《闘論》高校野球球数制限 学校間の格差考慮/効果みて選手守れ
  • このエントリーをはてなブックマークに追加
高校野球の球数制限について語る(左から)慎重派の林孝夫さんと賛成派の川尻哲郎さん

 高校野球の球数制限が議論を呼んでいる。新潟県高校野球連盟(高野連)が今春の県大会で1試合100球の制限を独自に導入すると発表、現役のプロ野球選手らが賛同するなど全国的な改革を望む声がある。日本高野連は20日の理事会で球数制限について判断するとしている。

 元群馬ダイヤモンドペガサス監督の川尻哲郎氏(50)は「肘や肩の故障原因は投球過多だけではないだろうが、一因にはなり得る。効果を検証することが選手たちの体を守るために非常に大切」と制度の普及に期待する。

 一方、元群馬県立高崎商業高監督の林孝夫氏(70)は「県大会1回戦から一律に導入するのは反対。選手層の格差を考慮して全国的な理解を得られるよう、まず話し合いを徹底すべきだ」と、なし崩しの導入に疑問を呈する。

 投手保護の要請は年々強まっており、その一環で高校野球は2018年度から延長戦にタイブレーク制を導入した。イニングの開始時に走者を塁に配置して得点を入りやすくし、決着を早めるルールで、春夏の甲子園大会などで適用されている。

 昨夏の選手権で準決勝までの5試合を完投し、準優勝した秋田・金足農業高の吉田輝星こうせい投手のように1人に負担が集中するケースを防ぐ手だてはまだない。球数制限は「特効薬」となり得るか。選手育成に長年携わり、上毛新聞紙上で高校野球解説を担当する2人に制度の利点や問題点などを聞いた。

【賛成】疲れ蓄積 けがのリスク…元ダイヤモンドペガサス監督・川尻哲郎さん 

―球数制限はなぜ必要か。
 現役時代に170球以上投げて完投したこともあるが、中5日あっても体のだるさは抜けなかった。1試合で170球投げれば、ブルペンでの練習を含めて球数は300を超える。投げ過ぎればプロでもけがをする。体ができていない高校生では、そのリスクが高まるのは必然だろう。

 加えて、正しいフォームと崩れたフォームでは体への負担が大きく変わる。正しいフォームであれば何球投げようが、しっかり休養すれば大きなダメージはない。だが、高校生の大会は短期間に集中して行われるため、疲れが蓄積した状態で投げなければならない。フォームが崩れて、ひじや肩に負担が掛かった状態で投げ続けているのが現状だ。チームの勝敗を握っているとなれば、自分でブレーキはかけられなくなる。

―指導者の采配で選手の負担を減らせないか。
 勝負が懸かった時には多少無理してでもエースに投げてほしいと思うのが正直なところ。選手を止めるのが指導者の役割だと分かっていても、大事な場面になればなるほど交代の決断をするのは難しい。だからこそ、行き過ぎを止めるためにはルールとして定めるしかない。

―選手層の薄いチームには不利との見方もある。不公平感をなくす方法は。
 エースが試合途中に降板することになれば、人数の少ないチームの 勝率が低くなるのは間違いないだろう。そこで、1試合で何球と定めるのではなく、大会を通してトータル何球までと制限する方法はどうだろうか。先の試合まで見据えるチームは主戦 を温存するだろうし、一戦必勝のチームはエースを完投させることもできる。投手の起用法が広がり、人数の少ないチームが勝つ可能性は上がるだろう。

―「勝利至上主義」のチームには受け入れられないのではないか。
 勘違いしてはいけないが高校野球は部活であり、あくまで教育の一つだ。勝ち負け以前に、最大限の準備をしてきたのか、試合で全力を出し切れたのか、それこそが本来の目的ではないか。個々が一生懸命やったことを評価できるような雰囲気や冷静な考え方を育ててほしい。

―球数制限を前提にしたチームづくりとは。
 投手の育成はもちろんだが、勝つためには選手全員の意識を上げる必要がある。投手であればストライク先行で、投げるコースも今より工夫しなければいけない。守備ではエラーを減らす分だけ球数も減り有利になる。

 その上で高校生に限らず、小中学生からしっかりとした体づくりを始めて、投げ方、打ち方の基礎を固めていくことが重要だ。野球界全体が基礎づくりに重点を置いていかなければ、必ず誰かがどこかでけがをすることに変わりはない。

 かわじり・てつろう 1969年生まれ。亜細亜大卒。日産自動車を経て95年に阪神入団。投手で活躍し、2005年に引退。14年から2年間、群馬ダイヤモンドペガサス監督。高崎市

【慎重】フェアな戦いできない…元高崎商業高監督・林孝夫さん

―球数制限の問題点は。
 大学の強豪リーグや社会人のように高い質を保つカテゴリーならば導入はすんなりいくだろう。だが高校野球はチームの格差が大きい。100球制限があったら、昨夏甲子園の秋田代表・金足農業は県大会を突破できただろうか。

 9人のチームにも練習試合を含めた投手担当は複数いるが、地肩の強さやセンスなどで主戦級は限られる。助っ人部員や連合チームが珍しくない状況で強制的な交代が盛り込まれれば、九回まで試合を続けられないケースが発生しうる。一律の規制で「フェアな戦い」と言えなくなる。

―投手保護の観点ではどうか。
 試合の球数に限定せず、練習段階から投げ過ぎに注意すべきだ。肩を消耗品と考え、実戦経験よりもインナーマッスル強化で持久力を付けることを優先する。高校野球では1990年ごろから指導者講習会で広められてきた。当時と比べて各校の施設は充実し、体づくりに取り組む環境は整っている。指導法の原点から周知徹底が必要だ。

―体ができれば多少の連投は問題ないか。
 大会を戦う中で厳しくなるのは、準決勝など上位に勝ち残った時。投手は疲れでフォームが崩れ、体に負担が掛かりやすい状態で連投する。故障予防のための球数制限ならば、ここに盛り込むのはどうか。上位まで勝ち上がるチームなら選手層も厚く、大きなハンディにならない。

―選手層の厚いチームに球数制限は不要に見える。
 そこが高校生の団体競技の難しさだ。エースを出さないことがチーム全体の士気に影響する。本人も不調やけがを言いたがらない。教育である以上、どうしたら悔いを残さないか、生徒を守れるのか、指導者は誰もが悩む。一定の歯止めは必要だろう。

―「勝利至上主義」によるものではないと。
 もしそうなら、どの学校も部員数を絞り込む。指導や安全管理が行き届く少人数の方が選手、監督ともにやりやすい。希望者を広く受け入れる「部活」だからこそ、主力以外の部員もデータ班やブルペン捕手などできることでチームに貢献する。花形のエースすら多くの仲間の支えで成り立っており、個人競技と判断が異なってくるポイントだ。

 皆、純粋に野球で勝ち、喜びたくて入部する。県8強や甲子園などの目標を持ち、仲間を代表して試合に出る選手が全力を尽くすのは自然だ。そうした経験が将来の心の支えにもなる。

―けがを減らす工夫はないのか。
 1番は夏の酷暑対策。試合の時間帯を早朝や夕方以降にずらせれば、投手が消耗した体で無理な投球を続け、故障するリスクを抑えられる。日程に余裕を持たせ、登板間隔を空けるのも手だ。競技の根本に関わるルール変更に比べ、公平さを失わずに済む。

 はやし・たかお 1948年生まれ。東京経済大卒。高校野球監督を利根商と高崎商、渋川工、高崎工で監督を歴任。88、90年に夏の甲子園出場。2011年日本高野連育成功労賞。渋川市

 《球数制限》 投手の故障予防のため、1試合の球数やイニング数の上限を決める規則。ボーイズやリトルシニアなどでつくる日本中学硬式野球協議会は採用済みで、1日7イニング、連続2日で10イニング、練習の全力投球を1日70球、1週間350球とするガイドラインを設ける。全日本軟式野球連盟は今夏の小学生の全国大会で1日70球の制限を決め、来年以降は地方大会にも広げていく考えを示している。

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
関連記事