《ニュース追跡》容疑者 動機語らず 前橋のホテル経営者殺害
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東京都内の交番に出頭後、群馬県警前橋署へ移送された男=9月15日午後2時50分ごろ、前橋署(9月16日付より)

 前橋市富士見町のホテルで経営者の女性=当時(71)=が刺殺され現金が奪われた事件で、群馬県警前橋署の捜査本部に強盗殺人容疑などで逮捕された住所不定、無職のベトナム国籍の男(30)が都内の交番に出頭してから15日で1カ月を迎える。男は技能実習生として奈良県内で働き、待遇への不満から群馬県を訪れたとみられている。事件について「話したくない」と黙秘する男に対し、遺族は「真実を話してほしい」と悲痛な声を上げる。動機や経緯の詳細が判明しない中、背景に技能実習生の構造的な貧困があるとの指摘もある。

◎技能実習生の構造的貧困が背景か
 男は9月15日、「群馬県で人を殺した」と東京都品川区の交番に出頭。県警が同日、詐欺容疑で逮捕し、今月5日に強盗殺人などの疑いで再逮捕した。9月10日午前9時40~50分ごろ、ホテルで女性の背中を刃物で刺して殺害し、ホテルから現金約5万5000円を奪った疑いが持たれている。

 捜査関係者によると、詐欺容疑での逮捕後はホテルの事件への関与をほのめかしていたが、その後黙秘しているという。

■「詳細話して」
 女性の長男(35)は事件後、怒りや悲しみ、喪失感といった感情を抱えながら過ごしている。容疑者に対しては「出頭してきたのに、何で何も言わなくなってしまったのか」と疑問をぶつけ、「(容疑者)本人にしか分からないことがたくさんある。自分のしたことに責任を持って、事件の詳細について話してほしい」と語る。

 男は2年前の10月に来日し奈良県の金属加工会社で働いていたが、その後失踪。男は失踪の理由を「給料が低かったから」と話し、待遇に不満があったという。今年6月ごろにベトナム人コミュニティーを頼って群馬を訪れ、大泉町や前橋市を拠点に生活していた。

 群馬県の複数のベトナム人の知人から借金があったことも判明し、捜査本部は男が金銭的に困窮していたとみて、動機や経緯を調べている。

■職求め失踪
 関係者によると、ベトナムからの技能実習生は、送り出し機関への仲介料や、日本語を学ぶ費用のため多額の借金を抱えて来日するケースが多い。毎月10万~13万円ほどの手取りのうち生活費を残し、多くは母国の家族に送金するという。

 技能実習生の実態に詳しい県内の弁護士は「生活費や仕送りで手元に残らず、新たな収入源を求めて実習先から失踪し、職を探すケースが出ている」と指摘。法務省によると、失踪者は2014年の4847人に対し、18年は9052人とほぼ倍増した。低賃金のほか、長時間労働などの要因がある。

 会員制交流サイト(SNS)のベトナム人ネットワークでは求人情報の投稿に反応する形で失踪したり、技能実習生が職探しをしたりする実態もあるという。

 新型コロナウイルスによる景気低迷で実習先の業績が悪化していることの影響もある。ベトナムからの技能実習生を多く受け入れている管理団体の男性幹部は「SNS上で『もうかる仕事がある』と呼び掛けるベトナム人の投稿が広がっている」と指摘。「実習先を逃げ出すと他で働くことは難しく、結果的に詐欺や窃盗などの犯罪行為に手を染めてしまっているケースも少なくない。構造的な貧困の実態がある」としている。(稲村勇輝、栗原綾菜)

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