《ニュース最前線》変わる自然災害と防災意識 備える心 持続課題

 

変わる自然災害と防災意識 安全神話 リスク直面


 今年は地震や豪雨による自然災害が全国で相次いで発生している。死者200人以上を出した西日本豪雨では、避難にかかわる情報の共有・伝達の在り方がクローズアップされた。大阪府北部地震では学校のブロック塀が倒壊して女児が犠牲となる痛ましい事故が起き、身近に潜む被災リスクを突き付けた。群馬県でも6月に県南部を震源とする震度5弱の強い揺れに襲われたほか、平年を上回るペースで発生する台風の接近に伴う局地的な大雨など、自然災害の恐ろしさを実感する機会は増えている。本県は自然災害が少ないという「安全神話」が根強くあるとされるが、ゲリラ的に発生する気象災害のリスクが指摘され、首都直下型地震による被災も予想されている。高まりつつある防災・減災への県民の意識をどう持続させるか取材した。

 何が起きても…

 8月9日未明に強い勢力を保ったまま関東地方に接近した台風13号。8日午後、前橋市が市役所3階に開設した自主避難所に、1人暮らしのお年寄り2人が身を寄せた。「最近の異常気象は想定外。身近で何が起きてもおかしくない」。女性(80)は台風情報が流れるテレビ画面を食い入るように見つめた。もう1人の女性(71)も「過去に大雨で近所の川の濁流がすごかったので…」と、不安を抱えながら一夜を過ごした。

 台風13号の接近に伴い、同市内に設置された自主避難所は計11カ所。避難の指示や勧告に基づく指定避難所と異なり、自主避難所は住民が自己判断で利用するものだ。台風13号は本県を直撃せず、足を運んだのはわずか5人。しかし、市危機管理室の川田信也室長(59)は「自分で状況を見極め、行動する姿勢は大切」と自ら身を守る自助意識の大切さを訴える。

 内閣府は2014年、全国の市町村に向け、結果として災害が発生しない「空振り」を恐れずに避難勧告や指示を出す指針を出した。近年は会員制交流サイト(SNS)が普及し、自治体はホームページ(HP)やエリアメール、SNSも駆使した多角的な情報発信を強化している。前橋市は気象庁OBの気象予報士を嘱託で雇用し、的確な分析と情報提供に努める。

 一方で、一部の住民から「大げさだ」「避難情報は不要では」といった“冷ややかな”声があるのも実情。川田室長は「的確に注意喚起できるような言葉の選び方も試行錯誤していきたい」と、より伝わる発信方法を模索している。
 個人レベルで非常時に備える動きは広がりを見せる。

1カ月で150部
 「私のまちのハザードマップをください」。岡山県などで起きた甚大な豪雨被害以降、県内市町村の防災担当部署に地元の住民や企業から、こうした問い合わせが後を絶たないという。館林市安全安心課は「約1カ月間で少なくとも150部は渡した」(担当者)。
 ハザードマップは水害や土砂災害、地震などによる被害軽減や防災対策を目指し、被災想定区域や避難の場所・経路を表示した地図だ。主に自治体が地元の地形などを踏まえて作り、公開している。西日本豪雨の深刻な浸水や土砂災害を受けた被災地で、ハザードマップで示された災害想定区域がほぼ予想通りだったと伝えられた影響とみられる。
 「人が死なない防災の実現」を掲げ、県内を含む20都市以上のハザードマップを手掛ける「アイ・ディー・エー社会技術研究所」(桐生市)の小芝弘道所長(45)は「ハザードマップは危険度を『見える化』し、災害から命を守るためのツール」と説明。その上で「行政が配ったり、市民が見たりするので終わらせず、避難行動のため有効に活用してほしい」と強調する。

増える防災士

 ハザードマップをはじめ、全国で未曾有の自然災害が起こると各種防災分野への注目が高まる。今月、前橋市の利根川ダム資料室で行われた地震や豪雨などを疑似体験する催しには、前年の約1・5倍となる140人が参加した。例年以上の反響に、主催した国土交通省関東地方整備局利根川ダム統合管理事務所は「家族で身を守る意識の高まりを感じた」と話す。防災に関する知識・技能を認証する民間資格「防災士」の県内保有者は1312人(7月末時点)。県が主催する養成講座の後押しもあり10年間で約5倍に伸び、地域防災の中核を担うリーダーが育ちつつある。

身近に触れる
 芽生え始めた防災意識や人材を一過性にせず、持続させていけるのか。関東学院大の防災・減災・復興学研究所の若松加寿江研究員は「地域の夏祭りやサークル活動の中で、身近に防災に触れる仕組みが必要」と指摘。加えて、「関心を持った住民が必要な情報を見やすく利活用しやすいように、行政もHPでの公開の仕方などを見直す余地はある」と提言する。

「自主防」結成 地域共助の要


 被災後の安否確認や避難所運営は、地域で協力する共助が欠かせない。地域防災の要となる自主防災組織(自主防)について、県は組織率を2015年度の81%から19年度中に92%とする目標を掲げる。

 自主防は町内会や自治会単位などで組織し、備蓄品の用意や防災計画づくり、訓練に取り組む。本県の組織率は17年度、全国平均を3・0ポイント上回る85・7%まで上昇したが、「若者や外国人、転出入者の多い地域は動きが鈍い」(県危機管理室)という。

 「地元で災害が起きないという感覚が強い」と自主防を持たない前橋市富田町自治会の有間恒雄自治会長(72)は明かす。今月、市の「避難所配置図整備事業」に参加し、指定避難所の前橋荒子小で行政、学校の責任者、他の5自治会長と協議。被災時に避難所になる教室や体育館、備蓄倉庫を見て回った。有間会長は「平時から避難所がいかに使われるのか、地域と学校で情報を共有しなければ」と話し、自主防結成に意欲を示した。

 一方で、ある自治体の防災担当者は「結成しただけで名ばかりの自主防もある。定期的な活動を後押ししたい」と話した。

 《記者の視点》
 
正しく恐れ 減災を


「犠牲者を無駄にしないためにも、防災対策を見直す契機にしなければならない」。県内のある自治体の防災担当者が取材中、神妙に話していたことに深く共感した。

 災害の規模や起きた環境によっては、事前の備えも万全ではないかもしれない。平時に「万が一」を考えてばかりいても精神的に持たないだろう。しかし、その一瞬が人命や穏やかな日常を奪うのも事実だ。各地で多発する集中豪雨や巨大地震による被害が、それを証明している。

 自然災害が少ない土地だと胸を張るよりも、災害を正しく恐れ、必要な防災・減災対策を実践することの方が賢明ではないだろうか。一人一人が機会を見つけて、確かな防災・減災力を身に付ける。そんな県民がもっと増えれば、群馬は真の「安全神話」を誇ることができる、災害に強い地域になるはずだ。

関連記事
県内ニュース > 社会・話題の記事