《白球の詩》エース、重責越え成長 「一人じゃない」仲間信じ 桐生第一・神宮僚介投手
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前橋育英戦の8回裏2死一、二塁、育英の打者を三振に切って取り、雄叫びを上げる桐生第一の神宮=上毛新聞敷島

 八回2死一、二塁。七回から登板した桐生第一のエース右腕神宮僚介は、暴投と四球でピンチを広げた。続く前橋育英の5番打者を1ボール2ストライクに追い込むと、4球目の投球前に三塁宮本亜鈴(あず)の顔を見た。「自分は一人じゃない」と、確認するためのルーティーンだった。

 ベンチからは「粘れー」「気持ちだ、神宮」と矢継ぎ早にガラガラの声が聞こえてきた。「絶対にここで攻撃を断ち切る。流れを持ってくる」。1番自信のあるスプリットを外角に投じ、空振り三振。右拳を握り締め、雄たけびを上げた。

 「マウンドから逃げ出したい」。高校入学後の2年半、何度そう思っただろう。下級生の頃からエース候補と期待されたが、プレッシャーに弱かった。走者を背負うと制球が乱れ、大量失点した。

 昨秋の県大会後、今泉壮介監督から主将を任された。4月に1年生36人が入部。上級生に劣らぬ能力の高さで競争が激しくなると、98人の大所帯をまとめる難しさに悩んだ。ピンチでの投球同様、「自分でなんとかしようと思いすぎて」誰にも相談できなかった。調子もみるみる落ち、球速は5キロ下がった。

 そのまま迎えた春の大会は関学附にコールド負け。背番号1を付けたが、1度も登板せずに終わった。試合後の自宅までの帰り道。いつもなら母の香代子さんと車中で話をするが、この日はずっとイヤホンで音楽を聞いていた。

 その後に変わるきっかけがあった。春の大会後、同級生4人が学生コーチやマネジャーなど裏方に回ることを申し出た。選手としてグラウンドに立ちたい気持ちを抑え、ノッカーや打撃投手を務める姿に「チームを強くしたいのは自分だけじゃない」と気付かされた。学生コーチの高橋塁は主将を代わってくれた。「もっと自分たちを頼ってほしい」という思いが身に染みた。

 高校最後の試合。前橋育英に敗れはしたが、2回無失点。走者を出しても右手でアウトカウントをつくって外野手に声を掛け、ベンチの声にうなずいた。今泉監督は「内容は良くなかったかもしれない。でも最後をゼロで抑えられたことが成長」と褒めた。

 投手というポジションを孤独に感じたこともあった。でも違った。泥だらけになってボールを受ける1年生捕手、顔を見る度に声をかけてくれる2年生の三塁手、スタンドでメガホンを振る3年生。98人全員が一緒に戦った。「仲間のために、と思ったら、思い切り腕を振れた」。マウンドから逃げたいとは思わなかった。(越谷奈都美)

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