《白球の詩》「支えてくれた人のため」 高崎商大附 バルボザ・ジュン投手
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本塁生還した仲間を迎える高崎商大附のバルボザ(右)=高崎城南

 逆転に成功した直後の四回、3ランを浴びて再逆転を許した。持っていた青いタオルをベンチでぎゅっと握り締める。「大丈夫、ここからだ」。戻ってきた選手たちの首に願いを込めた冷たいタオルをかけた。六回、チームは2度目の逆転劇を演じて強敵を下した。

◎逆境で仲間と成長
 「野球に集中したいので家を出たい」。母親にこう切り出したのは高校1年の秋季大会中だった。家庭内にトラブルがあり自宅にいられなくなった。「ごめんね」。母親は涙を流して児童相談所に電話した。養護施設での生活が始まった。

 気持ちを伝えるのが得意な方ではない。施設関係者は「最初は人を遠ざけるような雰囲気があった。優しいからこそ周囲を傷つけたくないし、自身も傷つきたくなかったんだと思う」。野球部内でも休憩中はご飯を1人で食べたり、グローブを手入れして過ごした。

 昨秋、腰のけがが再発した。代が替わり、意気込んでいた直後の出来事に自分を責めた。だが、チームメートからは「焦らずにできることをやろう」。2カ月ぶりに投げた練習試合で打たれた時も「大丈夫、ここからだ」と励ましてくれた。仲間の優しさに触れ、心を許してもいいのだと、気持ちが楽になった。

 施設生活の事情を知った選手たちは悩んだ。注意しすぎはよくない。かといって、遠慮していて本当の仲間と言えるのか。不安はすぐに消えた。心を開き、積極的にコミュニケーションを図ってくれたのだ。全員で冬場の厳しい練習を乗り越え、チームは結束した。

 努力の末につかんだ背番号「10」。今大会の開会式前夜、1時間以上かけてユニホームに縫い付けた。重みを感じた。そして帽子の裏に「攻める」と大きく書き、小さく「支えてくれた人たちのために」と足した。

 「ブレーキの利いた変化球に加え、内角の真っすぐで勝負できる。100パーセントの力を出せばエースにも引けを取らない」と捕手の乾翔悟主将は信頼を寄せる。

 この日、応援席から“お兄ちゃん”のユニホーム姿を見た施設の子どもたちは「かっこいい」と目を輝かせた。「いつでも投げる準備を整えている。投げなくても、これが自分の仲間たちだと胸を張りたい」。

 まだ夏は終わらせない。(佐藤秀樹)

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