《白球の詩》蓄積の日々 自信に 高崎工・江原大和捕手
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バント処理の送球先を指示する高崎工の江原捕手=高崎城南

 群馬県内で、令和最初の甲子園を目指す夏が始まった。歓声と興奮の中、白球を追う姿は新時代でも変わらない。一瞬に懸ける姿を紹介する。

◎マスクかぶり最後の夏
 五回裏、逆転を許した直後、井上昂生のボークで再び失点。女房役はすかさず駆け寄った。「お腹空いたなあ」。冗談を言うとバッテリーに笑顔が戻った。「投手の方が苦しいだろうから」と気遣いを忘れなかった。

 小学生からずっと捕手だった。自分の配球で勝ったときの快感を忘れられず熱中した。高校1年時からベンチ入りし、2年春に念願の捕手として出場。「捕手ができない野球は考えられない」と思うほど魅了された。

 ところが2年時の夏の大会を前に正捕手の座は後輩に渡り、めっきり出番が減った。悔しい思いを胸の奥に閉じ込めて、「チームが勝てればそれでいいんだ」と自らに言い聞かせた。結局、試合の結末を見ることなくブルペンで大会を終えた。

 全体練習が終わっても、時間が許す限り居残り練習をする。最上級生になっても率先して雑用を行う。淡々と課題をこなす姿は高橋寛人監督に「修行僧」と言われるほどだ。

 しかし、昨夏の悔しさは行動に表れていた。「自分に必要なものは何か」と自問を続け、捕手の基本の動きや長打力を磨くための打撃練習に明け暮れた。チームメートの田村晃輔は「1年の頃にやった基礎練習を一からか」と本気度の違いを感じ取った。

 新チームになっても一塁手を務めた。チームのため自分の気持ちを押し殺した。本音をぶつけられる相手に救われた。中学から一緒の二塁、佐藤みずきだ。野球の意見が合い、互いの性格もよく知る。「悔しい」。自分で驚くほど、感情を素直に表現できた。

 ようやく正捕手に返り咲いた今春、「ずっと捕手をやるために練習してきた」が初戦で敗退した。だが、投手を務めた田村は「どんな球も後ろにそらさないから心強かった」と信頼を寄せた。

 念願の夏は体験したことのない独特の空気だった。思ったように体が動かず、六回表2死満塁の好機の打席で中飛。「いつもの江原じゃない」と高橋監督が驚くほどだった。

 3点差で迎えた八回裏、仲間の失策でナインは混乱した。ふと、今までの自主練習を思い出した。「1アウト取るぞ」。人さし指を突き上げて叫んだ。2年半の積み重ねが自信となっていた。

 試合終了のサイレンが鳴ると一度だけ涙を拭った。黙々と大きな荷物を運び、ベンチを去る姿は「修行僧」だった。高橋監督は「努力は報われるんだと実感させてあげたかった」と江原の分まで涙をこぼした。

 卒業後も野球を続けるつもりだ。どんなに苦しい戦いをしても、捕手はやめられない。「悔いは残る」。それでもたった一度の夏、本塁から見た仲間の姿は絶対に忘れない。(時田菜月)

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