《ヤングケアラー》支援 在り方悩む自治体 教育や福祉と連携を
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ヤングケアラーだと思われる子どもが「いる」とした自治体が挙げた主な内容
支援の仕組みづくりの大切さを訴える渋谷教授
埼玉県のケアラー支援条例ポイント

 家族の介護や世話などをしている子どもたちの状況や行政側の対応について調べるため、上毛新聞は10~11月、群馬県内35市町村にアンケートを実施した。本年度の要保護児童の中でヤングケアラーだと思われる子どもがいるか聞いたところ、伊勢崎、吉岡など5市町村が「いる」と回答した。今後の支援の在り方について、35市町村からは「子ども自らの意思で行っている場合も考えられ、適切な支援の在り方について難しさを感じる」(藤岡市)などの意見が寄せられた。

【群馬県内自治体アンケート】5市町村で存在を把握
 アンケートは全35市町村が回答した。各市町村には虐待を受けている子どもの早期発見につなげることなどを目的として、関係機関による要保護児童対策地域協議会が設置されており、事務局を担う部署がアンケートに対応。ヤングケアラーだと思われる子どもがいるとした5市町村のうち、3市村は子どもや家庭が特定される可能性があるとして自治体名の非公表を求めた。

 ヤングケアラーだと思われる子どもが「いる」とした5市町村からは、「精神疾患がある親に代わって料理や洗濯などの家事をする」「ひとり親の父母に代わり、幼いきょうだいの面倒を見る」といった事例が挙げられた。中には、「母親が家事をほとんどしないため家事全般をする」ケースもあるという。

 また、「外国籍の家庭では、第1子となる兄や姉が下の子どもの面倒を見ることが当たり前と考える家庭が散見される」など、文化の違いを指摘する声もあった。

 一方、ヤングケアラーだと思われる子どもがいた場合、支援していく上で何が課題になるかも質問(自由記述)。「(家族と離れたくないなど)子ども自身が介護することを望んでいる場合、どういった支援を行うべきか課題が残る」(神流町)との意見が多かった。

 渋川市は「家族の一員としての手伝いや世話と、ヤングケアラーとしての線引きが難しい」としながら、「問題がなかなか表面化してこない」と説明した。

 ほかには、「ひとり親や保護者の健康状態など、状況をみると、ただ問題とするだけでは対象者を苦しめることになる」(片品村)や、「保護者にヤングケアラーの概念を伝え、支援の同意を得ることが難しいのではないか」(邑楽町)との意見や、「ヤングケアラーについては経済的あるいは制度上、利用できるサービスがないなど支援が困難なケースが多い」(高崎市)との指摘もあった。

 また、関係機関が連携して取り組む必要性を挙げる回答が複数寄せられ、桐生市は「実態を把握し、教育機関や福祉分野などの関係機関と連携して支援を行いたい」としている。

【先進事例】埼玉県は条例制定し調査
 全国には、若年介護者の実態把握に努めたり、支援に向けた態勢づくりを進めたりする自治体もある。

 病気のある家族を介護したり、障害がある身内の世話をしたりする人全般の支援について定めた「ケアラー支援条例」が3月、全国で初めて埼玉県議会で可決、施行された。条例では介護者のうち18歳未満の子どもをヤングケアラーと定義。「適切な教育機会を確保する」「心身の健やかな成長と自立が図られるようにしなければならない」などを基本理念に掲げ、県が支援計画を策定することも盛り込んだ。

 同県は7~9月、県内の全高校2年生約5万5000人を対象に実態を調査し、86.5%に当たる4万8261人から回答を得た。調査結果が11月下旬に公表され、「ヤングケアラーである、または過去にそうだったと思う」とした人が1969人(4.1%)おり、25人に1人の割合であることが判明。このうち、介護などの頻度が「毎日」とした回答が最も多い696人に上り、3割強を占めた。

 結果を踏まえ、県は3年間で約1000人の受講を目標とするヤングケアラー支援のための教育・福祉合同研修や、ケアラー支援の広報と啓発に集中的に取り組む―などを盛り込んだ支援計画の素案をまとめた。本年度中の策定を目指している。

 神戸市は11月中旬、ヤングケアラーの支援を主な目的とするプロジェクトチームを立ち上げた。市内では元幼稚園教諭の20代の女性が昨年10月、自宅で介護していた祖母を殺害する事件が発生。同じように苦悩する若者たちに寄り添うことを目指す。

 チームは福祉、健康、こども家庭、企画調整の各局と教育委員会に所属する計15人で構成。有識者や支援団体などから意見を聞いて現状と課題を把握し、対策に必要な費用を来年度予算案に盛り込む予定という。

 北海道栗山町も、ケアラー支援条例の制定を目指している。

「寄り添う仕組みが必要」…成蹊大・渋谷智子教授
 家族の介護や世話を担う若者たちの中には進学、就職ばかりか、結婚や将来の夢を諦める人もいる。社会的な関心が高まりつつある一方、家族のことを話すのに抵抗感を抱いていたり、本人に自覚がなかったりして表面化しないケースが多い。当事者を支えるために何が求められているのか。

 ヤングケアラーについて研究している成蹊大の渋谷智子教授は「子どもたちが頑張っている部分は認めて、『こういう道があるよね』と一緒に伴走してあげるような仕組みがあるといい」と提案する。

 学校では子どもが置かれている状況に気付きやすい一方で、教員個人が背負い込むのではなく、役割を分担した「対応チャート」を作るなど「支援の仕組みづくりが大切」だと指摘。子どものサポートに関しては、「帰宅したらケアの対応に追われ、勉強できない子どもは多い。(学校内に)部屋やパソコンを用意するなど、勉強できる環境をつくることも重要」とし、対応する教員に過剰な負担がかからないよう、民間との協力も欠かせないとする。

 渋谷教授によると、取り組みが進むイギリスでは、昼休みなどにヤングケアラーが集まるミーティングが学校で開かれている。子どもたちは自身の状況について語り合い、同じような境遇にある仲間と楽しい時間を過ごすことができる。生徒手帳には実施日や場所、担当教員名などが記されているという。

 ヤングケアラーの中には、学校に行くことを諦める状況に追い込まれる子どももいる。日本では、就職に際して「新卒一括採用」が慣例となっているため、一度リタイアすると、仕事を選択する幅が狭まる傾向にある。

 「さまざまな理由で学ぶことを諦めた人が、状況が変わった後で学び直せるといい」と訴える渋谷教授。「ケアを担った子どもたちの『さまざまな役割を回すことができた』というマネジメント能力の高さが、評価につながるような仕組みもつくっていきたい」としている。

《視点》地域差なく取り組みを
 「介護は家族が担うもの」「家族の病気や障害を周囲に言いづらい」などと感じ、SOSを出せないケースがある。教育現場を対象とする初の全国調査が実施され、年度内には結果がまとまる方向だが、国は中高生らの実態把握のみで終わらせず、求められる支援を見極めて確実に子どもたちに届けてほしい。

 調査や支援策の検討と並行し、子どもが相談しやすい雰囲気づくりも欠かせない。取材で出会ったあるホームヘルパーの女性は、介護サービス利用者の子どもがヤングケアラーではないかと感じたことがあったという。ただ、家庭内の事情に踏み込むことまではせず、静かに見守るしかなかったようだ。

 3月にケアラー支援条例が制定された埼玉県では高校生らの実態把握が進み、神戸市ではプロジェクトチームが立ち上がった。行政関係者らが問題意識を共有し、解決策を探って手を差し伸べようとする、先進的な取り組みといえるだろう。

 しかし、福祉に地域差があっていいのだろうか。群馬県でも、教育や福祉の関係者が連携し、支援が必要な場合に対応しているとは思うが、さらに取り組みを深めてほしい。介護を担う、あるいは担ってきた若者たちが、自信を持って自分の人生を生きられる社会の実現を願いたい。(文化生活部・水村希英)

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