《女性参画の現在地》意識醸成 防災に多角的な視点 取り入れ
  • このエントリーをはてなブックマークに追加
高崎市消防隊の出初め式に参加した市女性防火クラブ=1月10日
群馬大がダイバーシティ推進センター設立を記念して開いたシンポジウム=昨年12月
 

 自然災害の発生頻度の高まりと激甚化が顕著となる中で、防災対策に男女共同参画の視点を取り入れる動きが加速している。災害の影響や必要な支援に男女で違いが生じることや、非常時に固定的な性別役割意識が強く反映されると懸念されるためだ。政府は昨年5月、災害時の避難所における女性への配慮事項を盛り込んだ自治体向けの防災指針を改定。平常時から男女が一緒に訓練や計画に取り組むことで、対応力の強化が期待されている。

■意思決定の場
 1月10日、群馬県高崎市内で開かれた新春恒例の市消防隊出初め式。新型コロナウイルス感染拡大の影響で規模を縮小したものの、消防隊員や消防団員らに続いて市女性防火クラブ(樋口啓子会長)の27人がそろって行進した。

 女性防火クラブは家庭での火災予防を目的に1962年以降、全国で発足。県内には地域ごとに91のクラブがあり、高崎市は40~80代の833人が活動する。住宅用火災警報器の設置啓発をはじめ救命講習や救助訓練への参加、自主防災組織への協力など近年の活動は多岐にわたる。

 樋口会長(67)は住んでいる地域の自主防災組織の副会長や市防災会議の委員も務める。「女性は災害時に気遣いができる。新型コロナで延期になっているが、避難所の開設訓練を実施して災害に備えたい」と語る。

 ただ、意思決定の場への参画には課題が残る。昨年4月現在、地域防災計画の見直しなどを審議する群馬県防災会議の委員48人(会長を含む)のうち女性は12.5%の6人で、全国29位だった。委員名簿を見ると、公的機関や外郭団体の長が充て職で就いているため、結果的に男性が大多数を占めている状況だ。

 全国的には女性委員の割合が4割を超える県も複数ある。委員の一人で、日本防災士会県支部副支部長の赤羽潤子さん(66)=高崎市=は群馬県男女共同参画推進委員会委員も兼務。「団体のトップだけではなく役員や現場のリーダーまで目を向ければ、女性を増やせるのではないか」と指摘する。

 自身は地域防災に加えて在宅介護や高齢者の見守り活動も続けている。「子育てや介護、看護を日常的に担っているのは女性であり、災害時の避難所運営ではその経験が生きる。女性がリーダーシップを取った避難所は快適な環境が維持され、復興が早いと言われている」と強調した。

■防災ノート作製
 政府が昨年5月に改定した防災指針は「平常時からの男女共同参画の推進が防災・復興の基盤となる」など七つの基本方針を定め、段階ごとに取り組むべき事項をまとめた。群馬県は今月、この改定指針などの内容を分かりやすく伝えるリーフレット「防災ノート」を作製した。

 地域防災のリーダーや避難所となる学校施設の関係者が活用しやすいよう、避難所運営のポイントや女性が利用しやすい避難所の配置図、赤ちゃん用品などの備蓄チェックシートを盛り込んだ。

 作製したぐんま男女共同参画センターは「日ごろの備えに役立て、防災分野への女性参画を増やすきっかけにしてほしい。ノートを使った出前講座なども開いていきたい」としている。

【教育分野の格差】群馬大 女性教員が2割に
 スイスのシンクタンクが2019年に発表した男女格差報告「ジェンダー・ギャップ指数」で、日本の教育分野は153カ国中91位と前年の65位から大きく後退した。中等教育、高等教育の就学率の格差が順位を押し下げた。背景には「女子は理系が苦手」「大学や大学院に進学する必要はない」といった固定的な考え方があるとみられ、理系の学部や大学院に対する敬遠が、高等教育に携わる女性の少なさを生み出してきた。

 高等教育と研究を担う機関として、男女共同参画を積極的に推進するのが群馬大だ。13年に学内で基本計画を策定し、女性教員の比率向上や女性研究者への支援、仕事と家庭を両立するための環境整備などに取り組んできた。昨年4月には男女共同参画推進室からダイバーシティ推進センターに改組し、体制を強化した。

 女性教員の増加に向け、各学部が女性比率25%以上を目標に採用計画を立てるほか、比率の低い理工学府は女性限定の公募を実施。12年に14.5%だった比率は昨年10月現在で21.8%まで上昇し、女性活躍推進法に基づいて策定した行動計画の目標(20%以上)をクリアした。

 さらに女性研究者への支援として共同研究の費用補助や、子育て・介護と両立するための研究活動支援者の配置などに取り組み、人材の定着や女子大学院生の増加につながっている。

 女性登用に注力する意義について、長安めぐみ副センター長は「男女共同参画の推進は国立大の使命。女性教員(研究者)を増やすことで、女子学生に将来のロールモデルを示せる」と語る。

 性差の問題を学問として学ぶ機会も設ける。同大は本年度、全学部の学生を対象にした教養教育の講義「ジェンダー論」を開講した。最終回の1月26日は、同大と共同教育学部を設置する宇都宮大の学生を含めて約160人がオンラインで聴講。社会学者の上野千鶴子さんが「男女共同参画は学問を変えるか?」と題して講演した映像を放映した後、上野さん自身が“サプライズ”で出演し、質問に応じる場面もあった。

 聴講した群馬大共同教育学部1年の松本陸さん(19)は「性別に関係なく同じスタートラインに立って、よりよい社会を目指すことが大事だと思った」と話した。

 松本さんは以前から性別役割分担などの問題に関心を持っており、「まだ日本の社会に問題意識が浸透しているとは言えないが、若い世代を中心に広がりつつある」と受け止める。

 ジェンダー論の担当教員の一人でもある長安副センター長は「5年ほど講義を持っているが、受講生は増加傾向にあり、特に男子学生の反応が良くなっている。性差や性の多様性について語りやすくなり、身近に感じられるのではないか」との認識を示した。

【群馬県が推進計画素案】目標達成向け人材育成事業
 群馬県が本年度中の策定を予定する第5次男女共同参画推進計画(2021~25年度)の素案には、政策に関わったり、方針を決めたりする過程への女性参画の拡大など10の基本目標が盛り込まれ、21の指標について計画終了までの目標値が掲げられた。

 主な指標の目標値は、群馬県の審議会などへの女性の参画率40.0%(基準年実績38.1%)、自治会長に占める女性の割合が4.0%以上(同0.9%)、社会全体における男女の地位の平等感が35.0%(同17.4%)など。特に政府が都道府県別で公表する指標について、どれだけ順位が上がるかが注目される。

 目標を達成するための具体的施策の一つとして、群馬県は新年度、人材育成事業を実施する。女子大学生が地域で活躍する女性たちの話を聴く連続講座や、女子高校生に理工系分野の魅力を伝える企業訪問などを予定している。

《視点》自分事として挑戦を 「うちのかあちゃん」後押しして
 「一般的な女性進出は大歓迎。でも、『うちのかあちゃん』や近所の女性となれば話は別。そんな土壌がある気がする」―。現職女性議員から寄せられたアンケートの回答で、鋭い指摘に目が止まった。

 群馬県が2019年度に行った県民意識調査の結果を見ると、その指摘が現実味を帯びる。地域活動のリーダーに関わる性別意識についての設問で、「適任者であれば、男女どちらでもよい」との回答が78.6%を占めたが、自治会長の女性割合は9年連続で全国最下位。適任者は自分の身の回りにはいない、と思い込んでいないだろうか。

 かく言う筆者も、取材してきたのは「すでに意思決定の場にいるか、その立場に意欲を持つ女性」が中心。自分や同僚、友人たちがどう社会に関わるかなど考えていなかった。まずは身近な女性に意識や行動を促し、応援することが共同参画の一歩になるだろう。

 米国の経営学者が提唱した理論では、少数派が全体の3割を超えると組織文化に変化をもたらすとされる。各分野の女性割合3割以上に向けて、女性には自分事として捉えてチャレンジしてほしい。そして、パートナーのいる男性には、ぜひ「うちのかあちゃん」を後押ししてあげてほしい。(報道部・江原昌子)

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
関連記事