前橋育英 つかんだ初優勝 高校サッカー決勝3度目の悲願
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優勝旗やトロフィーを上げ、観衆に応える前橋育英イレブン
(上から)前橋育英―流通経大柏(千葉) 後半47分、育英FW榎本(22)がこぼれ球をシュート。相手ゴールに突き刺さり、チームメートと応援席に駆け寄る=埼玉スタジアム
選手に胴上げされる前橋育英の山田監督=埼玉スタジアム

 【埼玉=本紙取材班】第96回全国高校サッカー選手権最終日は8日、さいたま市の埼玉スタジアムで決勝を行い、群馬県代表の前橋育英が流通経大柏(千葉)に1―0で競り勝ち、4年連続21度目の出場で初優勝を果たした。選手権制覇は県勢初。今大会最多の16得点を挙げた持ち味の攻撃力と堅い守りで、悲願の頂点をつかんだ。

 昨夏の全国高校総体(インターハイ)を制した流通経大柏との決勝は、後半アディショナルタイムまで両チーム無得点の大接戦となった。

 育英は前半の立ち上がりからMF田部井涼(3年)を軸に攻撃を組み立てたが、流通経大柏は長身DFを2人並べ、今大会得点王のFW飯島陸(同)にもマンマークを付けるなど、守備重視の布陣で対抗した。

 育英が決定機に恵まれない中で、22分の相手カウンターをGK湯浅拓也(同)が大きく飛び出して防ぐなど、ひやりとする場面もあった。アディショナルタイムに飯島が強烈なミドルシュートを放ったがゴールポストをたたき、得点を奪えないまま折り返した。

 後半も19分にMF五十嵐理人(同)がクロスバー直撃のシュートを放つなど、主導権を握りながら決めきれなかった。無得点のまま延長戦突入かと思われたアディショナル2分、飯島のシュートのこぼれ球をFW榎本樹(2年)が右足で蹴り込み、残り時間1分弱で劇的に勝負を決めた。

 山田耕介監督は「厳しい戦いだったが、優勝できてほっとしている。1年間歯を食いしばってボールを追い続けた結果」と喜びを語った。

 育英は約1300人がスタンドで応援。試合終了のホイッスルが鳴ると抱き合って歓喜した。

「県民に大きな夢」大沢正明知事の話

 全国大会優勝おめでとうございます。幾多の強豪との激戦を勝ち抜き、ついに全国制覇の栄誉を手にしました。前橋育英高サッカー部の活躍は、県民に大きな夢と感動を与えてくれました。新しい年の始まりに素晴らしい贈り物をありがとう。

「感動連続の試合」山本龍前橋市長の話

 スタジアムで応援していて力が入る素晴らしい試合で、感動の連続だった。信頼の絆とたゆまぬ練習がこの栄光の原動力だ。おめでとう。前橋市がスポーツ都市として、市民を励ませるよう、力を発揮していきたい。

◎前橋育英 涙の頂点 勝利への執念 一丸

 勝利への執念で栄光の扉をこじ開けた。8日に埼玉スタジアムで行われた第96回全国高校サッカー選手権決勝は、前橋育英が後半アディショナルタイムの1点で流通経大柏(千葉)に競り勝った。徹底して粘る相手に大会屈指の得点力を抑え込まれた育英だったが、後半の選手交代でリズムをつかみ、悲願の初優勝を手に入れた。

  ▽決勝
 
前橋育英 1(0―0)0 流通経大柏(千葉)
       (1―0)

  ▽得点者
 【前】榎本
  ▽交代
 【前】宮崎(五十嵐)
 【流】加藤蓮(熊沢)石川(宮本泰)池田(安城)金沢(佐藤)

 【評】前橋育英は終盤の選手交代で攻撃パターンを変え、粘り強く守る流通経大柏を押し切った。前半は果敢に攻撃を仕掛けるも、キーマンのFW飯島を徹底したマンマークで抑え込まれたことが響いて、フィニッシュに持ち込めない場面が目立った。シュートも飯島の2本だけだった。

 後半は、19分に投入したFW宮崎を前線に置き、飯島をやや下げた配置が奏功した。ほころんだ守備を突き、35分には立て続けにシュート3本を放つなど、計10本の猛攻を加え、アディショナルタイムでFW榎本がゴールを割った。

◎集大成の舞台 強さは別次元

 1年前はあふれる涙を拭い、ピッチからじっと見上げていた表彰エリアに、誓い通り笑顔で立った。金メダルを首から提げた前橋育英イレブンの目は真っ赤。この日は悔し涙ではなく、うれし涙だ。「優勝おめでとう」「感動したぞ」「ありがとう」。祝福の声を浴びながら、優勝杯を高らかに掲げて喜びを爆発させた。

 この1年、チームは幾多の敗戦をばねに成長してきた。まず前回大会、5試合無失点で臨んだ決勝で青森山田に0―5の大敗。「今までやってきたことや自信を全て打ち砕かれた」(MF田部井悠)。最終ラインの4人ら主力が多く残った新チームは雪辱を誓い、ゼロから出発した。

 全員がやるべき五つの原則がある。(1)球際(2)ハードワーク(3)攻守の切り替え(4)声(5)競り合い・拾い合い―。山田耕介監督によると選手がこぞってサッカーノートに書き込んでいた。前チームのテーマでもあったが、MF田部井涼主将やMF塩沢隼人らが中心になって明確化。「そこで勝てれば結果は付いてくる」とチーム内に浸透を図った。

 インターハイは3回戦で青森山田に借りを返したものの、準決勝で流通経大柏に0―1で敗退。ロングボール主体の相手に合わせてしまい、田部井主将は「パスワークを磨かないとこれ以上は上にいけない」。高い個の能力を生かすため、パスのスピードや精度など基本から見直した。

 チームが完成形に近づいた12月、最後の試練が訪れた。高円宮杯U―18(18歳以下)プリンスリーグ関東王者として、4度目となるプレミアリーグ参入戦に挑んだが、ジュビロ磐田U―18にPK戦の末に惜敗。県1部リーグを制したBチームはプリンス関東参入戦の出場権を失った。

 落ち込んだはずだ。しかし、選手たちが下を向くことはなかった。サッカーノートには「切り替える」という言葉が並んだ。山田監督は「しばらく立ち直れなかったのは私だけ。選手たちは頼もしかった」。敗戦を燃料に、選手権への気持ちを燃えたぎらせた。

 集大成の舞台で別次元の強さを発揮した。選手権全5試合で打たれたシュートはわずか11本、総得点は最多の16。県予選決勝の桐生第一、3回戦の富山第一に続き、この日も決勝点は試合終了間際の劇的ゴール。偶然ではない。「じれずにやり続ければ必ず得点できると思っていた」(FW飯島陸)。悔しさを忘れず、仲間を信じて練習を積み重ねた努力の結晶。誰もが認める、完全優勝を成し遂げた。(佐藤秀樹)

◎2年生榎本が決勝弾

 唯一の2年生スタメンで大一番に臨んだFW榎本樹が、前橋育英の歴史を塗り替えた。なかなかゴールを割れないまま迎えた後半アディショナルタイムに、こぼれ球を勢いよく右足で蹴り込み決勝点を挙げた。

 大会7得点を挙げていたFW飯島陸と、インターハイ得点王の榎本の2トップを警戒し、相手が選んだ戦術は執念のマンマーク。しかし、山田耕介監督は「むしろチャンスだ」と2人に伝え、積極的に動き回りスペースをつくり出すよう指示を送った。

 シュートの瞬間はフリーだった。ボールを受けた飯島がキーパーと守備を引きずり出して放ったシュートに、残りの守備も反応。榎本が感覚に頼って飛び込んだ目の前に転がってきたボールを無我夢中で振り抜いて、ゴールネットを揺らした。

 喜びの瞬間、真っ先に応援スタンドに向かって駆け出した。「試合に出られない3年生に報いるためにも、ゴールを決めないといけなかった。喜びを分かち合いたかった」と、生まれて初めてのうれし涙を流した。「3年生には生活面からたくさん迷惑を掛けたから、プレーで恩返しがしたかった」

 中学2年の時、同じ埼玉スタジアムで星稜(石川)との激戦を見て前橋育英への進学を決めた。今回の決勝弾を見て、榎本と同じように進学を望む中学生も現れるだろう。「そしたら育英はもっと強くなると思うので、また来年も日本一に」とさらなる飛躍を志した。(高野誠也)

《解説》悔しさバネに成長

 前橋育英イレブンが、県勢初の全国選手権制覇を成し遂げた。4093校の頂点にたどり着く瞬間まで、ピッチで躍動する姿は、スタンドやテレビで応援した多くの県民に感動を与えた。

 2015年、17年に決勝の舞台に立ちながらもはね返された。前回の決勝では青森山田に0―5と、まさかの大敗を喫する悪夢を見た。前回の屈辱を知るメンバーが多く残ったチームはもう一度、日本一を目指して再スタートを切った。

 新チームは攻守の切り替えに重きを置いて練習してきたという。守備から攻撃に転じるプレーは選手の気持ちに勢いが出る。攻撃から守備に転じる場合は相手のパスコースを封じ、シュートを打たせないという気持ちが働くため精神的、肉体的にも負荷がかかる。

 育英の選手たちはどちらのケースにも切り替えが速く、試合をコントロール。高い攻撃力に加え、選手権では決勝までの5試合で打たれたシュートはわずか11本というのも目を見張る。

 選手権の頂点に至るまで、決して順風だったわけではない。インターハイは準決勝で敗退、プレミアリーグ参入戦もPK戦の末に敗れ、プリンスリーグからの昇格はならなかった。

 こうした敗戦を経験しても心が折れなかったのは、大敗した選手権で必ず頂点に立つと強く誓ったから。決勝戦前日も「本当は見たくないけど、宿舎で(青森)山田戦の映像を見ると思う」と田部井涼主将は話していた。インターハイで敗れた流通経大柏(千葉)に勝利しての優勝となり、リベンジも果たした。

 悔しさからはい上がり、1年でつかんだ快挙に誰もが心から拍手を送っている。(運動部長 高橋克典)

 【本紙取材班】=田中暁、佐藤秀樹、和泉皓也、高野誠也記者、宮崎浩治、入山亘、外処郷平、大橋周平カメラマン

《前橋育英》野球も日本一に

 1963(昭和38)年に創立された男女共学の私立校。現在、男女の普通科と女子の保育科がある。校訓(建学の精神)は「正直・純潔・無私・愛」。

 サッカーでは元日本代表の細貝萌さん(J1柏)や山口素弘さん、故松田直樹さんをはじめ、数多くのJリーガーを輩出してきた。野球では2013年夏の甲子園で初出場優勝した当時のエース高橋光成さん(西武)もOB。

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