ。「温泉文化を守り、世界に発信していく使命がある」と岡村会長。温泉業の気概と、県民や観光客の温泉を愛する思いが、“日本の宝”を未来に受け継いでいく。

【温泉文化】まんじゅう発祥 全国へ拡散
 伊香保発祥の「温泉まんじゅう」などの食、川原湯の奇祭「湯かけ祭り」といった行事―。温泉文化の定義は難しく、それぞれが持つイメージは多彩だ。群馬には、日本の温泉文化に影響を与えたエピソードが残っている。

 温泉まんじゅうを考案したのは、伊香保温泉(渋川市)の石段街にある「勝月堂」初代店主、半田勝三さん。「名物がほしい」と地元の人に頼まれ、1910年に初めて作った。温泉の湯の色をイメージした茶色が特徴。黒糖風味でもちもち感があり、深みのある甘さが口に広がる。34年、昭和天皇来県の際に献上されたことからその名が知れ渡り、後に全国各地で作られるようになった。

 今年に入り、コロナ禍で客足は減ったが、「石段を上り、『開いていた』と喜んでくれる人のために」と赤字覚悟で店を開け続けた。4代目の正博さん(64)は「味も作り方も当時のまま。守り続けるのが使命」と力を込める。

 湯の温度を自然に下げる方法として、江戸時代から受け継がれてきた草津温泉(草津町)の「湯もみ」。毎日ショーが行われ、観光客に人気だ。現在、体験は中止しているが、出演者はフェースシールドを着用、客の定員も減らすなど感染対策をして運営している。

 客一人一人に手ぬぐいを用意するサービスを旅館で最初に始めたのは伊香保温泉、「温泉マーク」の発祥は磯部温泉(安中市)とされる。温泉街では、射的や芸者のお座敷芸など昭和のレトロな雰囲気を味わう人もいる。温泉文化は観光客の心に残る魅力の一つになっている。

【SNS】若い世代や外国人誘う
 会員制交流サイト(SNS)の活用が、県内温泉地でも誘客の大きな鍵となっている。旅行先選びの情報源とする動きが若い世代を中心に広がり、各地でSNSを意識したイベントや景観整備が行われている。

 2018年冬、人気カップ麺「ぺヤングソースやきそば」の巨大モニュメントが伊香保温泉の石段街に登場すると、SNS上に画像が次々と投稿された。渋川伊香保温泉観光協会が製造元の「まるか食品」(伊勢崎市)などと連携した企画で、宿泊者の増加につながった。

 JTB総合研究所の19年調査によると、SNSの投稿を見て旅先を決める人は増加傾向にあり、29歳以下の女性の51%、30代女性の37%が「投稿で行ってみたいと思った場所に行った」と答えた。宝川温泉の「汪泉閣」(みなかみ町藤原)も10年ほど前からSNSを通じて外国人に存在を知られるようになり、アジアや欧米を中心に人気を集めている。

 新聞をはじめ、テレビ番組やCM、映画も温泉地のPRに一役買ってきた。阿部寛さん主演の映画「テルマエ・ロマエ」シリーズは伊香保や草津で撮影され、反響を呼んだ。今春には大型観光企画、群馬デスティネーションキャンペーン(4~6月)に合わせて「JR東日本大人の休日倶楽部くらぶ」のCMが放送された。女優の吉永小百合さんが中之条町の奥四万湖でカヌーを体験する内容。放送当時は外出自粛が影響して効果は薄かったが、8月下旬に再放送されると湖近くの四万温泉を多くの観光客が訪れた。

《視点》「非日常」着地型観光で
 新型コロナウイルスの影響下にある県内温泉地。歩いてみると、温泉を守り抜こうと闘う旅館、観光関係者の姿があった。それこそが群馬の温泉を全国のトップに押し上げた原動力なのだと、強く実感した。

 一方で、全国における群馬の魅力度ランキングの低さにもどかしさを覚える。旅は友人や家族と「非日常」を味わうもの。だからこそ、出掛けている時間全体を考えた観光が不可欠だ。

 観光客を受け入れる地域が独自の体験プログラムや旅行を企画する「着地型観光」が注目されている。地元に精通した人たちが、主体的に新しい魅力を掘り起こし、地域のコンセプトを考えて活性化につなげる―。そんな取り組みは旅行者の関心を高め、「その土地を深く味わいたい」という気持ちの醸成につながるのではないか。

 複数自治体にまたがり、広域で誘客を図ることも必要だろう。観光資源が豊富な利根沼田地域では、商工・観光関係者が広域観光を推進する取り組みを始めており、定着を期待したい。

 温泉は、古くから人々の暮らしと密接に結び付き、観光立国を支えるまでになった。今こそ、温泉の文化や歴史を見つめ直し、魅力づくりを進める機会にしたい。(沼田支局・堀口純)

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