《コロナ現場発》自宅待機5日間 「命の危険」訴えやっと入院 保健所業務も逼迫 「限界近い」
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臨時記者会見で、緊急事態宣言の発令について県民に伝える山本知事(左)=8月17日夜、群馬県庁

 新型コロナウイルス感染急拡大で、陽性者の健康状態の聞き取りや入院・宿泊療養の調整などを担う保健所の業務が逼迫(ひっぱく)している。人員の不足感が強まっていることが背景にあり、新規陽性者や自宅に滞在する患者とのやりとりに苦慮したり、感染経路や濃厚接触者を調べる積極的疫学調査が遅れたりする影響が出ている。増員など群馬県が負担軽減策を講じているものの、現場からは「日々ぎりぎりでやっている。限界に近い」との声が上がっている。(稲村勇輝)

 「熱やせきはありますか」「症状が出たのはいつ頃からですか」―。高崎市保健所では8月以降、電話が鳴り続け、保健師らが夜遅くまで対応する状態が続いているという。医療機関からの発生届を受けて陽性者に電話をかけ、症状を聞き取り、入院や宿泊療養などの手配をする最前線の現場の一つだ。

夜遅くまで電話

 中でも負担感が増しているのが、疫学調査だ。同保健所の担当者は「まん延防止のためには行動歴を聞き、濃厚接触者を割り出すことが必要だが、陽性者1人につき濃厚接触者が8、9人に上ることもあり、大変な状態が続いている」と明かす。

 前橋市保健所でも同様の状況が続く。8月以降に人員を増やして対応してきたが、市内で判明した陽性者は8月が774人。昨年3月から1年間の計709人を大きく上回っている。担当者は「患者の健康観察など全ての業務にマンパワーが足りていない。ホテル(宿泊療養施設)待機中に症状の悪化を不安に思う患者は少なくなく、苦情を言われることも…。できるだけ早く対応したいが、ここ数日は入所に2、3日程度かかっている」とする。

 最近では、陽性者数の高止まりが続く東毛地域の保健所で特に逼迫の度合いが増している。ある保健所の幹部は「電話連絡は夜遅くまでかかり、宿泊療養などの入所調整や疫学調査など一連のやりとりにも時間がかかっている」とする。

健康観察に新組織

 県全体の陽性者は5日連続で300人を超えた8月18~22日に比べ、ここ数日は100人台で推移しているものの、コロナとの闘いは長期化し、職員の疲弊感は増している。

 保健所に集中する業務の負担軽減が急務となる中、県は「健康観察センター」を新たに開設し、同月下旬から運用。自宅療養者の健康観察をはじめ、これまで保健所の業務だった「自宅待機」患者への健康観察を、前橋、高崎を除く県管轄の10の保健所と分担して行っている。近く、両市の保健所も加わる見込みだ。

 山本一太知事は2日の定例会見で「保健所はぎりぎりの状況だが、本当に頑張っていただいており、県全体で支えるような体制をつくっている。人的なサポートを含め、必要な対応をしていきたい」と述べた。

◎患者の立場に立った施策考えて

 「命の危険を感じる。すぐに対応してほしい」。新型コロナウイルス感染症の専用病床に入院できたのは、そう訴えたことがきっかけだった。陽性が判明した県内在住の40代男性は、入院か宿泊療養施設への入所を望みながらも5日間、自宅待機状態だった。容体が悪化し、入院。医師からは「両肺の肺炎」と告げられたという。

 男性は8月中旬に抗原検査で陽性判定を受けた。せきと高熱が続き、医療施設への入所を望んだが、調整に時間がかかったとみられ自宅待機になった。パルスオキシメーター(血中酸素濃度の測定機器)を使って体調管理をしていたが、保健所からは体調について聞かれるだけで「自宅放置」の状態だったと指摘する。

 陽性判明から6日目の朝。高熱と息苦しさがさらに増し、保健所に連絡。パルスオキシメーターの数値も90台前半に落ちていた。「ホテルか入院の判断を2日後に行う」と言われ、居ても立ってもいられず「それでは命の危険を感じる。今すぐに対応してほしい」と伝えた。

 保健所はその日のうちに病院を手配してくれた。入院先で中等症と診断され、医師からは「あと1日遅かったら抗ウイルス薬(レムデシベル)の治療ができなかった」と言われた。投与を受け、入院から3日後に症状は安定し8月下旬に退院した。

 男性は電話取材に、「本当に苦しかった。死を意識するほど怖い病気だった」と振り返った。「自宅に滞在する患者への電話対応だけでは、状況は十分に分からないだろう。大げさでなく、在宅死が出るのも、群馬でも時間の問題だ」とし、逼迫(ひっぱく)する保健所業務の負担軽減をはじめ、「野戦病院」の設置、病床数確保が不可欠と訴える。

 あと一歩遅かったら―。男性は今も、恐怖に震えるという。「治療の本質は重症化したら対応するのではなく、症状を悪化させないための未然の対策が必要だと感じた。県にはもう一度、患者の立場に立った施策を考えてほしい」

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