《男性の育児休業》環境整備求められるも…「25年に30%」目標のハードル高く
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2カ月の育休を取得した伊田繊維の渋谷さん(左)と就業規則などを整備した伊田専務
 
 

 男性の育児休業取得が進まない。女性は8割台で推移するものの、2020年度の男性の取得率は全国で12.65%にとどまり、20年までに13%を目指した政府目標は達成できていない。上昇傾向にあるとはいえ、政府が掲げる「25年に30%」のハードルは極めて高く見える。6月に成立した改正育児・介護休業法は、男性の育休取得促進を主眼に置くが、変化はあるのか。子育て世代の声などに耳を傾けながら考えた。

◎「妻の大変さ」知ることができた

就業規則を見直し

 群馬県桐生市境野町の和装メーカー、伊田繊維(伊田茂社長)を訪れると、作務衣(さむえ)を着た社員が出迎えてくれた。国内製にこだわった自社製品で「制服」として着用している。作務衣は約100種類にも及び、ネット通販を含めて国内外に販路を持つ。

 もともとは羽織の裏地を作る家内工業的なメーカーだったが、和装の減少に伴い、徐々に作務衣に特化した。15年に本社を新築し、17年に工場も新設した。職場環境を大幅に改善しており、かつては60代超の従業員ら数人規模だった会社が、今は20代を中心に33人が働く。

 職場環境の改善とともに力を入れたのが、休暇制度の整備など就業規則の見直し。09年に入社した伊田将晴専務(37)が「生産を継続していくために若い社員を採用する必要があり、その際に規則や制度を曖昧にできない」と考え、自ら就業規則を勉強して整備し、社員に説明した。

 伊田専務からの制度説明が後押しとなって育児休業を取得したのが、渋谷歩さん(39)。育休自体の認識が薄かったという同社にとって、初の男性取得者だ。第2子の生まれた18年1月から2カ月間、育児に専念した。

 「1人目は親のサポートを受けられたけど、2人目は自分たちでやらないといけない状況だった」。作務衣と並ぶ主力商品の甚平姿の渋谷さんは、穏やかな雰囲気で当時を振り返った。

 第1子が生まれてからのことについては、「妻の深刻な状況に気付けなかった」と反省する。性格がきつくなり、言葉もとげとげするなどメンタル面の不調に陥り、体を動かすのもきつそうだったが、十分なサポートができなかった。産後の妻の状態に想像が及ばなかった。

効率的な仕事へ変化

 「少しの間でも負担を減らしたい。妻が調子が悪いと子どもにも悪影響がある。自分もつまらない」。第2子誕生に合わせ、有給休暇をフルで使うことを考えていたときに、伊田専務から育休制度について教えてもらい、さらに長く休むことができる育休取得を決めた。

 育休中は家事全般を担い、長女(第1子)の世話をして妻ができるだけ体を休められるようにした。「妻が大変だと思っていることを、知ることができた。『大変さの共感』ができた」と話す。子どもが6歳と3歳になった今も料理は渋谷さんの担当。昼休みに会社近くのスーパーに買い出しに行くこともある。

 育休取得で、時間に対する意識も変わった。育休に入る前に自分の仕事を洗い出し、引き継いだ。すると、同じ業務でも短時間で効率的に仕事をこなす社員もいた。こうした社員の働き方を見本にして、「時間をかけられるだけかける働き方」を改めた。かつて残業時間にやっていた仕事も、時間内に済ませられるようなった。

 伊田専務は「業務を整理することで、それぞれの業務の標準時間のめどが立った。標準時間でこなしても残業が必要ならば分担するように、ジョブローテーションができた」と話す。そして、「健康と生活があっての仕事」と強調した。

 それを傍らで聞いていた渋谷さんの言葉に、実感がこもる。「子育ては頑張れば頑張るほど極上の笑顔がもらえる」



◎ダメージ大きい産後 心身のサポート重要

 高崎市の産科婦人科舘出張佐藤病院の佐藤雄一院長(52)は「産後最初の1カ月間は体のダメージが大きく、弱っている時期」と解説する。女性のホルモンバランスも崩れ、授乳などで寝られないことに伴う肉体疲労も加わる。産後うつなどメンタル面の不調につながることもある。

 佐藤院長によると、医学的には35歳以上が高齢出産に当たり、「体が良くなるのにも時間がかかる。リスクが高いことを認識してほしい。赤ちゃんだけに専念できるよう、協力してくれる人がたくさんいればいるほどいい」とし、育児への夫の参画の重要性を強調。不安がちになる妻の話を聞き、「大丈夫だよ」と共感することも大切だという。

 新型コロナウイルス感染拡大を受け、同病院は入院時の夫の面会は控えているが、感染防止を徹底しながら立ち合い分娩(ぶんべん)は継続している。「命を生み出す大変さを見せている。子育てが大切なこと、子育てに参加する必要性を自覚するチャンス」と訴える。

 女性の産休中に新たに夫のみが取得できるようになる「出生時育児休業(男性版産休)」は、産後うつや慣れない子育てで心身の負担が大きくなっている時期に、夫が妻を集中的にサポートできるようにする制度で、佐藤院長も一定の評価をしている。

◎父親も休みやすく 改正育児・介護休業法

 今回の育児・介護休業法の改正は、父親が育児のために休みを取得しやすくすることを主な目的としている。夫婦が協力して家事や育児を担い、安心して子育てできる環境の整備を後押しし、少子化に歯止めをかける狙いがある。

 大きなポイントの一つが、「出生時育児休業(男性版産休)」の新設。子どもが生まれて8週間以内に夫が計4週分の休みを取れるようになり、特例措置で夫のみが利用できる。2回まで分けられ、申請期限は通常の育休だと1カ月前までだが、2週間前までとする。来年10月の施行が想定されている。

 子どもが生まれて8週間以内は妻の産休期間。出生時や退院時に加え、里帰り出産から戻るタイミングとも重なりそうで、休みを希望する人も多いとみられる。通常の育休と同様、給付金や社会保険料の免除により、最大で賃金の実質8割が保障される。

 企業には、子どもが生まれる労働者に対し、育休制度の個別の周知や取得の意向確認措置を義務付ける。従業員1000人超の大企業には、2023年4月から社員の育休取得状況の公表も義務化する。

 また、原則子どもが1歳になるまでに1回しか取れない通常の育休を、夫婦それぞれ2回まで分割取得できるようにする。男性の場合、「男性版産休」を使えば4回まで分けられる。

 本人が希望すれば、事前に調整した上で育休期間中に一定の仕事ができるようにもなる。


◎ 均等法成立から36年 
 法整備進むも「分業」根強く


 1972年施行の勤労婦人福祉法で、育児休業や母性健康管理の努力義務が定められた。当時の雇用環境をみると、女性を単純・補助的な業務に限定するなど男性と異なる取り扱いをする企業があった。

 75年の国際婦人年、79年の女子差別撤廃条約採択など、男女の機会均等達成に向けた国際的な動きが活発化。国内でも男女の地位について不平等感が高まった。職場における男女の均等な機会と待遇を確保する法的整理を行うため、男女雇用機会均等法が85年に成立、86年に施行された。

 女性の社会進出や家族形態の変化が続く中、仕事と家庭を両立できる働きやすい環境をつくるため、91年に成立したのが育児休業法(現在の育児・介護休業法)。少子化や労働力不足も法整備を促した。

 育休取得期間などはその後も拡充され、2009年の改正で配偶者が専業主婦(主夫)であれば、育休取得を不可とする制度が廃止されている。

 男女共同参画社会基本法(1999年施行)、女性活躍推進法(2016年施行)など法整備は進む。「男は仕事、女は家庭」という性別役割分業意識の根強さが、均等法以降の法整備の背景でもある。

 ジェンダー問題に詳しい共愛学園前橋国際大の前田由美子研究員は、男性の育休が進まないことなどについて、「均等法から36年。社会はどう変わったのでしょう。問題の根底に今も『性別役割分業』がある」と厳しく指摘している。

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