《技能実習生-光と影》模索 悩みに寄り添い「失踪させない」 官民の取り組み強化が必要
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母国で農業に関する事業を立ち上げたいと考え、日々実習に励むヌーダさん(左)=今月上旬、渋川市
「実習生に寄り添った施策を進めてほしい」と話す山本社長
 

 北関東で今年相次いだ家畜の大量盗難事件に絡み、群馬県警は太田、館林両市などのベトナム人グループを逮捕した。彼らの多くは全国各地で働いていた元技能実習生で、元実習生が犯罪に手を染める事案は以前から繰り返されてきている。実習生の悩みに寄り添い、失踪者を生み出さないようにする官民の取り組み強化が求められている。

◎社長が現地へ家庭訪問、実習先に安心感
 今月上旬、群馬県渋川市赤城町に広がる畑を訪ねると、寒空の下、外国人技能実習生が慣れた手つきで小松菜を収穫していた。実習生たちは、農産物の栽培・加工・販売を手掛けるグリンリーフ(昭和村)の子会社「四季菜」で働いている。

 グリンリーフは毎年、タイやベトナムなどから実習生を受け入れているが、この20年間で1人も失踪者を出していないという。その背景には、「家族への家庭訪問」があった。

 「日本に行くことは不安だったけど、社長が家まで来てくれて『心配ない』と言ってくれた。何より両親が安心しましたね」。1年半ほど前から働くタイ人の技能実習生、プワディン・ヌーダさん(28)はそう振り返る。

 実家は農業を営んでおり、日本の農業技術を学ぶために来日を決意した。タイで採用される時に、社長の沢浦彰治さん(56)から家庭訪問を受けたことが安心感につながったという。「タイで事業を立ち上げたい」という夢に向かって、日々の実習に励んでいる。

 同社は現地での採用活動を年2回行い、10年ほど前に家庭訪問を始めた。沢浦さんは「家庭訪問すれば家族も安心するし、どんな悩みがあるのかが分かる。実習生と密なコミュニケーションを取ることを何より大切にしている」と語る。

 かつて、こんなケースもあった。採用を検討しているタイ人の家族に会いに行った際、日本に来たことがあるかと尋ねると、親戚の一人が「観光ビザで入って、水商売をしていた」と明かした。不法滞在であり、結果的に、このタイ人の採用は見送った。

 「厳しいようだが、不法滞在することが当たり前と思っている家族や親戚がいる人物は受け入れられない」と沢浦さん。家庭訪問は、失踪者となるリスクを事前に察知する仕組みでもあるようだ。

 人手不足感が強まる農業分野では、実習生の存在感が高まっている。だからこそ、失踪を防ぐためにどうすべきか模索し続けているという。沢浦さんは「慣れない日本での生活には明確なルール作りが必要。厳しいところは厳しく、寄り添える部分はしっかり寄り添う必要がある。優秀な彼らが日本を支えているから」と話した。

◎「実習先選べるよう柔軟に」とベトナム出身の社長
 これまでに2000人以上のベトナム人留学生や技能実習生に関わり、人材派遣や支援を行っているDSinJapan(伊勢崎市)の山本雄次社長(37)に、外国人技能実習制度の現状や課題について聞いた。自身もベトナム出身で、国連に難民認定を受けて来日した経緯があることから、「国には外国人に寄り添った施策を進め、受け入れ企業側も実習生の立場を第一に考えてほしい」と主張する。

 「インドシナ難民」として家族と共にボートで来日したのが7歳の時だった。ベトナムを出る際、ボートは10隻あったが、10日後に到着したのは1隻のみ。父親の友人を頼り、家族4人で伊勢崎市内に住み始め、市内の小中学校に進学した。だが、外国人になじみの薄い子どもたちが多く、日本語も話せなかったことから学校や生活で苦労を重ねたという。「『外国人』とばかにされたりして同級生とはよくけんかしていた。ベトナム人であることが恥ずかしかった」。こうした経験がベトナム人支援の原点になっている。

 26歳で通訳の会社を立ち上げ、県内で不当な扱いを受けるベトナム人労働者を支援したり、ビザの更新手続きを手伝ったりするようになった。現在は、県内外の企業への人材派遣も手掛けている。「企業に求める基準は国籍に関係なく、人として大切にするかどうか。ベトナム人も日本人も同じ仕事をしているので、不平等な扱いを受けてはならない」と強調する。

 失踪が増える背景には、低賃金や残業代未払いなどの悪質な労働環境が一因にあり、その支援態勢も脆弱ぜいじゃくであるためとみている。「実習生は慣れない外国で不安の中、過ごしている。企業や監理団体が悩みに気付き、積極的に関わっていく必要がある」と指摘する。

 コロナ禍で仕事がなくなったり、実習期間が終わっても出国できず、母国に帰れなくなったりした実習生は多い。政府は解雇された実習生らの他業種への転職を特例として認めたが、「抜本的な解決策ではなく、先が見通せない状況が続いている」と話す。

 さらに、「在留資格という弱い立場で実習生を縛るから、違法な賃金で働かせるなどの問題が起こっている」と指摘。実習生がより自由に実習先を選べる環境づくりが大切だとして「もっと柔軟に制度を運用していってほしい」と訴えた。

◎受け入れ先の監督強化、罰則も設ける 17年施行の「適正化法」
 1993年に始まった技能実習制度。日本で培われた技能や技術、知識を実習生に伝えることにより、開発途上地域などの経済発展を担う「人づくり」に貢献、国際協力を推進するのが目的だ。基本理念に「技能実習は、労働力の需給の調整の手段として行われてはならない」と掲げている。

 違法な長時間労働などが続出する状況を受け、制度の基本理念を明文化するとともに、受け入れ先への監督を強化する「技能実習適正化法」が2017年11月に施行された。実習生に対する人権侵害には罰則が設けられた。

 また、制度の適正実施に向け、国は外国人技能実習機構(本部・東京都)を設立。監理団体や受け入れ先の事業所は実習計画を作成し、その計画が適正かどうかを機構が審査する。

 全国13カ所に事務所、支所があり、実習生からの相談も受け付ける。低賃金で働かされている場合などに別の事業者への仲介を行うほか、問題があるとの情報が寄せられた企業や団体に立ち入り調査する。

 法務省は昨年3月、制度の運用状況に関する調査結果を公表した。実習先から失踪し、17年1月~18年9月に入管難民法違反(不法残留)容疑などで摘発された実習生5218人と、企業など4280の実習先について調べたところ、最低賃金や契約賃金を下回っていた疑いのほか、時間外労働の際に労使で結ぶ必要がある「三六協定」の未締結または違反、人権侵害が疑われるケースも複数あることが分かった。

 関連調査で、12~17年に事故や病気などで死亡した実習生171人のうち、16.4%に当たる28人が実習中の事故で亡くなっていたことが判明。このほかの内訳は実習外の事故死31.0%、病死34.5%、自殺9.9%などだった。

◎《視点》公平に働けるよう制度見直しを
 「借金の返済や母国への仕送りのため、1カ月の生活費は2万~3万円。みんな安い食材を買って暮らしている」。技能実習生の多くはこう語る。困窮する実習生が国の機関や監理団体を頼れず、実習先から逃げ出す。そんな連鎖を断ち切らなければならない。

 新型コロナウイルス感染拡大が実習生の生活にも大きな影を落とす。家畜盗難事件に絡み、逮捕されたベトナム人の一部は「コロナ禍で仕事がなく、群馬のコミュニティーを頼った」と供述。高収入をうたう求人に会員制交流サイト(SNS)で応募し、違法行為に加わるケースもある。

 本来、国から認可を受けた監理団体が実習先の監理事業に責任を負う。だが「小さい団体では人手が足りず、実際に訪問しないところもある」と関係者。監理団体へのチェック機能を強化し、実習生の悩みに寄り添う態勢づくりが急務だ。例えばSNSを活用し、いつでも相談できる仕組みがあれば、実習生の安心感は高まるだろう。

 人材育成という制度の理想とはかけ離れた現実が、失踪を生む一因となっているのは明らか。安価な労働力としてではなく、一人の人間として公正に働くことができるよう制度を見直し、環境を整えることが不可欠だ。(報道部・稲村勇輝)

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