《白球の詩》自粛乗り越えチームまとめる 前橋育英・須永武志主将
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捕手として、守備に就く仲間へ指示を出す前橋育英の須永主将=桐生

 後悔が二つある。一つは2年生だった昨夏、「4番・捕手」として挑んだ甲子園。2万8000人の観衆に圧倒された。守備の時、大歓声が耳に入り、先輩投手をうまくリードできずに敗れた。涙は出ず、ただ呆然とするだけだった。

◎野球楽しむ仲間を鼓舞
 「もしかしたら、今まででの主将で一番かもしれない」。夏の全国制覇を果たした荒井直樹監督もキャプテンシーに太鼓判を押す。口数は多くない。2年生の皆川岳飛がくとは「背中を見ながら歩んできた」と言うように、プレーやふとした一言で、「付いていこう」と思わせる素質があった。

 二つ目の後悔は、新型コロナウイルスによる自粛期間。5年連続の出場を目指した夏の甲子園がついえ、「気落ちして、チームに何もできなかった」。後輩の多い投手陣にサポートが必要なことは分かっていた。当時は自責の念に駆られた。

 部活動が再開し、グラウンドへ行くと、目に入ったのは笑顔で白球を追う仲間。自粛前と変わらない、好きな野球を存分にする姿だった。「自分が中止を引きずっていた。救われた」。帽子のつば裏に気持ちを書き込んだ。

 自粛期間で得たことは何か。夏の大会が始まってから、学校のグラウンドで聞くと、坊主頭をかきながら、はにかんで答えた。「正直、自粛期間のことはよく覚えていないんです。今がすごく充実していて」。甲子園出場ではなく、夏の県大会を5連覇する目標に切り替えたことが、チームの結束を強めた。

 試合は4点を先行したが、集中打などを浴びて逆転された。ただ、あの時の大歓声とは違う、静かなマウンドで、6人の投手が代わるたびに励ました。ベンチへ戻ると、つばの裏を見返した。最終回の打席、仲間からげきが飛んだ。「みんなの思いが打席に伝わった」。この日、最初で最後の安打を左翼前に運んだ。

 まだ、プロに行く自信はない。来年からは社会人野球に進み、経験を積もうと思っている。「誰かの為に」。道の途中で苦しんだときはまた、つば裏の言葉を思い出すだろう。(落合琢磨)

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