《白球の詩》球友たちと競った夏 前橋商・西岡龍二捕手
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試合終了後、相手主戦梶塚の肩を抱き、優勝をたたえる西岡(右)=上毛新聞敷島

 「お前を抑えて逆転するぞ」―。九回表2死、打席に入る前橋育英の3番剣持京右に宣言した。同郷の剣持も、さすがにむすり。意地の内野安打で出塁されたが後続を断った。ベンチに戻る剣持に笑みを向けた。「まだ余裕があるぞ。俺は諦めない」。けがに苦しみ高校野球をできたのは正味1年半。耐えた時間に比べたら。

◎昔の仲間との勝負 全力で
 すべては6年前に始まった。夏の群馬大会4回戦、前橋商のネクストサークルで代打の準備をしながら、出番なく敗戦した兄の昇留のぼるさん(24)をスタンドで見つめた。「(控えだった)お兄ちゃんの代わりに正捕手になる。前商を甲子園に連れて行く」。兄の後を追って、夢中で取り組む野球に明確な目標が生まれた。

 伊勢崎四中で捕手になると、今福優太(樹徳)とのバッテリーで2年秋の新人大会から郡市予選を総なめにした。2016年東日本大会で伊勢崎北選抜を優勝に導いた好右腕、現前橋育英主戦の梶塚彪雅(殖蓮中出身)らがひしめく中、圧倒的な強さを誇った。

 中学硬式に所属する剣持と本木康介(桐生第一)の「0歳から幼なじみ」コンビも野球話に花を咲かす四中仲間で、卒業時に「お互い頑張ろうぜ」と励まし合った。だが中3冬の右肘手術に加え、高校入学目前で左足を骨折した。球友たちから一人、出遅れた。

 昨夏は右肘をかばう影響で右肩が痛み、秋には投手に返球すらできずベンチを外れた。丹念なリハビリで今春復帰したが、井上温大はるとに縦スライダーを要求しては首を振られた。「そらさず止められるか」と視線が問う。ブランクは事実。いつまでも待ってこそ、捕手だった。春準々決勝の健大高崎戦は惜敗したがサインのずれはなくなり、「西岡は絶対そらさない」という井上の信頼が伝わった。

 だからこそ決勝の四回1死満塁、捕邪飛に飛び付き、バックネットに衝突しても手放さなかった。「ここまで来たら壊れていい。勝たせたい」と井上のことしか考えなかった。「例え甲子園に別の捕手が立とうとも」と。

 スタンドの本木は「みんな学童からの仲間だ。悔いなく出し切ってくれ」と願った。今福は「昔から、攻めて攻めてびびらない」とかつての相棒に止まるつもりがないのを察していた。

 決着が付いた。育英校歌斉唱後の降雨は「ノーサイド」の合図か。涙は引いていた。準々決勝樹徳戦では今福と対決した。育英に進んだ梶塚と剣持は想像以上の成長だった。彼らが打席に立つと互いに笑みが浮かんだ。どうしようもなく野球好きで、いろいろと背負って戦うしかなくて。「今はただ楽しかった」と晴れ行く令和の空を見つめた。(田中暁)

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