第9回 TOMIOKA世界遺産会議

■期日/
2017年11月18日(土)
■会場/
富岡製糸場東置繭所(富岡市富岡1-1)

世界遺産のバッファゾーン(緩衝地帯)は、登録資産の景観や環境を保護するだけでなく、世界遺産のまちの魅力を左右する重要なエリアでもある。「第9回TOMIOKA世界遺産会議」(上毛新聞社主催、群馬大、富岡市共催)では、富岡製糸場のバッファゾーンにおける「リノベーションまちづくり」と「自動運転」をテーマに今後のまちのあり方を考えた。

清水さんは、富岡製糸場と周りの路地街などをワンセットでとらえ、公民が連携して富岡のまちを変えることを提案した。小木津さんは「富岡モデル」を例に観光地の価値を引き出す自動運転の可能性を示した。

リノベーションまちづくり ―地域の宝を磨き、地域を再生する― 都市・地域再生プロテューサー アフタヌーンソサエティ代表取締役
一般社団法人公民連携事業機構代表理事 3331アーツ千代田代表
清水 義次さん

「公民合築」で製糸場の機能拡充

製糸場とまちと駅までを少なくともつなぐまちづくりが、富岡には必要ではないか。銀座通りや三町通りで小さいリノベーションまちづくりを集積させることは大切たが、ストリートを公園道路化し、低速の完全自動運転車と人間を共存させるような大きいリノベーションまちづくりも必要だ。

また、富岡製糸場が公共施設としてのみ存在しているのはもったいない。世界遺産の建物群は尊重すべきたが、まだ使えるものがあったら、ここに民間施設で製糸場の機能をさらに補完して公共施設の機能をもっと充実させるものを造らせてもらえるかどうか、相談してみるべきだ。その際は、明治期の最初の姿が元だと思うので、それに近づけるかたちでの民間施股の増築はやっても構わないと私は思う。

「公民合築」。公共施設と民間施設を合わせることで公共施設の機能、あるいは公共サービスの機能をさらに高める工夫か必要。産業遺跡であるから、未来の産業をつくりだす民間施設があったら、ここの歴史的価値が浮かび上がるのではないか。

おいしいコーヒー屋さんもほしい。おいしいコーヒーの香りとおいしいワインの香りかこの敷地から漂ってきたら、この施設の建物もおいしい匂いを吸って喜ぶだろう(笑) 。ここにいたフランス人ならそう思うだろう。

そして、バッファゾーンエリアで小さいリノベーションの動きを起こすこと。通りも活用する。その結果、駅から富岡製糸場までの全体エリアが、ものすごくいいまちに変わっていくことが大事。それが新しい富岡の中心であるなら、その中心を周囲の富岡のまちとどうつなげるかが一番大事なこと。

富岡製糸場を中心にした大きいリノベーションまちづくりと、バッファゾーンの素敵な通りのあるまちなみをつなぎ合わせた小さいリノベーションまちづくりを重ねて、公と民が一緒に富岡のまちを変えてほしい。

経済合理性と独自なブロセスに価値

その際、経済合理性という概念だけは崩さないこと。民間が自立する力、経済合理性に基づき富岡独自に動く、動かしていくプロセスの構築。そこに価値かある。まねをするたけでは富岡オリジナルは生み出せない。課題と向き合いながら、富岡独自のプロセスでやってみたらどうか。

その際のテーマは、富岡製糸場か近代の時代をつくった産業遺跡だったということは非常に重要。まちづくりを通して、近未来の新しい産業と質の高い雇用をつくり出す。産業をつくり出し、まちを活性化することで自主財源の柱を太らせていくことを目指すべき。

新しい産業の可能性はいくつもある。小木津先生の完全自動運転の技術、これも大きな産業になりうる。また、富岡にこれだけ人が訪れながら、宿泊する施設が育っていない。これはもったいないを超えて、もったいなさ過ぎ。新しいツーリズム産業。富岡だけでなく、富岡周辺も資源が豊富な地域なので、それらをつないで広域圏でツーリズム産業をどうつくれるか。豊富な地域資源をもとにバイオマスの産業群をつくることもできる。それらが質の高い雇用をもたらす可能性がある。

今日の結論。「世界遺産があるまち」から「世界遺産もあるまち」へ。皆さん、今あるものを使って「世界遺産もあるまち」にしてほしい。

本質を受け入れいいものつくる

群馬県の地方公共団体の建物で「オープンコンペ」を行ったことがある。多くの人が自由に参加して地域にふさわしい、いいものをつくりたいと公衆トイレから美術館に至るまで八つか七つ手掛けた。

実績のない人も外国人もコンペに参加して新しい才能が生まれた。国内外から敷地を見に来たり、オープン審査を聞きに来たりと、町や村に多くの人が訪れた。公共の建物はみんなのものであるから、構想から完成まで一緒に考えることが重要だ。オープンコンペは、いいものをつくりたいと考えていた人たちが構想から参加するきっかけになった。私にとっても非常に有意義な機会だった。

富岡製糸場は来日した外国人が設計してつくられた官営の工場だ。有名な建築なのでよく知っていたが、今日初めて訪問した。大変良い状態で保存されていて驚いた。建物は人間と一緒でケアをしていかないとならず、費用もかかり技術的にも難しいのだが、しっかりと修理が進んでいた。

幕末から新しい建築の技術が日本に入ってきたが、どうやって受け入れられて広がっていったのだろうか。簡単に言うと、「洋風」は日本の大工たちが見たり聞いたり、絵で見たりしながら作っていったものだ。大工技術は江戸時代中期から後期にかけて最も発達していき、浸透していった。例えば、最も古い優れた建築といわれる法隆寺の建築技術は、本質的なところは変えずにだんだん広く浸透していき、民家やまちをつくる技術になった。かつての日本の農村や町並みは世界でも有数の美しさといわれるのは、法隆寺の大工クラスの技術が民家をつくる人たちにまで浸透していたからだ。

富岡製糸場は模範工場として知られているが、地域に出向いて養蚕の技術を指導した高山社のように、ここで育った技術者が地方に広めていった。文献から全国に八つの製糸場が造られたことが分かっている。残っていた図面などを分析していくと、基本的にはできるだけ富岡と同じような条件の場所を選んで造られた。水や燃料が必要であるとか、明るさのために建物を南向きにしたなど、よく学んでいる。異なる条件の中でも富岡にならい、その本質的なことを受け入れてその地方に合ったものを造った。

しみず・よしつぐ

1949年山梨県生まれ。東京大学工学部都市工学科卒業。1992年株式会社アフタヌーンソサエティ設立。都市生活者の潜在意識の変化に根ざした都市・地域再生プロデュースを行っている。主なプロジェクトとして、東京都干代田区神田RENプロジェクト、CET(セントラルイースト東京)、旧千代田区立練成中学校をアートセンターに変えた3331アーツ千代田、旧四谷第五小学校を民間企業の東京本社に変えた新宿歌舞伎町喜兵衛プロジェクトなどがある。北九州市小倉家守プロジェクト、岩手県紫波町オガールプロジェクトなど各都市で、民間のみならず公共の遊休不動産を活用しエリア価値を向上させるリノベーンョンまちづくり事業をプロテュースしている。

リノベーションまちづくり 地域課題を複合的に解決

このリノベーションの考え方を、地域づくり・まちづくりに当てはめたのがリノベーションまちづくりです。(富岡市ホームページより)
公民連携で遊休不動産活用に取り組んだオガールプロジェクト。オガール広場の芝生でくつろぐ地元の小学生。紫波町は人口3万3千人の農業の町

空き家、空き店舗、空き地など遊休化した不動産という空間資源と潜在的な地域資源を活用、都市や地域の経営課題を複合的に解決していくまちづくり手法。清水さんが提唱し、各地で実践してきた。清水さんは講演で「北九州市小倉家守プロジェクト」と「岩手県紫波町オガールプロジェクト」を紹介した。

小倉では、不動産オーナーと市民事業者らの連携により小さなエリアに数多くのリノベーションプロシェクトが集積、衰退していた小倉駅周辺のにぎわいが復活した。紫波町は、遊休化した町有地を民問主導の公民連携で開発、情報館・図書館や民問テナン卜棟の公民合築施設などを整備して年間94万人を集めるまちの中心を完成させた。


富岡市では昨年度からリノベーションまちづくりに取り組んでいる。今年1月に開かれたリノベーションスクールで聞き取り調査する受講生(とみおかリノベーションまちづくりフェイスブックより)

清水さんは前者を「小さなリノベーションまちづくり」 、後者を「大きなリノベーションまちづくり」と呼んでいる。富岡では大小二つのリノベーションを複合して富岡独自のまちづくりを進めることを提案した。

自動車の自動運転への取り組み ―観光地の魅力を引き出す次世代モビリティ― 群馬大次世代モビリティ社会実装研究センター副センター長 小木津 武樹さん

自動運転と相性良い「低速」「電動」

なぜ観光地で自動運転かというと、観光地を訪ねる人は、まずその場所の雰囲気を感じたいというニーズがある。だから、低速でまちの空気を感じながら快適に移動できる手段があれば喜ばれるはずだ。

その点、すでに富岡製糸場の周辺を走っている低速電動バス「eCOM-8」は、そうした需要に応え得る車輌だろう。「低速」「電動」というのは、自動運転と非常に相性か良い。

ドライバーが見つからない世の中たが、自動運転は車輌さえあればいい。観光地に移動手段となる自動運転車がたくさん走っていれば、観光客はそれに乗って、スムーズに移動でき、観光地を「感じる」時間が増える。

「富岡モデル」確立し2020年の実用化へ

観光地の価値は観光地そのものにあるわけだが、自動運転は観光地の真の価値を引き出すツールになる。2020年の実用化を目指して、観光と自動運転による「富岡モデル」をつくっていきたい。また、低速電動バスは、特に高齢者地域の運行で非常に高い詳価を得ているので、観光だけでなく地域コミュニティーに活用していける可能性もある。

群馬大―完全自動運転への取り組み ビジネスモデルを全国へ

完全自動運転の技術は、従来の自動車の概念を覆すイノベーションを起こすと予測され、自動車メーカーやIT企業などが研究開発にしのぎを削っている。群馬大は昨年、次世代モビリティ社会実装研究センター(桐生)を設立、桐生市内で自動運転車の実証実験を始めた。本年度内に前橋の荒牧キャンパスに完全自動運転総合研究開発施設および国内大学最大規模の自動運転試験路を設置。今後は太田、富岡、南牧など県内各地で実証実験をスタートさせる。完全自動運転車をあらゆる場所で走行させるのは技術的なハードルが高いため、現段階では、地域や路線を限定した路線バスや物流トラックによる完全自動運転の早期実現を目指している。富岡では観光地における自動運転のヒジネスモデルを確立し、全国の観光地に波及させる狙いがある。

富岡製糸場の周辺を走る低速電動バス「eCOM-8」(まちなか周遊観光バス)。
低速でまちの空気を感じながら移動できる。
完全自動運転技術を確立して2020年の実用化を目指している