《Road to 北京》勝負の冬に突入 スピードスケート 燃える群馬県勢
  • このエントリーをはてなブックマークに追加
男子500メートルで金メダルを期待される新浜。日本短距離の復権を担う 女子のエース高木美の背中を追う佐藤。団体追い抜き連覇に加え、個人種目も躍進を狙う 日本の1万メートルの第一人者として再び世界の壁に挑む土屋
女子のエース高木美の背中を追う佐藤。団体追い抜き連覇に加え、個人種目も躍進を狙う 
日本の1万メートルの第一人者として再び世界の壁に挑む土屋

 スピードスケートは22日から長野市エムウエーブで開かれる全日本距離別選手権でシーズンの幕を開ける。4カ月足らずに迫った北京冬季五輪で初出場金メダルの快挙を期待される男子短距離の新浜立也(高崎健大職)と2018年平昌(ピョンチャン)から2大会連続出場を狙う男子長距離の土屋良輔(メモリード、嬬恋高出身)、女子長距離の佐藤綾乃(ANA、高崎健大出身)が「勝負の冬」に突入する。夏場の猛練習を越え、たくましさを増した3人の真価が問われる。


男子短距離 新浜 立也 高崎健大職

「常に上を」闘志かき立てる

 世界選手権スプリント部門やワールドカップ(W杯)500メートルの年間種目別を既に制している短距離王、新浜の視線は先を向く。あと一歩で敗れた4年前の平昌代表選考会を念頭に、「無名からここまではい上がったことが自信につながっている。ただこれで満足はしていない」。得意の500メートルは五輪金メダルだけを見据えている。

 新型コロナウイルス感染拡大で海外遠征のなかった昨季を文字通り「足場固め」に費やした。国内大会で新たなスケート靴を複数試し、正解にたどり着くまで何度もレースで苦渋をなめた。コーナーワークの安定感や加速力が高まって1000メートルの力も増し、持てる技術を引き出す一足で北京に向かうためだった。

 8月の氷上練習は直線、コーナーとも「昨季以上に成長している。まだまだ上にいける感覚がある」と好感触だった。これまで積み重ねた夏場の体づくりの成果を、ようやく氷上で発揮できるようになった。

 靴のなじみもある。刃の高さを1ミリ下げ、新たな感覚が生まれた。「(滑走時の)刃の返りが速くなり、やりたいことがすんなりできる」という。左右の体重移動がスムーズで、余分な力を加える必要がなくなった。昨季苦労したスタートの問題も解消できそうだ。

 技術的にまだ未完成な部分があると自己分析し、氷上練習が本格化する中で新たな課題を探っている。「大きく変わるとすれば、コーナーワーク」。絶対的な武器にしようとこだわってきただけに、妥協せず仕上げる。

 全日本距離別はW杯の出場権獲得が最優先。レース勘がない難しさは理解しつつ、「村上右磨選手(高堂建設)と白熱した勝負がしたい。2人で切磋琢磨(せっさたくま)して好タイムをたたき出せたら」という。

 五輪の不安点に「会場の雰囲気」を挙げ、今夏の東京五輪を真剣に見た。1年延期の不利を感じさせず、高いパフォーマンスを見せた金メダリストたちに大きな刺激を受けた。自らがしのぎを削るロシア勢を思い浮かべ、「彼らを倒さなければ金メダルはない。常に上を見なければ」と闘志をかき立てた。全力疾走で北京に駆け上がる。(田中暁)

 しんはま・たつや 1996年7月生まれ。北海道出身。釧路商高―高崎健大卒。500メートル日本記録保持者。2019-20年シーズンにW杯500メートルで日本男子19年ぶりの種目別総合優勝。世界選手権スプリント部門で黒岩彰(嬬恋高出身)以来33年ぶりの総合優勝。

女子長距離 佐藤 綾乃 高崎健大出身

エース超えて頂点目指す

 2022年北京冬季五輪で2大会連続出場を目指す佐藤綾乃(ANA、高崎健大出身)は、円熟味を増している。18年平昌(ピョンチャン)の女子団体追い抜きで日本冬季女子最年少の21歳で金メダリストとなったが、その後はスランプも経験。競技を見つめ直して再起し、純粋な強さを模索する。

 日本女子の勢力図は昨季に大きく動いた。同郷の先輩、高木美帆(日体大職)が全日本選手権で国内主要大会初となる全5種目制覇を達成。その絶対的エースと中長距離で競り、好勝負を繰り広げたことで佐藤も存在感を増した。

 「五輪で活躍したい、メダルを取りたいという気持ちが(今までとは)違う」。自信に満ちた返答は往時の学生オリンピアンではない。笑顔の裏で懸命に恐怖を抑え「驚きと喜びであっという間に終わった平昌」から着実に成長している。

 要因は二つ。一つはトップスケーターの滑りを観察し、重心移動のタイミングを練り直した。「今までは良い滑りと思っても、上半身が力んだり、足の力で押し込んだりがあった」という。自身の持ち味であるリラックスした、大きな動きの滑りをさらに高めた。

 もう一つは精神力。19-20年シーズンは夏に左脚を痛め、遅れを取り戻そうと過剰に練習する悪循環に陥り、「氷上にいたくないほどのどん底を味わった」。だがコーチや高木美ら周囲は助言を惜しまず、「私のため時間をつくってくれる人がいる。こんな幸せなことはない」と前を向けた。

 今夏は世界トップの水準を意識し、持久力などの最大値にこだわった。苦しい場面でブレーキを掛けそうになっても「できる」と自らに言い聞かせた。一方で自身の関節や筋肉のチェックは怠らない。「今のところ大きなけがはない。(練習を)コントロールできている」とうなずく。

 北京は団体追い抜きの2連覇、個人種目の飛躍と目標が多い。「昨季は美帆さんに少し近づけたんじゃないかと思える場面があり、その差をどう埋めていくかが今季のテーマ。美帆さんを超えた景色を見てみたい」と頂点を志す。
(田中暁)

 さとう・あやの 1996年12月生まれ。北海道出身。北海道真龍中―同釧路北陽高。団体追い抜き世界記録メンバー。2018年平昌五輪3000メートル8位。20年世界選手権オールラウンド部門の総合9位。

男子長距離 土屋 良輔 メモリード 嬬恋高出身

原点回帰 効率良い動き体得

 2018年平昌(ピョンチャン)五輪代表で、男子1万メートル日本記録保持者の土屋良輔(メモリード、嬬恋高出身)は強い危機感を持つ。日本人で初めて12分台をマークした歴代最強のステイヤーながら、国際水準の高まりを肌で感じている。近年はスケート技術の進歩が速く、周回数の多い長距離は如実な差が出る。夏場は原点回帰して基礎体力を見直し、2大会出場へ気持ちを高めた。

 昨季は1万メートルの国内最高記録を3度更新。コーナーワークの歩数を増やして滑りのテンポを高め、課題とした終盤のラップを押し上げられたレースもある。足運びの変化によって低姿勢の維持が難しくなったこともあり、まだ小さなミスが残るという。5000メートルも含めて伸び代はある。

 「良く言えば安定していたが、爆発できなかった」と悔しさも口にした。平昌1万メートルから引きずる課題。当時の日本新記録の13分10秒31で10位にとどまった。世界の壁を感じ、「突き抜ける力」を欲した。

 現在の日本記録12分55秒62は平昌当時ならメダル争いのレベルだが、「現在の上位に追い付いていない」と表情を崩さない。新型コロナの影響で日本勢は昨季のワールドカップ(W杯)など海外遠征を中止。生でライバルの滑りを感じられない焦りや国内で負けられない重圧に苦しみ、精神面も反省材料に挙げる。

 今季は初心に戻り、1万メートルを滑りきるスタミナ、最後まで動ける筋持久力を夏場から意識。オフの自主練習は自転車でアップダウンのある山道を日に100キロ以上走った。ナショナルチームの陸上練習に余力を感じ、氷上練習も後半のラップで粘れるように。「効率の良い動きが身に付いてきた」と実感している。

 東京五輪は趣味の自転車を観戦。母国で行われた頂上決戦を身近に感じ、「自分もこのレベルで戦っていかなければ」と力をもらった。自転車同様、スケート長距離の世界強豪も終盤の脚が強い。「コーナーの速いテンポが鍵。そこに追い付きメダルに食い込む。平昌から4年はあっという間だった。後悔のない終わり方をしたい」(田中暁)

 つちや・りょうすけ  1994年11月生まれ。嬬恋村出身。専大卒。2018年平昌五輪団体追い抜き5位。18-19年シーズンW杯の団体追い抜き、マススタートで各1勝。19-20年シーズン世界距離別1万メートル5位で日本記録を更新した。

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
関連記事