《春の頂へ》健大高崎センバツ出場 チームを総合分析
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フォームを確かめる健大高崎の選手。普段から正しい打ち方を意識している
運動靴で走塁練習に取り組む健大高崎の選手
選抜大会に向けて練習に励む健大高崎の投手

 第93回選抜高校野球大会(19日から・甲子園)に、群馬県から健大高崎が2年連続で出場する。昨秋の関東大会では強力打線を擁し、4試合で計8本塁打を放って2連覇の快挙を達成した。開幕を前に、強打を築いた背景やチームの総合力、全国で勝ち進むために克服すべき課題に迫る。
(斎藤大希)

◎打撃―スイング速度アップ 強力打線が看板に

 「機動破壊」から「打撃破壊」へ―。走塁でかく乱する攻撃が特徴だった健大高崎は近年、打力を武器に勝利を重ねている。主力を担う2年生の入学以来の通算本塁打数は練習試合を含めると既に200本を超えており、下位打線まで長打が期待できる。打ち勝つ野球で昨年から快進撃を続けてきた。

 違いはボールの打ち方にある。機動力を軸に戦っていた時は最短距離でボールをはじき返すことを徹底していた。内野を抜ける低く鋭い打球になりやすく、エンドランなどの小技を絡めることで出塁、進塁する確率が高かったからだ。「塁に出ることを優先的に考えた」(生方啓介部長)からこその発想だった。

 しかし、ベスト8で終わった2017年の選抜大会を機に方針転換を迫られることになる。秀岳館(熊本)との準々決勝で5盗塁を決めた一方、相手左腕を打ち崩せず8安打2得点。序盤にリードを広げられたまま、反撃のきっかけすらつかめなかった。青柳博文監督は「バッティング能力の差が大きく違った」と敗因を分析する。

 目標とする日本一達成に向けて、指導陣は打撃フォーム改造から始めた。強打を生み出そうと、バットを大きく振ってスイング速度を上げ、球の中心の数ミリ下に当てる形に変更。投球の軌道をつかむ体の使い方を取り入れ、飛距離アップも目指した。

 言うのは簡単だが、結実させるのは難しい。だが、環境が後押しした。昨夏の大会は3年生(当時)のみで編成されることが決まり、2年生以下は打撃練習に時間をつぎ込むことができた。「この期間、連続ティーや素振りをしたことで振る力がついた。『面』で打ち、ホームランが出る確率が増えた」と3番桜井歩夢。他の選手も同様に手応えを語る。

 成果は昨秋の県予選で表れた。初戦の吉井戦で3本塁打をたたき込んだのを皮切りに、6試合で7本塁打を含む長打30本を放った。フォームの確認も怠らず、小沢周平主将は「その都度修正したことによって、打席での結果につながっている」と考える。

 機動力に頼らない、打ち勝つ野球を見せた健大高崎。「打線は水物」という定説を覆し、好投手が集まる秋の関東大会でも長打を量産、2年連続で優勝旗を手にした。健大打線はなぜ、全国区の強豪校にも通用したのか。背景には投手に心理的な重圧を与え、失投を誘う作戦があった。

◎出場校最多15本塁打 選球眼磨き攻略

 健大高崎が昨秋の公式戦10試合で放った本塁打数は計15本。19日に開幕する選抜大会出場32校の中では、優勝候補と目される大阪桐蔭(11本)を上回り最多となった。コロナ禍で練習時間が制限されるなど、さまざまな制約を強いられたにもかかわらず、全国屈指の強力打線はどのように築き上げられたのか―。

 選手たちが「役に立った」と口をそろえるのが、打席の12~14メートル先から投げられたボールを打ち返す近距離打撃の練習。通常のマウンドよりも数メートル近く、投球の体感速度は140~150キロほどになる。バットの芯で捉えるために、自然と無駄な動作が削られ、鋭いスイングの習得につながるという。

 打撃力の向上以外にも効果が出ている。練習では直球だけではなく、低めの変化球も織り交ぜられる。低めの球は見逃すことを徹底しており、実戦に近い形での練習を繰り返すことで、試合でもボール球を見極められるようになっている。

 この選球眼は、試合の見えない部分で力を発揮する。低めの球に惑わされず、打者側がボールカウントを組み立て、投手に心理的な重圧をかける。「大会で勝ち進むほど好投手と対戦する。失投は少なく攻略しにくいため、こちらから『誘う』」と打撃担当の赤堀佳敬コーチ。各打者が球を見極め、プレーの起点となる守備側から主導権を奪い取ることが可能になる。

 象徴的だったのが昨秋の関東大会だ。各打者は低めの変化球に一切手を出すことなく、絶好球は瞬時に反応して振り抜いた。準決勝の専大松戸(千葉)戦は、甘めのボールを捉えて5本塁打を記録。相手の先発右腕が「振らせる球は見逃され、ストライクゾーンに投げると飛ばされてしまった」と嘆くほどだった。

 特に堀江晃生は4試合で2本塁打を記録。決勝の常総学院(茨城)戦では7-7で迎えた延長十一回、2ストライクに追い込まれながらも冷静にボール球を見送り、5球目の直球に合わせて勝ち越し弾を浴びせた。低めの球を見極めることで、「気持ち的に有利な状態で打席に立てた。近距離打撃の成果は大きい」と振り返る。

 今冬は金属製バットより重い木製のバットを使用、一日千回を目標にひたすら振り込んで、手首の強化やスイング速度の向上に努めた。同時に進めた体づくりも順調で、ロングティーで打球を場外に運ぶ選手が現れるなど力強さも増している。対外試合解禁から開幕までの期間が短く、「投手有利」とされる選抜大会でも強力打線の威力が発揮されそうだ。

◎走塁―打と相乗効果期待 冬場に走力を重点強化

 圧倒的な打撃力で関東の有力校を打ち破り、春の甲子園切符を手にした健大高崎だが、代名詞とされる機動力を手放したわけではない。「全国大会で勝ち上がるには『打』だけでは難しい」と青柳博文監督。現チーム発足時から選手、指導陣ともに走塁の重要性を感じていた。

 昨秋の公式戦10試合では30盗塁を記録。今春の選抜大会出場32 校のうち上位4番目と依 然として高い走力を擁しているとの印象を受ける。だが、内訳を見ると県予選6試合で計26盗塁を成功させ、このうち12盗塁は1回戦の吉井戦に集中している。小沢周平主将も「このチームには走れる人がいない」と秋の時点で走力面の課題を認識していた。

 全国で勝ち抜くには、課題の克服が不可欠だ。冬場に体づくりに 励んだナインは、今年1月から走力の重点的な強化に乗り出した。指導に当たるのは昨年着任した小谷魁星コーチ。健大高崎野球部OBで、2015年春に甲子園8強、同年夏にも全国16強を経験、「機動破壊」の名を全国に広めた現役時代のノウハウを選手たちに伝えている。

 練習では相手投手がクイックモーションで投げてから、捕手の送球が二塁へ届くまでを3.3秒と仮定。このタイム内に次の塁に到着することを目標に定め、リード幅や滑り込みの技術などを段階的に練習。ボールカウントごとに想定される配球も学び、変化球に狙いを定めてスタートする予測力も養った。

 海老原崚は「滑りやすい運動靴で取り組んだため踏み込む力が付いた。以前より速く進塁できる」と成果を実感する。50メートル6.2秒と決して俊足ではないものの、二盗の成功率も上がりつつある。「安打1本で本塁を狙うことも大切」(小谷コーチ)として、塁間に引いたライン上を走り、無駄の少ないコース選択ができるようにする練習にも取り組んだ。

 指導陣は走力を培うことで、打撃との相乗効果も期待する。投手は走者を警戒して、打者に対する集中力がそがれる上、盗塁されるのを嫌がり、直球の割合を増やすことが予想される。心理的な重圧がかかり失投を誘えれば、自慢の長打力で大量点を奪える可能性がある。

 型にはまらない野球で観客を魅了する「スペクタクルベースボール」を掲げる健大高崎。小沢主将は「走塁を絡めながら甲子園でも打ち勝ちたい。自分たちも楽しみ」と力を込める。今春は打力に加えて走力でも、球場を沸かせそうだ。

◎投手力―投打一体で勝利を

 「課題はまだあるが、以前と比べるとだいぶ良くなっている」
 健大高崎の生方啓介部長は厳しい冬の練習を乗り越えた投手陣を評価する。安心して試合を任せられるエースが不在だった昨秋に比べ、球速も上がり、投手力の底上げが進んだ。

 継投策を長年採用してきたが、強力投手陣を擁した前チームでは先発投手が状況に応じて最終回まで投げ切ることを解禁した。育成ドラフト指名を受けてプロ野球ヤクルトに入団した下慎之介ら複数の投手が安定して試合をつくる力を持ち、大量点を失う恐れが小さかったからだ。先発投手が完投するケースも珍しくなかった。

 新チームとなった昨秋は複数の投手による継投策に戻った。重要な局面に備え、大崩れしない背番号1の高松将斗を抑えに配置。先発は野中駿哉が関東大会全4試合を担い、得意の変化球で20回を防御率1.35と好投した。だが短いイニングを全力投球するリレー方式だけに、生方部長は「余裕はなかった」と振り返る。

 強力打線を擁しても、失点が多ければ勝利はおぼつかない。秋以降、投手陣は投球動作を細かく確認し、徐々にフォームを固定していった。全体的な筋力アップと並行し、関節の可動域を広げる初動負荷トレーニングも重ねてきた。

 直球が130キロ台中盤だった高松は1月の球速測定で139キロを記録、2月の紅白戦では141キロまで伸ばした。今月6日に行われた山梨学院との練習試合でも好投し、青柳博文監督も「しっかり球が走っている」と手応えを感じ取った。

 大会を間近に控え、各投手はマスクをかぶる綱川真之佑と話し合い、状況に応じた効果的な配球の研究に励む。ボールカウントに応じた組み立てや打者を打ち取る戦略を考え、実戦で効果を確かめる。

 故障により秋の関東大会で登板機会がなかった最速140キロ超えの本格派右腕、今仲泰一も復調の兆しを示し、投手陣が整いつつある。先発が期待される野中は「打たせて取ることができれば守備にリズムが生まれ、打撃にも良い影響を与えられる。投打一体となり、勝利を引き寄せたい」と力を込める。

◎守備―守備―特性知り連携向上

 昨秋の関東大会決勝。健大高崎は六回終了時点で常総学院(茨城)を3点リードし、優勢に試合を進めていた。ところが、七回に失策で先頭打者の出塁を許すと、3人目の打者のバント処理にも失敗。試合のリズムを相手に渡して、この回5点を失った。九回に追い付き、延長で勝ち越したが、守りが課題に残った。

 不安定だった要因の一つに、例年とは異なる夏までの練習条件があった。昨夏の県大会は3年生(当時)だけのチーム編成で臨むと決め、2年生以下は打撃練習に集中したが、その分、守備に費やす時間が減少。秋の県予選前のノックでは打球に対する内野手の反応が鈍いなど粗削りな面が目立った。

 選抜大会に向けて、ナインは昨 年12月から土台固めを始めた。未熟だった捕球はゴロ取りといった基礎練習から始め、ボールへの入り方や捕った後のステップを反復。片手でキャッチしてもこぼさないよう、グラブを置く位置まで細かく確認した。一から技術を向上させ、徐々に隙をなくした。

 新たな取り組みとして今冬、選手は全ポジションでノックを経験した。ポジション別の特性を知ることで「本来の守備位置に戻ったときに、仲間のことを考えながら連係を図れる」(生方啓介部長)。複数のポジションを守る力を培い、卒業後の活躍の可能性を高める狙いもあるという。

 守りで活躍が期待される遊撃の吉里竜門は「以前は苦手意識があったが、冬の練習で自信が出てきた。普段と異なるポジションを体験して、仲間への声掛けも積極的になった」と成果を語る。

 今後は、本番までいかに守備を仕上げられるかが上位進出の鍵になる。今年初の対外試合となった6日の山梨学院との練習試合は投手、内野手で3失策したものの、捕球直前に目を離したことが原因と判明。翌日の明秀日立(茨城)戦は安定し、徐々に成果が表れている。

 秋は公式戦10試合で13併殺を奪ったように、基本的なミスさえなければ守備は大きな武器になる。実戦経験が少なく、打撃で大量点を奪いづらいとされる選抜大会の目標は「3点以内に抑えるのが理想」(生方部長)。春の甲子園の頂を目指し、歩みを進める。

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