《ヤングケアラー》実態 全国で調査へ 悩み明かせず孤立に
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ヤングケアラーの主な類型(資料から一部抜粋、Copyright(c)一般社団法人日本ケアラー連盟)
現在は支援者として活動する男性。家族会に呼ばれて経験を話すこともある
「大人は話を聞いてくれないだろうと思っていた。結婚してから、信用できる人たちに出会えた」と話す女性

 病気や障害などのある家族を支える15~29歳の「若年介護者」は全国に約21万人いるとされる。友人と過ごしたり、部活動に打ち込んだりするより家族を優先。仕事をしながら世話をする若者もいる。だが、家庭内の悩みを周囲に打ち明けられない人も少なくないため、状況は見えづらい。介護者のうち18歳未満を「ヤングケアラー」とする呼び方が一般化しつつある。国は今月から教育現場を対象として初の全国規模での実態調査に乗り出し、年度内にも結果がまとまる方向だ。

【家族が精神疾患】10代 深夜まで見守り眠れず
 「つらかったのは、家族の病気について誰にも話せなかったこと。『言ってはいけない』と言われていたし、友達に聞かれてもつくった家族像を伝えていた」。母親ときょうだい2人が精神疾患を抱える家庭で育った群馬県安中市の40代男性は、10代の頃をこう振り返る。

 小学1年の時に母が統合失調症となり、その数年後にきょうだいたちも同じ病気を患った。それからは友達が遊びに来る前に急いで家の中を掃除し、制服のアイロンかけや弁当の用意も自分でした。

 ずっと家族のことが気掛かりだった。叫んだり暴れたりしたときは、数時間かけてなだめた。外出中も家のことが気になり、「友達と遊んでいても純粋に楽しめなかった」。中学卒業後に働き始めたが、不安定だった家族を深夜まで見守っていて眠れず、昼休みを睡眠に当てた。

 「家族を好きだという気持ちと、いなければいいのにと思う気持ちがあった。将来が不安で仕方がなかった」。30代になると、両親が認知症を発症。介護をきっかけに子どもたちが助け合うようになり、きょうだいは料理をしたり、外に出掛けられるようになったりして社会とつながることができた。昨年、母は亡くなった。父は施設で生活しており、男性はきょうだいと3人で暮らしている。

 「同じ立場の人と話せればよかった」―。そんな思いから近年、精神疾患を抱える当事者のきょうだいが集えるサロン「あんなか兄弟姉妹会ケセラセラ」、当事者と家族の居場所づくりや病気について学ぶ「リカバリーカレッジあんなか」を相次いで立ち上げ、支援に力を入れている。同じ立場の仲間の話を聞いて共感し、自分も思いを吐き出すことで気持ちが整理できるようになるという。

 「当事者も家族も孤立している。その原因は、病気(精神疾患)に対する偏見だと思う。病気について発信しても大丈夫なんだと思えるように、社会が変わるといい」

【小4で弟の世話】両親が不在で状況受け入れ
 高崎市の女性(26)は小学4年の時に、生まれたばかりの弟の世話を担った。母親は外出が多く、長いと3日ほど家を空けた。父親は仕事の都合で離れて暮らしていた。「お母さんはいなくなっちゃって、でも弟は泣いてるし。どうしようって…」。何とかしなければと過ごした日々を振り返る。

 袋に書かれた説明を見ておむつを替え、ミルクを飲ませた。学校にはほとんど行かなくなった。食事は夜の1回のみ。どうしても空腹に耐えられない場合は、学校に行って給食を食べてすぐに家に戻った。帰ると弟は泣いていた。

 「弟はかわいいし、泣いているとかわいそうだった。自分の家の状況をおかしいと思っていないから、先生にも言わなかった」という。

 中学3年の卒業式前日、何もかもが嫌になって風邪薬を大量に飲んだ。10代後半で妊娠するまで繰り返した。「病院でうつだと言われたこともあった。多分、母も鬱のような症状だったんだと思う」と推し量る。

 今は2児の母となり、夫をはじめ周りには信用できる大人たちがいる。「死にたいとずっと思っていた。でも、『子どもが幸せになってから』と思えるようになった」と前を向いた。

【実態把握へ全国調査】課題見据え支援を
 2017年の総務省の就業構造基本調査で、家族の介護を担う全国の15~29歳は約21万人。12年の前回調査は約17万8000人で、若年介護者が増えている実態が浮かび上がった。ただ、18歳未満のヤングケアラーがどれほどいるかは現段階で分かっていない。

 厚生労働省は18年度と19年度にそれぞれ、全国の市町村に設置された要保護児童対策地域協議会に対し、ヤングケアラーに関する調査を実施した。18年度は849自治体が回答(回収率48.8%)。この中でヤングケアラーという概念を「認識している」としたのは27.6%にとどまった。このうち、ヤングケアラーと思われる子どもの実態を把握していたのは34.2%だった。

 19年度は707の自治体(回収率40.6%)が回答した。ヤングケアラーの概念を「認識している」としたのは46.7%、「昨年度までは認識していなかったが、認識するようになった」は28.0%で、認識割合は合わせて7割強に高まった。このうち、ヤングケアラーと思われる子どもの実態把握をしているとしたのは30.1%。ヤングケアラーと思われる子どもはいるが実態を「把握していない」が27.7%、「該当する子どもがいない」が41.9%だった。

 前年度の状況把握でヤングケアラーと思われる子どもの有無を聞いたところ、1人以上としたのは219自治体。内訳は1~5人が170、6~10人が26、11人以上が23だった。

 18、19両年度に調査対象となった同協議会は、虐待被害などで保護が必要な子どもの支援を主な目的としている。厚労省は、表面化しにくい実態をより正確につかむには教育現場への調査が必要と判断。全国規模で調査に乗り出すこととした。調査対象は中学生、高校生となる見込みだ。

 こうした国の動きについて、日本ケアラー連盟(東京都)代表理事の堀越栄子さんは「ようやく全国のヤングケアラーの実態や抱える問題、実現すべき課題が明らかになる」と歓迎する。

 これまでは同連盟による教員対象の調査(15年・新潟県南魚沼市、16年・神奈川県藤沢市)や大学教授グループによる高校生調査(16年・大阪府、18~19年・埼玉県)、埼玉県の高校2年生調査(20年)など民間団体や研究者、自治体による地域限定の調査が先行していた。

 堀越さんは「介護は家族がするもの、お手伝いをする良い子という見方により、ヤングケアラーは見えにくい存在だ」と指摘した上で、「まずは学校を発見の場と位置付けてほしい。行政には担当分野を超えた対応が求められ、縦割りではない省庁横断的な支援が大切」と訴える。「あらゆる相談機関にはヤングケアラーの視点を持って対応してもらいたい。(国は)調査結果を基に施策を講じ、具体的に支援してほしい」と期待を込める。

◎ひとり親家庭 増加が背景に
 若年介護者が増えている背景には核家族化の進展、ひとり親家庭の増加があるとされる。群馬県人口は減る一方で、世帯数は右肩上がり。1950年代まで5人台だった1世帯当たりの人数は2019年に2.40人まで減った。

 県が5年に1度実施するひとり親家庭に関する調査で、16年は2万5325世帯(母子2万2499世帯、父子2826世帯)と25年前の1.4倍に増加している。

 ヤングケアラーは、開会中の群馬県議会定例会でも取り上げられ、11月30日の一般質問で県は対象の児童生徒を把握した場合に教員やスクールソーシャルワーカー、福祉部局が連携して問題解決に努めているとした。実際の支援で保護者の意識や生活が変化して子どもの負担が軽減され、学校生活に集中できるようになったと紹介。笠原寛教育長は「国の調査結果を踏まえて群馬の実態を把握し、ヤングケアラーに当たる子どもが確認された場合、児童相談所や市町村の福祉部局など関係機関と連携して迅速に支援したい」と述べた。

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