救命の翼 喪失感深く 防災ヘリ「はるな」墜落から10日で1カ月
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県総合防災訓練で黙とうし、犠牲者の冥福を祈る参加者=1日、藤岡市
県総合防災訓練の会場に設けられた献花台で9人の遺影に手を合わせる人たち=1日、藤岡市
 

 群馬県防災ヘリコプター「はるな」が中之条町の山中に墜落し、防災航空隊員ら9人が死亡した事故から10日で1カ月を迎える。経験豊かな隊員らの尊い命に加えて、群馬の山岳救助の要が失われた影響は計り知れない。事故後、県が国に実際とは異なる飛行計画を提出していたことなども発覚、運航委託先の東邦航空(東京)のずさんな運航管理が常態化していた可能性も指摘されている。

 事故を受けて、大沢正明知事はこれまでの安全管理体制の検証などを担う新組織「防災航空体制検証・再建室」を設置する方針を表明。10日付で立ち上げ、防災ヘリのマニュアル見直しや、年度内の入札が予定される後継機の導入を進める。山岳救助体制の再構築と、再発防止策の確立が急がれる。

 事故原因の究明も始まっている。国の運輸安全委員会や県警は隊員らが機内に持ち込んだカメラの映像を分析、事故直前の様子などを詳しく調べている。ただ、墜落したヘリにはフライトレコーダー(飛行記録装置)は搭載されておらず、情報は限られる。原因究明には時間がかかりそうだ。

◎再発防止へ対策急務 安全確立へ新組織

 県防災ヘリコプター「はるな」の墜落事故から1カ月。「はるな」はこれまで山岳救助の中核として運用してきたほか、県ドクターヘリを補完する役割も担っていただけに、関係者が抱く喪失感は大きい。県は、亡くなった搭乗者9人の遺族の支援に力を入れるとともに、新たな組織を設置して安全管理体制の検証と今後の在り方を検討していく方針だ。

 県防災ヘリの2017年度の緊急運航は190件で、このうち3割近い54件が県内山岳地帯における救助活動だった。事故後、緊急運航の必要時は相互応援協定を結ぶ近隣7県にヘリの出動を要請することになり、8月末までに山岳救助で4件(埼玉1件、栃木3件)の対応を依頼した。

 傷病者の搬送など「ドクターヘリ的運用」は17年度は20件で、全体の1割となっていた。ドクヘリが出動中などの際に「はるな」が代行してきたが、同様の活動を他県のヘリに担ってもらうのは困難だ。ドクヘリを運航する前橋赤十字病院の担当者は「今後は工夫してやりくりしていかなければならない」と話す。

 墜落事故を巡っては、防災ヘリ運航委託先の東邦航空(東京)の社員が実際とは違う飛行計画を国に提出していたことが判明し、県が国土交通省から行政指導を受ける事態に発展した。安全管理体制への検証が喫緊の課題となる中、大沢正明知事は7日、自民党県連から申し入れのあった9月補正予算案や防災ヘリ関連の要望に回答する場で、県消防保安課内に「防災航空体制検証・再建室」を設置する意向を示した。

 新たな組織の設置について、大沢知事は上毛新聞の取材に「防災航空隊の再建とともに(今後の人員配置などによって)県内全ての防災体制に不備が出ないよう、しっかりと取り組む必要がある」と述べた。

 検証や今後の在り方の検討で、県は外部有識者を含む委員会の設置も計画している。後継機による運航再開は早くても21年5月となる見通しで、機体には安全運航を支援する装置の導入も検討する。

 遺族対応のため、関係部署による組織を事故1週間後に立ち上げた。信頼関係を築きながら心のケアや補償など総合的なサポートに努める方針で、県は「遺族からの要望に対し、丁寧に対応していきたい」と説明している。

◎原因究明が難航 全容解明に1年以上か

 県防災航空隊員ら9人が犠牲になった県防災ヘリコプター「はるな」の墜落事故。国の運輸安全委員会や県警は機体の損壊状況の調査をはじめ、関係者からの聞き取り、隊員らが持っていたビデオカメラの映像などの分析を進め、事故原因の究明を急ぐ。ただ、全容の解明には時間がかかりそうだ。

 運輸安全委員会が回収したカメラは3台。いずれも映像や音声が確認できる状態という。事故直前の運航状況などを把握する有力な手掛かりになるとみられている。このほか、機体の位置情報を把握できる「動態管理システム」関連の端末や運航・整備に関する書類なども入手。今後は事故当時の気象データの収集や損壊した機体の詳細な調査などを行い、事故原因の究明を急ぐ方針だ。

 ただ、昨年3月に長野県の防災ヘリが墜落し、搭乗者9人が全員死亡した事故は現在も調査が継続中だ。今回も搭乗者が全員死亡している上、山中のため目撃情報なども限られるため、事故の調査結果が明らかになるのは早くとも1年以上先になるとの見方もある。

◎6人殉職の地元消防 若手育成に力

 6人が殉職した吾妻広域消防本部は体制の再構築を急いでいる。これまでに高崎市の「たかさき消防共同指令センター」に派遣していた40代の職員3人を戻したのをはじめ、20日に県消防学校を卒業する新人隊員3人が加わる。小池信行消防長は「支障がないとはいえないが、人員面の体制を整えることができた。今後は若手隊員への技術指導をしていくことが課題」としている。

 殉職職員の関係者は依然として深い悲しみの中にある。今月上旬に中之条町の伊勢町祇園祭で若頭を務めた緒方康志さん(50)は友人の故・塩原英俊さん(42)を偲び、「祭りが(気持ちの)節目になるかと思っていたが、今も亡くなったことを受け入れられない」と声を振り絞る。昨年までの祭りでは塩原さんも運営に参加していた。今年は「天国にまで祭りばやしを響かせよう」を合言葉に祭りの準備を進め、例年以上の見物客を集めたという。

 スキー選手としても活躍した草津町出身の故・岡朗大さん(38)と旧知の町内スキーヤーも、友人の死を受け入れられないでいる。草津スキースクールの湯田寿幸校長は「ゲレンデで滑っていたのをいつも見かけた。ジュニアチームの指導もしており、町にとってかけがえのない存在だった」と肩を落とした。

◎追悼式の日程白紙 一部遺族反発県が再調整

 県防災ヘリコプター墜落事故で、県が10月12日に前橋市内で執り行う方向で調整していた合同追悼式について、日程の示し方などに一部遺族から反発を受け、計画を白紙に戻したことが8日、関係者への取材で分かった。県によると、候補となる日付や会場を記した文書を遺族側に提示したが、事前の相談が不十分だなどとして遺族の一部が難色を示した。平日の設定だったため休日開催を求める意見もあり、会場も含めて再調整することを決めた。

 遺族の男性は、県から一方的に日程を示されたと受け止めており、「遺族の意見を聞いて決めるのが当然で、開催する時期も遅い」と不満を口にした。

 遺族対応を担当している県幹部は「目安として示したが、意図を正しく伝えられず申し訳ない。ご遺族の意向を優先して(追悼式の日程調整などを)進めていきたい」と話した。

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