《闘論》タトゥーある人の温泉入浴 インバウンド拡大/もてなしは他優先
  • このエントリーをはてなブックマークに追加
(左から)慎重派の塚越屋七兵衛会長・塚越裕子さん、解禁派のロケットニュース24編集長・GO羽鳥さん

 外国人旅行者が急増する中、全国の温泉地でタトゥー(入れ墨)のある人の入浴を巡る問題が浮上している。2020年東京五輪・パラリンピックを控えて訪日客のさらなる増加が見込まれ、国内でもファッションとしてタトゥーを入れる若い世代が増えている。草津や伊香保といった温泉地を抱える群馬県でも、対応を迫られるケースが出てきそうだ。

 県内外の温泉旅館の大浴場や温泉施設の多くは、以前からタトゥーのある人の入浴自粛を呼び掛ける掲示をしている。13年に北海道の温泉施設で、マオリの伝統的な入れ墨があるニュージーランド人女性が入浴を拒否された問題から是非の議論が高まった。

 星野リゾート(長野県)は15年から、運営する全国の温泉施設でシールで隠せる大きさのタトゥーを受け入れた。観光庁は16年に全国の温泉施設に対して対応の改善を促す文書を発行したが、本県ではこれまでのところ、対応を表明した温泉施設はない。

 伊香保温泉の老舗旅館、塚越屋七兵衛を経営する塚越屋の塚越裕子会長(73)は「外国人旅行者のもてなしでは、日本食を楽しんで文化を理解してもらうことなど、タトゥーへの対応より優先順位が高い課題が数多くある」と慎重な姿勢を示す。

 タトゥーを受け入れている全国の温泉施設の入浴体験ルポを連載しているニュースサイト「ロケットニュース24」のGO羽鳥編集長(38)は「タトゥーを受け入れてくれる施設に統一的なサインを掲げるなどすればインバウンドの拡大につながる」と業界ぐるみの取り組みを期待する。

《慎重》県内 対応の機運ない…塚越屋七兵衛会長・塚越 裕子さん

―温泉旅館はタトゥーがある人の入浴にどう対応しているのか。
 私たちの旅館の大浴場入り口には「刺青いれずみ・タトゥーのある方」「ご入浴はご遠慮下さい」と掲示している。県内のほとんどの温泉旅館やホテルも同様な掲示をしていると思う。ゴルフ場の入浴施設などと同様に暴力団排除が出発点だった。

―タトゥーをめぐる問題などが起こったことは。
 宿泊客にタトゥーがあるかどうかは、フロントで確認しようがない。過去には「大浴場に入れ墨のある人が入っていた」と、他の宿泊客からのクレームもあった。最近では、タトゥーのある人には客室風呂や貸し切り風呂を利用してもらうという旅館業界の方向性が宿泊客に浸透してきている。県内各地の温泉地にいる群馬女将の会メンバーに聞いてみても、目立った問題は起きていないという。

―2020年の東京五輪を控えて、増え続けている外国人旅行客への対応は。
 伊香保を含めて県内に来ているのは、タトゥーが多いとされる欧米人よりも、台湾などの東アジアや東南アジアからの旅行客が中心だ。特別な対応を迫られる状況にはない。最近の外国人旅行客は日本の旅行事情を勉強している人が多いようで、タトゥーのある人は大浴場に入らないよう配慮してくれているらしい。団体ツアーで来る外国人については、仲介する旅行エージェントが事前に周知して対応してくれている。

―観光庁が外国人旅行者を念頭に対応緩和を促し、星野リゾートも対応を表明した。県内の宿泊業や温泉地で何らかのルールを決めて対応することは考えられるか。
 県内の温泉地や旅館では、そのような機運は起きていない。外国人のもてなしの面では、日本の温泉宿の宿泊習慣を理解してもらったり、各国の文化的背景に配慮した食事を準備したりするほうが、タトゥーへの対応より優先順位が高いと思う。

―今後、対応の変化はあるだろうか。
 かつて主流だった団体客が減少したことで、県内の温泉旅館は経営の見直しを迫られている。最近の若い人はファッション感覚でタトゥーを入れる意識に変わってきたという。旅館経営も時代に合わせた意識改革が必要になるのかもしれない。いずれにしろタトゥーへの対応は個々の旅館やホテルの経営判断になる。

 つかごし・ひろこ 1944年生まれ。YMCA国際ホテル学校卒。群馬女将の会会長。66年に家業のホテル伊香保ガーデン入社。2015~16年に県公安委員長。渋川市

◎《解禁》施設にOKサインを…ロケットニュース24編集長・GO羽鳥さん

―ネットニュースで、タトゥーがある人が入れる温泉施設を紹介する連載「タトゥー温泉」を始めたきっかけは。
 20代で肩にワンポイントのタトゥーを入れた。温泉好きなのでタオルやスポーツ用テーピングなどで隠して入浴していたが落ち着かなかった。連載の第1回で取り上げた静岡県御殿場市の温泉施設に「タトゥーOK」であることを確認した上で入浴したら、とてもリラックスできた。タトゥーがある人がくつろげる温泉情報を自分で確認した上で発信したいと思った。

 2016年に連載を始め、全国10カ所を取り上げた。読者の反響としては、タトゥーがある人から「助かった」という声をもらった。読者や温泉従業員からの情報提供もあった。草津や伊香保など群馬県内の温泉でも取材したい場所がたくさんある。

―群馬県内では、タトゥーの受け入れをはっきりと表明している温泉施設はまだない。全国ではどうなのか。
 千葉県成田市の温泉施設が、ホームページに理由を明記した上で入浴を受け入れている。兵庫県の有馬温泉の日帰り温泉は「タトゥーOK」で知られていて外国人客が多かった。受け入れている施設の多くは、はっきりした経営理念が背景にあると感じた。

―施設ごとに温度差があるのか。
 一般の銭湯は基本的に入浴を受け入れてくれる一方で、ファミリー層の客が多いスーパー銭湯は入浴を断られる場合が高い。温泉地の対応はさまざまだ。

―星野リゾートが、シールで隠せる大きさのタトゥーがある人の入浴を受け入れると表明した。
 声を上げてくれたことは大英断で、状況が変わるきっかけになることを期待したい。ただシールの大きさが8センチ×10センチでは多くの人のタトゥーが収まりきらないのではないか。

―温泉施設や旅館に望むことは。
 この問題の根本には暴力団排除があると思うが、最近は普通の人がファッションとしてタトゥーを入れている。怖がったり嫌ったりする人の気持ちや、拒みたい施設側の事情も理解できる。その上で受け入れる施設の入り口には、小さくていいので統一的なサインを掲げるなどできないだろうか。海外からの旅行者が増え続けているので、「タトゥーOK」を効果的にPRすればビジネスチャンスにもつながるはずだ。

 ごー・はとり 1979年生まれ。高校卒業後に漫画家デビュー。2014年からインターネット・ニュースサイト「ロケットニュース24」編集長。東京都

 《タトゥーのある人の温泉入浴》 2015年に観光庁が全国のホテル、旅館を対象に行った調査では、タトゥーのある人の入浴を「断っている」施設が56%、「断っていない」施設が31%、「シールで隠すなど条件付きで許可している」施設が13%。断る理由は「風紀、衛生面から自主的に判断」が59%、「業界、地元業者の申し合わせ」が13%、「警察、自治体などの要請、指導」が9%だった。

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
関連記事