《技能実習生-光と影》失踪  実習先での暴言耐えられず姿消す 「平等に扱ってほしかった」
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職場でのストレスに耐えきれず、実習先から失踪したベトナム人男性。日本でまだ働きたいと考えているが、不透明な状況が続く=11月下旬、前橋市内
 
 

 技能実習生として来日した外国人による犯罪が急増している。日本の技術や知識を発展途上国に伝える国際協力の推進で、30年近く前に始まった技能実習制度。だが、「金を稼ぎたい」実習生と人手不足にあえぐ企業の思いが重なり合い、労働力確保のために利用されているのが実態だ。一部の実習先では暴言や暴力が広がり、実習生のストレスは増大。職場からいなくなった失踪者が働く先もなく犯罪に加担する―。そんな“負のスパイラル”が見え隠れする。制度の裏側で何が起こっているのか。現場を探った。

■暗いトンネル
 群馬労働局によると、2019年の県内の技能実習生は1万145人となり、初めて1万人の大台に乗った。5年前の14年と比べて2.6倍に急拡大している。

 国籍では19年10月末時点で、ベトナムが44.8%と最も多く、中国(香港を含む)が25.3%、インドネシア11.7%、フィリピン8.0%と続いた。

 全国的にも技能実習生が増え続ける中で、実習先に恵まれずに逃げ出し、群馬県にたどり着く例は後を絶たない。

 ずっと、暗いトンネルの中にいるようだった―。ベトナムからの技能実習生の男性(23)は実習先の社長の暴言からくるストレスに耐えきれず、来日から約9カ月後の今年8月、西日本の企業から失踪した。大阪府内のホテルに滞在しながら生活していたが、支援関係者に保護され、前橋市内の監理団体に引き取られた。

 ベトナムの首都ハノイ郊外の出身。4人きょうだいの末っ子として生まれた。高校卒業後、軍の部隊に2年間入ってから来日を決めた。好きなアニメは「ドラえもん」。日本は優しい人が多く、きれいな国だと思っていた。

■「数年で家が」
 技能実習を決めた理由は単純だ。「お金を稼ぎたかったから」。実家は農家で貧しかった。少しでも親のために仕送りができれば、仕事は何でもよかった。現地の貨幣価値は日本の4分の1から5分の1程度とされ、仮に手取りで月10万円だとベトナムで40万~50万円分を稼ぐ計算。ベトナム人技能実習生の間で、「日本で数年間働けば家が建つ」とうわさされているという。

 昨年11月に来日し、翌12月から西日本の企業で仕事を始めた。午前8時~午後5時の勤務で、昼休憩が1時間。ベトナムからの技能実習生は14人だった。ミシンを使ってカーテンを加工する仕事を任された。仕事内容は難しいものではなく、勤務体系にも不満はなかった。当初は、「組合や会社の人も優しく、ずっと働き続けたいと思った」と振り返る。

■頭よぎる借金
 だが、希望はすぐに打ち砕かれた。「仕事が遅い」「早くしろ」「急げ、急げ」。社長からのこうした発言が毎日のように繰り返され、ストレスで夜も満足に眠れなくなった。社長が怒り出すと、仕事の途中で帰らされることもあった。

 「工場に日本人もいて私たちベトナム人の仕事は遅くないと思ったけど、自分たちだけが怒られていた。すごく怖かった。外国人でも日本人と同じ、平等に扱ってほしかった」

 監理団体の通訳にも相談したが、「社長は偉い人だから我慢してほしい」と言われた。逃げ出そうか悩んだとき、頭をよぎったのは借金。送り出し機関や日本語学校のための費用、生活費などを含め、親が銀行から100万円ほど借りていたからだ。

 それでも耐えきれず、工場から姿を消した。「友人に失踪した人もいるけど、みんなしたくてするわけではない」。そう自分に言い聞かせ、自身の取った行動を「避難」と表現する。

 電車で大阪へ行き、約3カ月もの間、ホテル暮らしをした。「警察に捕まるかもしれない」。そんな不安と向き合う日々を過ごした。貯金を切り崩し、アルバイトなどでしのいだが、貯金も底をつきつつあった。会員制交流サイト(SNS)で知り合ったベトナム人も頼ったという。

■資格切り替え
 10月下旬には、一緒に行動していたベトナム人が窃盗容疑で現行犯逮捕され、参考人として警察に呼ばれたこともある。在留期限が迫る中、すがる思いで大阪出入国在留管理局を訪れた。そこでベトナム人を支援している日本人と出会い、前橋市内の監理団体を紹介された。

 男性は今、就労可能な在留資格「特定活動」などに切り替えた上で、日本での仕事の継続を望んでいる。しかし、監理団体の関係者は「一度失踪してしまえば、新たな職場でまた失踪するのではないかとの疑念が強まり、仕事に就けるハードルは高くなる。『元失踪技能実習生』という肩書がずっとつきまとう」と説明する。

 失踪した経緯などの書類をまとめて出入国在留管理庁に申し立ててはいるものの、申請がどうなるかは不透明な状況という。

 男性を引き取った監理団体の幹部は「日本で仕事を続けたいという男性のためにも、できる限り支援していきたいが…」と苦しい胸中を口にした。

 申請のために男性が書いた反省文には、こう記された。

 「(逃げ出した)自分の行為が間違いと反省して、後悔している。これからは二度とこのようなことがないよう日本の法律をきちんと守る。日本で実習を続けられるように精いっぱい頑張ります」

◎失踪の動機は「低賃金」67% 法務省調査
 失踪した外国人技能実習生を対象に法務省が行った調査で、失踪の動機(複数回答)を「低賃金」と答えた割合が67.2%と最も高かった。安価な労働力として使われていることに不満が募り、失踪につながっている構造の一端が浮かび上がった。

 調査は、全国の受け入れ先企業などから逃げ出し、入管難民法違反容疑で摘発された2870人が対象で、2018年に公表された。月給は10万円以下が56.7%と半数を超えた。15万円以下で見ると、全体の92.8%を占める状況だった。失踪動機に低賃金を挙げた1929人のうち、「契約賃金以下」が144人(7.5%)で、「最低賃金以下」も22人(1.1%)いた。

 低賃金以外では、「指導が厳しい」12.6%、「労働時間が長い」7.1%、「暴力を受けた」4.9%などだった。

 出入国在留管理庁は失踪対策として、大量に失踪者を出した実習先や監理団体は適正に実習ができていないとみなし、新規受け入れを停止させる措置を講じている。だが、失踪者数は増加傾向にあり、19年は5年前の1.8倍の8796人に上っている。

 同庁の担当者は「失踪して不法残留などで逮捕されれば、仕事ができないまま国に帰ることになる。いかに失踪を未然に防ぐかが課題だ」と話す。県内のある監理団体の元幹部の男性は「実習生を奴隷のように働かせている実習先も少なくない。労働環境の改善も必要だ」と指摘した。

◎「甘い言葉」に誘われ犯罪加担のケースも
 知人らの「甘い言葉」に誘われ、技能実習生が犯罪に手を染めるケースも出ている。前橋市内のスポーツ用品店から有名ブランドのTシャツなど計11点を盗んだとして、県警は8月、窃盗容疑で、玉村町のベトナム人技能実習生の男=当時(22)=を逮捕した。男は10月に前橋地裁で開かれた公判で、街で知り合ったベトナム人に指示されて窃盗を企てたと証言した。

 男は高崎市内の食品加工会社で働き、アパートで生活していた。月給は手取りで11万円ほど。ほとんどの給料は母国の家族に送金していたという。「もっと金が欲しい」と考えていたところ、街で“ズオン”と名乗るベトナム人と出会い、盗む商品や方法を指示されたという。

 男は「盗んだTシャツをズオンに渡してお金をもらうことになっていた」とし、「借金の返済で大変だった。売った金は食費に使おうと思っていた」と語った。検察側は「(窃盗は)自分の意思によるものだ」などと主張。前橋地裁もこれを認め、窃盗罪で罰金30万円の判決を言い渡した。

 県警によると、2019年に刑法犯で摘発した外国人211人のうち、実習生と在留期限切れなどの元実習生は合わせて54人。実習生らの摘発は年々増加している。前橋市内では9月、ホテルを経営していた70代の女性が刺殺され現金が奪われる事件も発生。奈良県の実習先から失踪したベトナム人の男(30)が強盗殺人容疑などで逮捕、起訴されている。

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