《白球の詩》チーム唯一の安打 母の後押しに「感謝」 安中総合・石井涼外野手
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四回裏、小田切の三ゴロが敵失を誘い、三塁へ向かう石井。走攻守で躍動した=上毛新聞敷島

 「高校野球をしていなかったらどんな夏だっただろう」。梅雨が明け、強い日差しが照り付ける上毛新聞敷島球場のグラウンド。安中総合の石井涼は右翼のポジションから夏の青空を見つめた。

 小学5年で野球を始め、安中二中では野球部に入ったが、「何も考えずに、ただ投げて、ただ打っていた」。「9番右翼」で試合には出たが、夏の市大会は初戦で敗れた。結果が出ず、面白さを感じなくなっていたこともあり、「野球を辞めよう」と思っていた。

 しかし、母親のみゆきさん(42)は「せっかく続けてきたのにもったいない」と何度も声を掛けた。「少ししつこく言いすぎたかも。でも横道にそれるよりは、大好きな野球にまた熱中してほしい」。息子を思う親心があった。

 入学前に悩んだ。厳しい高校野球について行けるのかという技術的な不安もあったが、一番は一人で育ててくれた母親にこれ以上、負担を掛けたくないとの思いがあったからだ。

 中学の先輩や吉田省吾監督の勧誘もあり、グラウンドを訪ねた。そこで目にしたのは厳しい上下関係がなく、純粋に野球を楽しんでいる先輩たちの姿。思い描いていた高校野球のイメージとは違うものだった。

 「また迷惑かけちゃうかもしれないけれど、野球やっていいかな」。みゆきさんに告げると「自分の好きなことなんだから一生懸命やったらいいんじゃない」と背中を押してくれた。

 入部後、周囲とのレベルの差を感じたが、徐々に力を付けた。「プレーの意味を考えるようになって野球が楽しくなった」。自主練習をすることで、吉田監督も驚くほど技術が上達。チームに欠かせない選手になった。

 この夏は1回戦を突破し、2回戦で春の県大会を制した関学附と対戦。2番打者としてチーム唯一の安打を放つなど3度出塁したが、1対9で敗れた。スタンドで観戦したみゆきさんは「野球をやっている息子から力をもらって、私も頑張れた」と目を潤ませた。

 試合で活躍できた日、やる気が出ず練習を休んだ日、部室で仲間とふざけあった日。当たり前の日常が宝物となったのも、あの時の母の後押しがあったから。「高校野球をやらせてくれてありがとう」。最後の夏が終わった。照れくさいが、少ししたらこう伝えるつもりだ。(吉野友淳)

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